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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十章 ほんとうのやさしさ編
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第九百九十六話 金山奪取

ゲヌツ王から、アガルタの提案を受け入れると返事があったのは、翌日のことだった。ある程度の混乱や反乱の動きがあることを予想していたリノスたちは、その言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろした。


リノスらはまず、宰相と軍の総司令官に関して、アガルタの人材を充てることとして、すぐさまリコとマトカルに命じてその人選にあたらせた。軍の中にはそれに反発する者も当然いたが、表立った抵抗はなく、そうした者たちは後に国を去っていった。


まさしくリノスらは、ヒーデータのヒートの言った通り、一滴の血を流すことなくルレイク王国を支配下に置くことに成功したのだった。


それからの彼らの行動は早かった。すぐさま食糧などの物資を運び、駐屯してきたアガルタ軍の兵士たちがざわついている国内を静めた。さらには、メイたち率いるアガルタ大学の者たちが、荒廃しかかっていた農地の復興に当たった。


誰に言われるでもなく、アガルタの者たちはよく働いた。そうしたこともあり、当初は否定的な目を向けていた者たちも、徐々にその考えを改めるに至った。


リノスらはこれまでの経験を通じて、まずは民衆に対して手厚い支援を行うことで、彼らの支持を得ることに勤めた。それは予想以上の効果を発揮し、民衆はこぞってアガルタの活動に自主的に協力する姿勢を見せた。こうなっては、ルレイクの軍人たちも高みの見物を決め込むわけにもいかず、彼らは徐々にアガルタ軍の指揮下に置かれることとなった。


新しく宰相に任じられたのは、ノブザという男だった。彼はアガルタ軍に所属する軍人であったが、あまり目立った存在ではなかった。それは、彼が武人というより文人に近い人柄だったからだ。軍人が国を動かしているルレイクであるだけに、リコはそこに置くべき人間には、非常に頭を使ったのだった。


ノブザを選んでこの地に送ったリコの考えは、ルレイクを治めるには武よりも和であると考えたからであった。ノブザはそれに応えた。一見すると華々しい功名手柄はないように見えるが、リノスらの考えを理解し、ルレイクの軍人たちを説得し、政策を軌道に乗せたのは偏に、彼の手腕と人柄によるところが大きかった。


そんなノブザをリノスはワカロ金山に向けた。彼は金山を武力によってのみ奪取しようと言うのではなく、できたら、金山に従事している者を含めてそっくり現在の陣営に加えておきたかったから、その交渉役として、武人よりも文人に近い、ノブザを差し向けたのだった。


ワカロ金山はすでにアガルタの説得に応じていた。金山を統括していたクルボはアガルタに従う旨の誓紙を送ってきていた。


ノブザは八百の兵士と共に金山に向かった。彼はまず物見を出して、金山の防備を探った。金山の防備軍はほとんどいなかった。百人にも足りない兵士がいたが、これは元々戦うための兵力ではなく、治安維持のためのものであった。鉱山だから気が荒い者が多くて、しょっちゅう喧嘩はあったし、中には、契約条件を無視して途中で他の鉱山へ逃げてしまう、渡り石工もいた。それらの者を取り締まる兵力が約百人であった。


ノブザは金山に入る前に兵士たちを前にして演説を行った。


「けっして、相手を傷つけるようなことをしてはならない。ワカロ金山はそっくりアガルタのものになるのだからそのつもりでかかるように」


アガルタ軍は山に入るとすぐに、金山を管轄している者の屋敷に向かった。ノブザックと名乗った男は丁寧にノブザらを迎えると、一旦奥に下がり、数名の者を連れて戻ってきた。


「ワカロ金山は今日の日を以ってアガルタのものとなりました。ここに金山の図面がございます。お改めくださいますように」


ノブザックは、金山の図面に添えて、金山の主なる資料をそこに並べた。


「私のノブザと貴殿のノブザックは同じ名前が入っている。ここで会ったのも偶然とは考えられないような思いがします」


ノブザはノブザックに優しい言葉をかけてやった。


ワカロ金山の査収は十日間にわたって行われた。査収というよりも金山に対する専門家による徹底的な調査であった。


この間、八百の兵たちは、立ち退いた住宅の跡とか、小屋などに分散して泊まった。それはノブザックらの好意によるものだった。一方でその調査の最高責任者としてアガルタの都からリノスの妃の一人であるコンシディーがやって来ていたので、兵士たちは厳重な取り締まりを行ったため、金山に踏みとどまった人たちとの間に悶着が起こることはなかった。


シディーは金山に着くなり、大きく深呼吸をして、傍に控えていたノブザに兵士たちに金山周辺に防塁や柵を作るように命じた。ノブザはその意図を測りかねたが、いつかは盗賊などが金山奪取に攻め寄せるものと見ていた。


その金山の調査は、アガルタ及び、コンシディーの実家であるニザ公国からやって来たドワーフたちの手で行われた。


コンシディーを中心に、鉱山師のオオクとバヤジ、振矩師のモモカが中心となって、測量が行われた。鉱脈の有無、鉱石の良否、通気口、排石場などがくわしく調査されたうえで、今度は、精錬法について調べが行われた。


調査は十日で一旦終了したが、シディーの発案で、さらに五日間の追加日程を組んで調査が行われた。


リノスは十五日に及ぶ調査が終わったその後で、シディー、オオク、モモカの三人を呼んでその結果を聞いた。そこには鍛冶スキルを持つメイも同席していた。


「結論から言いますと、かなり掘ってありますが、まだまだ鉱脈はあります。石工の人数を現在の倍にして掘ったとして、五年や十年で掘りつくせるという鉱山ではありません」


シディーが言った。


「金の埋蔵量は大体の目安では三十万枚というところかのぉ」


モモカが言った。


「いままでルレイク側がやっていた金の採取方法は予想以上に旧式なものだったから、彼らが捨てた排石の中から少なくとも十万枚の金貨が作れると見て、間違いないと思うンだな」


オオクが言った。


「俺が聞いたところによると、その金山は枯渇していて、それがためにルレイクは隣国であるアルガワに侵攻したということだったが……」


「ああ。あの金山の底には、硬い岩盤があるのです。彼らはその岩盤の下まで調査していなかったのが原因ですね」


シディーがすました顔で言った。


「つまりは、今回の騒動はルレイクの技術不足が原因ということか……」


「そうとも言い切れません」


「うん?」


「硬い岩盤を砕くのには相当の技術力が必要になります。我々アガルタはメイちゃんの技術力で何とかなりますし、実家のニザ公国では何とかそれは可能ですが、他の国はまず、できないことだと言えます。粗末な道具でコツコツと掘り進めていたルレイクの技術ではあの岩盤を割ることは難しいでしょうし、岩盤は割れないものだと認識してしまうのは、無理からぬことだと思います」


「そう、か……」


「色々調べてみてわかったのですが、あのワカロ金山は相当の豊鉱です。それに、ルレイクの採取法はお粗末以外の何物でもなく、かなり金を無駄にしていました。我々の持つ技術を使えば、金山の産出量は相当に伸びると思います」


「どのくらい伸びるのかな」


「少なくとも倍以上にはなると思います」


「その金は、ルレイクの人たちのためになるように使うようノブザに命じておくよ。それにしても、ドワーフの技術力はさすがだな。本当に、シディーが側にいてくれて助かったよ。これからも、ずっと俺の傍にいてね」


リノスの言葉に、シディーは顔を真っ赤にしながら頷いた。そんな様子を皆は笑みを浮かべながら見守るのだった……。

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