来房者
目を開く。
またいつも通りの白。だけど、今回は既に来客が来ていた。
「やぁ」
長髪を後ろで結んだ黒マントの男が軽く手を挙げた。
「どうも」
いつも通り素っ気なく返した。でも男はさして気にする様子もなく、近づいてきて私の目線に合わせて腰をおった。
「君が噂の白夢の少女、か」
「なにそれ」
「俺らの間で君はそう呼ばれてるんだ。名前も目的も分からないのに死夢を見続ける少女ってね」
「……」
探るような瞳に、私はそらすことなく見つめ返す。そのまましばらくそうしていたら、先に男の方が吹き出して沈黙を破った。
「ははは。なーんてシリアスな雰囲気を出してみたけどしょうに合わねぇや」
「へ?」
「やめだやめだ。白夢の少女の正体を探れって言われたけど、そんなの俺の性分じゃねぇっての。だからお前も楽にしていいぜ。別に無理やりお前が何者かとか目的がなんだとか聞き出そうとしねぇから」
うーんと伸びをする男からは先程までの真剣さは欠けらも無い。あまりの変わり身に私は思わず吹き出してしまった。
そんな私に、男は嬉しそうに微笑んだ。
「仏頂面してるより、笑った方が可愛いじゃねぇか」
「あはは。ナンパでもしてるつもり?」
「ん? あんたがいいならそういう事でもいいぜ?」
「なにそれ」
しばらく二人で笑って、そろそろ時間だと気づいて息を整える。
「貴方って今までの人と違うわね」
「あー…… 変わり者だって言われてるからなぁ」
ポリポリと頬をかきながら笑う彼に、ふっとまた笑みがこぼれる。
そういえばこんなに笑ったのは何時ぶりだろう。夢の中でとはいえ、なんだか少し心が軽くなった気がする。
「なぁ。また話さないか? どうせまだお前は死夢を見続けるんだろう?」
「そうね。まだ私の願いは叶えられていないから」
「そうか。じゃあまた会おう。俺はイサミ。君は?」
イサミの問いに私は返事の代わりに笑みが向けた。それと同時に白い光が辺りを包み、景色が薄らいでいく。
「またね。イサミ」
それだけ言って私の目の前からイサミはいなくなった。