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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第二十九章 領地替えはツライよ編
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第九百七十話  相性抜群?

翌日はホルムとフィレット王女の結婚を祝う舞踏会が開かれた。主役はもちろんこの二人なので、会のフィナーレには二人が躍ることになっていた。これまでダンスなどやったことのないホルムは、この日のために特訓漬けの毎日を過ごしていた。


各国の王族や貴族たちを前にして、さぞや緊張していると思いきや、意外や意外、ホルム自身は淡々としていて、なるようにしかなりませんと言って笑顔を見せる余裕があった。対してフィレット王女は緊張のためにガチガチで終始イライラしており、二人の対称さが実に可笑しかった。


舞踏会自体は、まさしくプロの競演と言って差し支えない様子で、出てくる人出てくる人が、素人眼に見ても上手い人ばかりだった。


劇場はいわゆるオペラ劇場のような作りになっており、二階はボックス席になっていた。正面に陛下とタウンゼット王妃が座り、その右隣にヴァイラス公爵夫婦、左側に俺とリコが座った。これは俺たちが上手に座ることになり、ちょっと間違っていないかと思ったが、リコ曰く、俺たちは帝国の客であるので、これでいいのだと言う。周囲を見廻してみると、俺の隣には確かに他国の王族がずらりと並んでいたし、ヴァイラス公爵の隣には、ヒーデータの王族がズラリと並んでいた。


俺の左隣にはリコが控え、その隣のボックスには、フラディメのリボーン大上王が鎮座ましましている。リコを挟んでいるが、それでもこのジイさんから発せられる圧力が凄まじい。一体、何の恨みがあるのだと思う程に、鋭い視線をステージに向けている。その大上王の隣には、何とメイが座っている。


本来この席には、メインティア王が座る予定であったが、あのバカ殿は見事に逃げた。しかも、どこをどうしたものか、その席にメイを座らせた。さすがにこれには俺もびっくりしたが、メイも直前になってあのバカ殿から代わってほしいと言われたと言って困惑していた。


この振る舞いに対して大上王は大いに怒ったが、隣のメイが、ご迷惑でしたら遠慮しますと言ったところ、一瞬にして機嫌を直した。ダンスのことはよくわからないというメイに対してこの爺さんは、私が教えて進ぜようと言ってテンションを上げていた。この堅物ジジイにダンスなどわかるとは思えないが……スケベジジイめ!


そして、そのメイの隣には何とヴィエイユが座っている。聞けば、本来彼女の席は、俺たちの隣だったのだが、彼女の希望でそこになったのだそうだ。ボックスは二人掛けになっているのだが、彼女は一人でそこに座っている。コイツもコイツで、えらく気合が入っている。パッと見、ノーメイクに見えるが、俺にはわかる。いわゆるナチュラルメイクというヤツで、それはそれは丁寧に作り込んでいる。朝早くから起きて準備したのだろう。ただ、そう考えると、教皇も大変だなと思ってしまう。


そのヴィエイユの隣にはサンダンジのニケ王が控えている。隣に褐色の肌のものすごい美女を従えている。彼女はニケの娘であり、よい殿御を探しに連れてきたと言っていた。今更婿を物色することもあるまいにと一瞬考えたが、このパーティを利用してお見合いをしているらしい。そういえば、昔の日本でも、こんな感じでお見合いをしていたのを聞いたことがある。


昔は芝居小屋があり、そこでは左右に桟敷席が設けられていた。今でも歌舞伎座や京都の南座に行けばその様子を知ることはできるが、昔の小屋はかなり狭く、向かいの桟敷席の様子が見えたらしい。そこで、芝居見物と称して劇場に行き、向かいの席同士でお見合いをするというのがよくあったそうだ。


お弁当を食べながらきれいな役者をノホホンと見ていると、隣に座った母親からツンツンと肘を当てられて、向かいのお人ナ、アンタのお婿さんにどうえ? などと言われたらしい。おちおち芝居見物もできない。


話を元に戻す。


舞踏会自体は、それなりに楽しいかったが、一番大変だったのはメイで、常に大上王の微に入り細を穿つ説明に翻弄され、さらには隣のヴィエイユから話しかけられと、気の休まるときがなかったのではないかと思ったが、意外にも本人は楽しかったと言って笑顔を見せた。


そのヴィエイユは、あるところからメイに話しかけなくなり、一点を見つめたまま動かなくなった。小娘が静かになったので、てっきり眠っているのかと思いきや、彼女の視線の先には、一人の男の姿があった。カイク帝国のウラワ 改メ ガノブだ。彼もまた、舞踏会などそっちのけでヴィエイユに視線を向け続けている。


実は、この舞踏会が始まる前に俺たちの許に挨拶に来たヴィエイユに、昨日のことを話したのだ。何でそんなことを言うのかと思う人もいるかもしれないが、遅かれ早かれガノブのことは彼女の耳に入る。それならばと先に伝えておいたというわけだ。彼女は淡々と、そうですかと言っただけだった。どうやら知らなかったらしい。知っていれば大仰に驚いて知りませんでしたわと言い、色々と質問をしてくるのだが、あっさり引き下がったところを見ると、カイク帝国の皇帝がこのヒーデータにやって来ているとは思いもよらなかったようだった。とはいえ、世界中にネットワークを張り巡らしているクリミアーナ教国だ。カイク帝国の皇帝が死去した事実も掴んでいるだろうし、その死因も把握しているはずだ。あれだけ派手に動き回っているガノブの動向も知らぬはずはないだろうし、かなり正確にその内情は掴んでいるにもかかわらず、そのガノブがヒーデータにやってきた事実を知らなかったのは、彼女自身、ショックだったのかもしれない。というより、クリミアーナ教国の目を掻い潜ったあのガノブという男の力は、侮れないものがある。


宴たけなわになった頃、主役であるホルムとフィレット王女が舞台に上がった。相変わらず王女は緊張しているし、その緊張がホルムにも伝わっているように見えた。どうなるかと思っていたが、二人はピッタリの息で大きなミスもなく踊り終えた。その瞬間、陛下夫婦が立ち上がり、それに釣られて客席を埋めていた者たち全員が立ち上がった。そして大きな拍手で二人のこれからの未来を祝福したのだった。


会が終わった後、二人の控室を尋ねたが、ホルムは疲れましたと言って笑みを見せていたが、王女は昨日から何も食べられなかったらしい。青白い顔をしていた。何となく、二人の表情が似ていて、やはり相性がいいのだなと思いながら、二人には早く帰って休むように言って俺とリコはその場を後にした。


二日間にわたった結婚式は終わったので、俺たちは陛下に挨拶をして帝都の屋敷に帰ろうということになった。廊下を歩いていると、ヴィエイユがいた。彼女はニコリと微笑むと、実によい結婚式で眼福になりましたと、心にもないお世辞を言った。


「で、何か用か?」


「相変わらずご挨拶ですわ。用事がなければお話しもいただけないのでしょうか」


「大体、お前が話しかけてくるのは大抵、ロクでもないことが多いからな」


「まあ、ヒドイ言われ様ですこと」


「……あのガノブのことか?」


「……」


「図星、だな。お前の大好物のタイプだろう? 俺は直接あの男と喋ったが、きっとあのガノブもヴィエイユが大好物なタイプだ。相性抜群だとは思うが、なかなか油断のならない男だ。気をつけた方がいい」


「そのことでございます。お妃さまがおいでのこの中でこのような話をするのは大変恐縮なのですが……。私から一つ、提案がございます」


「提案? 何だ?」


「我がクリミアーナ教国とアガルタ、同盟を結びませんか?」


……俺は思わず天を仰いだ。

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