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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十章 ほんとうのやさしさ編
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第九百九十二話 静観

それからひと月経ったが、ルレイク王国には特に何事も起こらなかった。アルガワにおけるアガルタ軍の活動もある程度は完了しつつあり、俺はホルムにキリのいいところで撤退するように命令を下した。


ちなみに、ホルムらアガルタ軍の兵士たちはアルガワにおいて大人気らしい。それはそうだろう。略奪などの犯罪に走る者は皆無であると同時に、厳しい訓練を乗り越えてきているので体力は人並み以上なので、大抵の力仕事は難なくこなせてしまう。その上、兵士たちには普段の給料の他に臨時ボーナスを支給していて、その金をアルガワで使うので、町の人々からは大いに感謝されている。その金が、アルガワ国内で回りまわってこの国の復興を助けていくのだ。


このひと月の間、俺はルレイクに放った斥候たちからの情報を集約していた。そして、それらを分析して、このアルガワとルレイクの戦いの原因を突き止めることができた。


この戦いの最も大きな要因は、ルレイクの金山が枯渇したことだ。金山が枯渇すれば国力は大いに落ちる。だから、隣国のアルガワの金山を奪取しようと軍を動かしたというのが大体の流れだ。


どうしてそんな考えに至るかね、と心の中で呟く。せっかくアルガワをはじめとする近隣諸国と同盟関係にあるのだから、そこに助けてもらえばいいじゃないかと思う。まあ、この国は隣国に攻め込もうとしていた計画もあったようだから、ある意味で助かっている者も多いのかもしれない。


その枯渇した金山だが、試しにシディーに聞いてみたところ、おそらく相当な無駄がある、とのことだった。どうやら彼女の許にはルレイクから留学生が来ているそうだが、その彼から金の採取方法を聞いたところ、かなり古い技術を用いているらしい。それに、ルレイクで一番の技術を持つと言われているその彼が、基礎的なこともほとんど知らず、能力としてはかなり微妙らしい。


「あれが最高戦力と言うのであれば、ルレイクの技術は子供レベルです。金が採れているだけでも奇跡です」


……シディーは容赦がなかった。というのも、留学してきた彼は日々飲んだくれてアガルタの技術を習得しないのだと言う。何だかなぁ、という感じだ。


たらればの話になるが、もしルレイクが金の採取方法についてアガルタに助言を求めてきたならば、俺は相談には乗っただろう。おそらく、ドワーフの一人でも派遣してくれとシディーに頼むことだろう。そうなっていたらと考えてみるが、今ではどうしようもないことだ。


相変わらずアルガワは国境地帯に軍を配備したままだし、ルレイクも特に大きな動きはない。とはいえ、南からの物資の供給は止まったままなので、ルレイク国内では徐々にいろいろなものが不足しがちになってきているのだそうだ。そんな状況下にあるのだから、王はなりふり構わず周辺国に助けを求めると同時に、アルガワに詫びを入れた方がいいと思うのだが、そうしたこともどうやらしていないようだ。


ルレイク王は何を考えているのだろうか。他国に頭を下げるのは恥だと思っているのだろうか。だとしたら、余計なプライドだと思う。そんなプライドは持たないに限る。俺だったら、ヒーデータやサンダンジに頭を下げ回るだろう。まあそれは、同盟国が大いに信用に値するからなのであって、ルレイクはそうした関係を持つ国がないのかもしれない。確かに、さすがにヴィエイユには助けてくれとは言えない。後で何をされるのかがわかったものではないからだ。まあ、アガルタも兵士が数名命を落としているので、俺もあまり積極的に動こうとは思わないのだが。


そんなことをしているときに、何とガノブが使者を送ってきた。一体何事かと思ったが、内容は予想した通り、ケンシンを引き渡して欲しいという願いだった。


彼は使者の男に夥しい進物を持たせてアガルタに寄こした。どれも珍しいものばかりで、さすがはガノブと言ったところだった。その中には豪華な剣と鎧もあり、マトカルに叩き折られ、傷つけられたた剣と鎧に対する当てつけであることはすぐにわかった。確かにいいものではあったが、マトカルの剣はデウスローダの戦いで鹵獲した特級品のものであるため、ガノブのものとは比較にすらならなかった。一方で鎧に関してはそれなりのものだったが、彼女の鎧はメイとシディーが鍛えた業物で、さすがに俺のものには劣るが、実に軽く、動きやすいもので、彼女も特に気に入っているものだ。従って、ガノブの進物に彼女の心が動くことはないのだった。


その使者の男は、挨拶もそこそこに、出し抜けにケンシンを我が国の幹部として迎えたい、などと宣った。


「聞けば、こちらでは顔を布で隠した軍人の姿など見たことはないと言っておられたが、そもそもケンシンという者は、本当にアガルタ軍に所属なさっておいでなのか」


思わずギクリとしたが、そこは動揺を微塵も見せずに対応した。


「それは、少し想像していただければわかると思いますが、年がら年中顔を布で覆っている者など見たことがありますか。ケンシンも人です。この都や心許せる場所では素顔で暮らしています。あの格好はあくまで人前に出る時だけです」


「左様でございますか……」


男はさも残念と言わんばかりの表情を浮かべた。彼としては、俺の口からケンシンなどという男はいないという言質を取れば、ガノブの追及をかわせると思っていたらしい。使者としても空手で帰るわけにもいかず、彼は俺にアガルタ王の名前でケンシンは渡さないと書状を書いてくれと言ってきた。何で俺がそんなことをしなきゃならんのだとは思ったが、できるだけガノブとは距離を取っておきたいので、渋々ながらその要求を入れることにした。


ケンシンは我がアガルタの柱石であるので、他国に渡すことはない。彼に関しては諦めてくれ。だが、彼に目を付けたのは、実にいいセンスをしている。


そんなことを丁寧に書いて、使者に持たせてやった。こんなことであの粘着質なガノブが諦めるとは思えないが、まずは国としてガノブの希望は断っておいた。


その直後だった。ルレイクで反乱が起こったという報告があったのは。


謀反を起こしたのはバルバという宰相だった。てっきり俺は、リボーン大上王が予想したように軍がクーデターを起こす可能性が高いと思っていたが、まさか、文官が反乱を起こすとは思わなかった。


表向きの理由としては、物資が入って来ずに民衆の暮らしがひっ迫している。そんな中、王は何もしなかった。バルバらはこの状況を打開するために様々な提案を行ったが、王は首を縦に振らない。であれば、王を排除して自分たちの政策を前に進めようとしたというものだ。


そのバルバら文官はルレイク王の房室を襲ったらしい。だが、王はその襲撃を躱して城を脱出したらしい。さらには、王の親衛隊が彼の周囲を守っているのだという。


これではバルバは勝てる見込みはない。まさか軍ではなく文官に反乱を起こさせるとは悪手も悪手だ。これは俺でもわかる話だ。もしかすると、アルガワ側は、軍の関係者に政治をさせると、思ったような方向に進まない可能性を危惧したのだろうか。であれば、これまで政治を担ってきた者たちに襲わせた方が、スムーズにルレイクを併呑できると考えたのだろうか。いずれにせよ、軍の力を過信していたと言わざるを得ない。


今のところアルガワ軍に動きはなく、静観を決め込んでいるようだが、バルバに勝ち目がない状況となれば、本気でルレイクを併呑するならば、アルガワは軍勢を送らねばならないだろう。となれば、ルレイクの民衆は戦い巻き込まれることになるのだ。


「とはいえ、俺たちに何かできることは、今のところないかな」


俺はそんなことを考えていたが、それは、すぐに覆されることになった……。

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