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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十章 ほんとうのやさしさ編
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第九百九十九話 三将不和

アガルタの斥候部隊クロサギの動きは素早かった。彼らはすぐさま、イルシの砦において、マダク、ガヅマ、ザワシゲの三人の司令官の仲が上手くいっていないことを掴んできた。


むろんそれはヘルキソ王の耳に入っており、当然それは、ガノブの部下であるアミダバルにも報告されていた。ヘルキソ王は、側近であるスガに命じて、イルシの砦に赴いて、その事実を調べるよう命令した。彼はイルシの砦近くの出身であり、砦の内部の事情にも明るいと考えられての人選だった。


スガは数駒を率いてイルシの砦に乗り込むと、三将の言い分を聞くようにと、国王様に言われてきたのだと言った。彼らは喜んでスガを迎えた。話の通じる相手が来たと思ったのである。


三将不和の原因は、その恩賞の分配であった。


砦を落とした際、彼らはアガルタの兵士が持っていた三十本の剣と鎧を手に入れた。鎧は、各自各々に合わせて作られており、それはどれも大柄のものだった。一方で剣に関しては誰もが使えるものであった。


見事な剣だった。さすがにドワーフが作り上げた剣だけあって、丈夫さや切れ味は彼らがこれまで見たこともない程の質を誇っていた。それらは取り敢えず、ガノブの部下であるアミダバルの許に集められた。この軍勢の中で最も多い兵士を引き連れていたため、取り敢えず、彼を総司令官と見なしていたのである。


「この見事な剣をお下げ渡し願いたい」


マダクはアミダバルに当然のことのように言った。


「三十本のうち、ニ十本はこの砦の手柄として与えよう。しかるべく分けるがいい」


アミダバルはカヅマ、ザワシゲの両方に目を配りながら言った。


しかるべく分けるがいいと言った剣の分配を委任されたマダクは、その場で、ニ十本の内十本は自分が取り、あとの五本ずつをカヅマ、ザワシゲに分け与えた。カヅマは厚く礼を言ったが、ザワシゲは不平面をしていた。この砦の攻撃計画を立てたのはザワシゲであり、アガルタの兵士を襲って三十本の剣をことごとく奪ったのもザワシゲの手下の者であった。彼は少なくとも分補品の半分の十五本は自分が貰う権利があると思っていた。そのうちの十本は手下の者にやらねばならない。そうしなければ、手下の者たちが黙っていないと思っていた。


三将は司令官という位置づけであったが、その内実は、ヘルキソ王国の大地主であり、彼らが従えている兵士は、そこで働く農夫たちであった。


マダクは三人の中で年長であるというだけでこの砦の主になっているまでのことで、実戦の采配を振るったのはザワシゲだった。マダクとカヅマ、ザワシゲの三名は同じくヘルキソ王の家来であるが、所有している土地も国王に収めている税もザワシゲがマダクより多かった。


「不服なのか」


マダクはザワシゲに言った。


「不服だ」


するとマダクは彼の十本のうちから一本の、柄に傷を受けた剣を取ってザワシゲに与えた。ザワシゲの眼がきらりと光った。そのときすでに、彼の心には叛意が芽生えていた。


そんな中、スガはまず、マダクに会い、次にカヅマに会い、最後にザワシゲに会った。


マダクとカヅマはそれぞれの手柄を語った。自分一人でアガルタの兵士を打ち倒したようなことを言った。ザワシゲは、手柄を語らずに不満を語った。


ザワシゲは配下の兵士たちが奮戦して分捕った剣三十本の分配方法が不公平であると言った。こんなことをされたのでは、この後アガルタ軍が攻めてきても、兵士たちは働かないだろうと言った。


スガは頭の中で勘定した。数の上からではそれぞれおかしくはなかったが、ザワシゲの話を聞いていると確かにその分配は不公平であった。戦いを勝利に導いたのはザワシゲの部下が死に物狂いの戦いであった。その功績に報いるのには、剣六本は過少であった。


「しかも、六本のうち一本は、傷がついた剣です」


ザワシゲは、マダクが、しぶしぶと、差し出した六本目の剣が疵物だったことを口をきわめて罵倒した。


「よくわかった。城に帰って国王様にそのことを申し上げよう。しかし、一度決まったことだから、よほど上手にやらないと、マダク、カヅマの両将の面目を失することになる」


ザワシゲの怒りをおさめるには、アミダバルがまきあげた十本のうち五本を、何とか名義を付けてザワシゲにやらねばならないだろうと思った。


「貴殿のご家来で、主だった者は何人いるかな」


「恩賞として剣をやろうと思っている者が十名はおります」


「すると、あと五本の剣を何とかすれば、貴殿の家来はおさえられるということになるのだな」


ザワシゲはそういうスガの腹の内を読むような目つきをして、


「もし、それに見合うだけの恩賞がなければ、私の部下はこの砦を見捨てるでしょう。彼らの生活は貧しい。この砦の周囲の土地は土が肥えている。彼らはもしかすると、この豊かな土地を手に入れられるのではないかと思っている。それが無理でもせめて、よい剣を手に入れられれば、それを売ってそれなりの金を得ることができる。私は、彼らの貧しさを利用してただ働きをさせるわけにはいかないのです」


スガは早速、アミダバルの許に向かい、このことを話した。


「この際は目をつぶって、剣五本を、ザワシゲにお下げ渡しいただきたいと存じます。彼らの兵力は、貴重です」


スガは口をきわめてその理を説いたが、アミダバルは首を縦に振らなかった。


「剣の一本や二本のことで砦を出るというなら、出してやればいい。もともとそんな貧乏農夫など、あまりあてにはしていない」


剣の一本や二本のことと口で言いながら、偶然のように手に入った十本の剣を一本も失いたくない気持ちを露骨に出しているアミダバルを見ながら、スガは渋い顔をした。


……何ということを。アミダバルという人がこれほどケチな人間だとは思わなかった。


浮かぬ顔で屋敷に帰ったスガは、家来のオノサに愚痴をこぼした。


「アミダバル殿のなされ方は情けないと存じますが、やはり、この国全体のことを考えてのことでしょう。私は以前からザワシゲ殿を知っておりますので、これからイルシの砦に行って何とかなだめて参りましょう」


オノサは三十を過ぎたばかりだった。若いから頭の回転がはやかった。世間の情勢もある程度掴んでいた。どのみち、ヘルキソ王はアガルタ勢に屈服させられるだろうという見当もつけていた。このオノサはすでに、アガルタの放った斥候部隊、クロサギの一人と通じていた。


リノスはこの情報を受け取ると、しばらくの間天を仰いでいたが、やがて立ち上がると、シディーを呼び出した。


「シディー。少々まとまった金が必要になった」


「一体何に使おうと?」


「イルシの砦を買うために」


そう言ってリノスはシディーの顔を見つめた。シディーのクリッとした目と、リノスの優し気な目が真っすぐぶつかった。どちらも動かず、それぞれの眼の中に相手を吸収しようとしていた。言葉はないが、目で十分に語り合っていた。


「金で砦が買えるなら、安いものです。すぐに買いましょう。幸い、これから排石場の鉱石から金を再採取するところです。その金で十分に砦は買えることでしょう。それどころか、さらに大きなものも手に入るかもしれません」


「ほう、そこまでは思っていなかったな。シディーの直感か」


リノスの言葉に、シディーはゆっくりと頭を下げた。その体からは、自分の直感に間違いはないという確固たる自信が漲っていた。


「それに加えて剣を五本ほど持って来ましょう」


「剣? 何に使うのだ?」


「イルシの砦を買い入れるについての、引出物にすればいいと思います」


「……ほう、詳しく」


シディーは大きく頷いた。

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