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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十章 ほんとうのやさしさ編
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第九百八十四話 十分な情報

襲撃を逃れたアガルタの兵士たちは翌日、アルガワの支援に向かう本隊と合流した。部隊を率いていたのはホルムであり、彼は事の顛末を知って驚愕した。だが彼はそれで取り乱すようなことはなく、あくまで冷静に判断を下した。


ホルムはまず、兵士を一旦退却させて、敵を迎撃しやすい場所で陣を張った。そうしておいて、彼自身はアガルタの都に転移し、すぐさまリノスらに報告を行った。


リノスらも、当初はその報告を事故ではないかと訝ったが、やがて、それがアルガワの被害状況を見ての侵攻とわかると、怒りを露わにした。


「それはさすがに看過できないな」


腕を組みながら鼻息を荒くするリノスに対して、マトカルは相変わらず冷静な表情を崩さずにいた。その向かいに座っていたクノゲンとルファナも、ほとんど表情を崩さずに冷静に対応を考えていた。


「アルガワに侵攻したルレイクの兵の規模はどのくらいか」


マトカルが出し抜けに口を開く。それに対してホルムが姿勢を正す。


「兵士たちが脱出するに際に敵の陣立てを見ましたが、千や二千ではない規模だったとのことです。あくまで推測ではありますが、およそ一万程度の軍勢であったとのことです」


「ルレイクという国はそれほど大きな国ではない。動員できる兵力は二万程度だろう。おそらく、兵士たちの感覚に大きな間違いはないと見た。一万の規模で侵攻されたら、おそらくアルガワはなすすべもなく蹂躙されてしまうだろう」


「王都には高い城壁を備えています。一日や二日で落ちるとは思えません」


「そうか。とはいえ、いつまでも持ちこたえられるわけではあるまい。ルレイクも物見遊山できているわけではないだろうからな。奴らは死に物狂いで攻撃を加えることだろう。アルガワは持って二週間というところか」


マトカルが静かにリノスに視線を向けた。それに倣うようにして、そこにいた全員の視線がリノスに向けられた。彼が言葉を発しようとしたそのとき、部屋の扉がノックされた。


マトカルが入室を促すと、そこには兵士に連れられた若者の姿があった。アルガワ王国の王太子であるジザンだった。彼を引率した兵士が申し訳なさそうに、ジザン殿がどうしてもアガルタの軍議を見たいと仰せになりましたから……と言って頭を下げた。マトカルは思わず小さなため息をついた。


確かに数日前、メイにジザンを紹介された際に、軍議の様子を見せて欲しいと要請されたのだった。そのときは特に大きな紛争も抱えていなかったため、彼女は気軽に許可を出したのだった。それを今、その約束を履行しようとしてきたのである。外見は鷹揚だが、なかなか強かなことをやってくるなとマトカルは心の中で呟いた。まあ、己の国の大問題なので、この場でリノス様に国を救ってくれと願いに来るのは理解できると考えた彼女は、小さく頷いて彼の参加を許した。


リノスも最初こそ驚いた表情を浮かべたが、メイやマトカルから事情は聴いていたために、彼もまた、大きく頷いた。そうしておいて、席に着いたジザンは、ゆっくりと口を開いた。


「この度はー。軍議への参加をお許しくださりー、ありがとうございますー」


「いや、貴国もえらいことに巻き込まれましたね。お察しします」


「いいえー。これは、想定されたことですー」


「想定されたこと?」


「元々我が国とルレイクは長い間紛争状態にありましたー。ここ最近は、両家で婚姻を重ねて和平を結んでいましたがー。我が国はルレイクを常に警戒してきたのですー」


「なるほど」


「しかしながらー。今回の噴火はー、我が国にとって想定外でしたー。このままでは我が国はー、ルレイクに蹂躙されることでしょうー」


「……」


「アガルタ王様にあらせられましてはー、我が国へ支援をなさるおつもりはー、ありますでしょうかー」


「うん? 変な聞き方をしますね。アガルタにアルガワ王国を支援してくれと言わないのですか?」


「アガルタとアルガワは別にー、同盟を結んでいるわけではありませんー。そのためー、我が国からアガルタに援軍を出して欲しいとは言えないですー」


……確かに言っていることは間違いではない。しかし、そんなことを言っている場合ではないのではないか。そんなことを考えていると、目の前に座る青年が何だか可笑しく思えてきた。


「では、アガルタが支援しないと言えば、あなたは引き下がると言うのですか」


「その通りですー。しかしながら、軍議を開いているということは、我が国に対して何らかの支援を検討いただいているー。そう考えまして、こちらに参りましたー。もし、我が国を支援いただけるのであればー、私のー知る限りのールレイク軍に関する情報をー、お伝えしたいと存じますー」


「ほう」


リノスは思わず身を乗り出した。この青年がルレイク王国軍の情報を知っているとは思えなかったからだ。それはマトカルも同じであるらしく、彼女もまた、ジザンの前に身を乗り出していた。


「わかりました。今も言おうとしていたところですが、アガルタはアルガワの支援を継続します。つまりは、貴国にアガルタ軍の兵士を追加で派遣したいと思います」


「ありがとうございますー」


「ところで、派兵に際していくつか質問したいことがある」


マトカルが口を開く。ジザンは大きく頷く。


「現在アルガワに侵攻しているルレイク王国軍の規模はどのくらいと考えられるか」


「およそ、一万から一万五千というところですー」


「その根拠は」


「これまでの戦いの中でー、ルレイクが動かす軍の規模が大体今お話しした規模だからですー」


「なるほど。では、ルレイク軍を率いているのは誰であろうか」


「ほぼ、間違いなく、ルレイク王ですー」


「どういうお方か」


「ひとことでいうと……王らしくない王ですー」


「王らしくない王というと?」


「ものの考え方ですー。絶対に勝てる戦いしかしないお方ですー。何度か刃を交えておりますがー、高い山の上に上がって陣取るだけでー積極的に戦わない軍勢ですー。その代り、勝てると見たそのときはー、疾風迅雷の速さで侵攻していきますー。かなり、計算高い王と言えますー」


「戦いのやり方そのものはどうだろうか」


「上手いか下手かで言えば、上手い方ですー。馬の使い方が巧みですー。とにかく、ルレイクは昔から良馬に恵まれていましたからー、馬にかけては周辺国の中では頭を抜いていますー。それに、兵士たちは強いですー。ものすごく強いー。食べずに戦いを続けることができますー」


「食わずに戦う? どういうことか。現地で食料を調達せずに戦うということか。それとも、食べずに戦えるような食べ物を開発しているということか」


「ルレイクでは大して食物が採れませんー。ルレイク王がやっきになってルシルナノを獲ろうとしているのも、一つにはルシルナノの小麦をおさえたいのですー。パンを腹いっぱいに食べたいのですー」


「しかし、何も食べずに戦い続けることなどできようはずもない。ルレイクの兵士たちは一体なにを食べて戦うのか」


「雑穀ですー。雑穀を天日に干したものを携帯して食料としますー。粗食に甘んじ、よく軍の規律を守る兵士が揃っていますー。いざ戦いとなると、なかなか敵に背を見せませんー」


「単なるポンコツ王のご乱心かと思っていたが、それなりにやるようだ。それでは、ずばり聞きます。ルレイク軍の弱点は?」


「先に申しました通りー、侵攻速度は速いですがー、攻撃に移るとなると、途端にその速度は落ちますー」


「なるほど。十分な情報だ」


リノスはそういうとニコリと笑みを見せて、隣のマトカルに視線を向けた。


「これは、勝てるな」


その言葉に、マトカルは無表情のまま小さく頷いた。

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