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二譚 生徒会からの手紙

 

「七不思議って、学校の怪談とかでよくある?」


「そう、それそれ。学校じゃなくて、千間台の七不思議だけど」


「聞いたことないな、そもそもこの辺り七不思議ができるようなスポットあったっけ」


「図書館で偶然見つけたのよ。近くにいる神様にまつわる七不思議なんだけどね」


「神様ぁ?」


「ほら、あそこの裏山あるじゃない。あそこの神社で祀られてる神様の七不思議があるのよ」


小夜が指さした先、校舎裏には小高い丘ほどの裏山があった。 

 小さい山ではあるものの、ここら一体は田園風景広がる平坦な土地であり、小さいとはいえその中に堂々と立つ裏山はそれなりに存在感がある。


「あぁ、あそこね……神社なんてあったんだな」


「私も初めて知ったんだけどね……ここらへんで信仰されてた、ハルカミさまっていう神様を祀った神社なんだって」


「ハルカミサマ?」


 私はその名前に眉をひそめる。


「ハルカミサマってあの……最近噂になってる?」


「以外ね、あんたが知ってるなんて。誰に聞いたの?」


「んー? 誰だったかなぁ……確か、背の低い女子だったかと思うんだけど」


「ボッチのあんたが? 誰よ? かわいかったの?」


「随分と食いつくな……よく覚えてねーよ」


「呆れた。そんな顔もよくわからない女子と都市伝説の話したの?」


「いいだろ別に、よく覚えてねーけど聞いたことがあるのは確かだよ」


 【ハルカミサマ】


 この学校で最近突如として話題になった都市伝説のようなもので、身長3メートルはあろうかという巨大な人型の何かが、夜な夜なこの校舎前を通り過ぎて裏山へと消えていくというものであり、このハルカミサマに気に入られた人間は何処かへと連れ去られてしまうのだとか。

 

 誰が持ち込んだのか、それとも今まであったものが話題になり始めたのか。

 4月の始まりと同時にあっという間に広まったこの噂話は、一週間で全校生徒が知るほど有名なものになっていた。


 当然のことながら行方不明者など一人として存在はしておらず、私も小夜も含めて誰一人として信じてなどいない。


 高校生が抱く……この世のものではない存在への渇望、それが学校の怪談。

 あったらいいなという願いが生み出した妄想の産物であり、怪異という名の不自然を、恐怖というもので包み隠し現実のもののように語る遊びに近い物語。

異世界、超常現象を渇望する私たちは……面白おかしくうわさ話にすれど、それを怪異と信じるには、高校生という存在は大人になりすぎている。


 いるはずはない……だけどいてほしい。 


 そんな二律背反する思いを抱きながらも、私たちは怪談というものを語るのだろう。

 そういう意味では、怪談とは私たちに最も近しいファンタジーともいえる。


 そう、だからこそその時の私は、この話もファンタジーであるのだと思っていた。


「裏山にそんな物騒なもんが祀られているとは初耳だな。もしかして連れ去られるって噂話が七不思議の一つなのか?」


「あんたにしては察しがいいわね……その通りよ。そしてハルカミサマのお話だけでなくて、ほかにも似たような不思議が六つあるらしいのよ……例えば、死んだ人と話せる電話ボックスとかね。気になったから図書館で借りてきちゃった」


小夜が取り出したのは、ボロボロになった古い本。

背表紙も破れかけて虫食いのあとも見られた……よくもまあ手に取ろうと思ったものだ。

その時の私は内心でそう思ったが、目を輝かせる小夜にその言葉はそっと飲み込んだ。


「遥カ見様……こんな字を書くんだな」



【桜花千間台七不思議帖 遥カ見様】


本の表紙にはボロボロでかすれてはいたものの確かにそう書かれていた。


もちろん、七不思議帖などと古めかしい言葉を使ってはいるが、本のつくりは最近の様式であり、古いと言ってもせいぜい20年~30年前くらいの物であった。


関心を私が持ったことに満足をしたのか、小夜は鼻息を荒くしてさらに言葉を続ける。


「ちょっと読んでみたんだけど、遥か遠くを見渡せるほど背の高い神様だからそんな名前が付いたみたいよ? そして、気に入った子供をさらう怖い神様でもあるんだって、でも反面人々に春をもたらす神様でもあるとか」


「いい奴なんだか悪い奴なんだかはっきりしねえ奴だな」


「日本の神様なんてそんなものよ、多神教の神様は大体ね」


「はた迷惑な」


「あんたと同じね」


「どういう意味だよ」


「さぁ、どういう意味でしょうね?」


 くすくすとからかう小夜の子憎たらしい姿を知っているのは、恐らく当時は私だけだろう。彼女はライライのことはからかわなかったし、この部屋を一歩出たら絵にかいたような優等生に戻り全校生徒を欺くのだから。


「はいはい、どうせ気まぐれで自分勝手ですよ。猫かぶりオカルトマニアめ。いつか全校生徒の前でその本性が暴かれることを心の底からお祈りしているぜ」


「オカルトマニアとは失礼な、ホラーとスプラッター、そしてコズミックをこよなく愛する

文学少女よ私は」


「完全に黒幕じゃねえかそれ」

 

「ええそうね……というわけで二人を生贄に邪神召喚をしたいから、七不思議についてみんなで調べない?」


「行くわけねえだろ、正直者かお前は」


「生贄じゃなくて邪神になるほうが良かったかしら?」


「そっちじゃねえよ!? 死にたくないんだよこっちは」


「そう、残念ね……スカートたくし上げて見せてもだめ?」


 究極の選択だった。


「っっっっっへぁっっっっっ!? あっ、いやダメ!」


「めっちゃ悩んだわね」


「うるせえ! というか女の子が平然とそんなこと言うんじゃありません!!」


「スパッツだから恥ずかしくないもん……えっち」


「!!???!」


「ふふっ……顔、真っ赤だよ?」


 ちなみに、高校に通っていた三年間。私には水無瀬小夜に口で勝利したことは一度もなかったと記憶している。

 なので、こうやって毎度彼女にからかわれては、最終的にはふてくされるのはいつものことでありその日も何の変りもなく私はあっさりとからかわれた。

 我ながら情けないとは思うのだが……しかしながら今思っても彼女はからかい上手である。

 

「畜生……おとなしい顔してからかいやがって、何がなんでも七不思議なんて調べてやんねえからな」


「ふふふ、これを見てもまだそんなことを言っていられますかな?」


 小夜はそう勝ち誇ったような顔をして、かばんから一枚の紙を出した。

 それは学校で配布されるプリントのようなわら半紙ではなく……しっかりとした真っ白なコピー用紙だ。


「なんだこの紙」


「生徒会からよ」


「うげぇ」


 見ると確かに、紙には【生徒会】と書かれた判子が押されていた。

 正直な話、研究会や部活動に生徒会から紙が届くときは……決まってよろしくないことが起こるときである。


 上司に【ちょっと話があるんだけど】と呼び出された時と同じだ。


「なになに……奇譚研究会 会長水無瀬 小夜様。 この度、生徒会役員一同は奇譚研究会の活動実績の報告がないことに加え、事実上の活動が行われていないことに際し、警告及び二週間以内の活動実績の報告の提出を求めることといたしました。 なお、報告書の提出がない場合、予算の廃止および研究会の廃部となるため速やかな提出を推奨いたします……だって……」

 

「ええ、てなわけで、ここいらで民俗学研究のようなことをしておかないと、ここから追い出されちゃうってわけ」


「のんきにトランプやってる場合じゃ無かったよね小夜さん!?」


「トランプやりたくて」


「のんきか!?」


 ちろりと舌をのぞかせてそういう小夜に、私は思わず突っ込んだ。

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