表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第二十九章 領地替えはツライよ編
960/1093

第九百六十話  初めての失恋?

それはつまり、王女の一方的な片思いというわけか。一瞬でもホルムの行動を疑ってしまった自分を心から恥じた。一方でウラワ殿下は呆れた笑みを浮かべている。彼も彼で、つまらないことにムキになったと思っているのだろう。


「とりあえず、ホルムの気持ちも聞いてみませんと、ね?」


「私がお願いしたいのは、アガルタ王にホルム殿との結婚を認めていただきたいということと、叶うことならば、ホルム殿をアガルタ王の養子に迎えていただきたいのだ」


……俺の話を聞いていないのだな。百歩譲ってホルムとの結婚を仲立ちしろという言い分はわからなくはないとしても、ホルムを俺の養子にしろというのは、何ともド厚かましい話だ。


だが、彼女も彼女で、己の身分のことを考えていたと言える。それは、先ほどウラワ殿下が指摘したことを彼女自身も認識していたということだ。


「オイ貴様、早速そのホルムとやらに確認してきたらどうだ?」


殿下が笑みを浮かべたまま俺に話しかける。だが、王女は王女で不思議そうな表情を浮かべている。もしかして、自分がフラれる可能性を微塵も信じていないのだろうか。


俺は部屋の外で控えている者に、ホルムを呼んでくるように言った。しばらくするとそのホルムが入室してきた。


「お呼びでしょうか」


「うん。唐突な話で申し訳ないのだけれど、お前さんは嫁を娶る気持ちはあるかい?」


藪から棒な質問であったからか、ホルムは目を丸くして驚いている。


「嫁……ですか?」


「そう、嫁さんだ」


「……ないですね」


「ハッハッハ! それ見ろ!」


殿下がさも嬉しいと言わんばかりの様子で口を開く。その直後、王女が口を開いた。


「何故だ! 何故そんなことを言うのだ! 私には理解できぬ!」


「いや、そんなことを言われましても……」


「ホルム、お前さんが嫁を持たない理由を聞いてもいいかい?」


「まっ、前にもお話ししたかもしれませんが……。私は軍人です。いつ死んでもおかしくない身です。嫁を持てば、私が死んだあと、寂しい思いをさせることになります。ですから私は、結婚はしないと心に決めたのです。もっともこれまで、私と結婚してもいいと言った女性がいなかったのも大きな理由の一つですが」


「では、お前さんと結婚してもいいと言う女性が現れたら、そのときは考えてもいいということかな?」


俺の言葉にホルムは少し考える素振りを見せた。そして、ややあって、申し訳なさそうな表情のまま、ゆっくりと口を開いた。


「そう、で、あっても、私は、妻を娶ることは、ありません」


ウラワ殿下のニヤニヤが止まらない。対して、フィレット王女は顔面蒼白となっている。


「あの……どなたか、私を婿にと望まれているお方が、いらっしゃるのですか?」


「まあ、一応、ね」


「では、恐れ入りますが、その話はお断りしてください」


「わからぬ! 私にはわからぬ! 理解ができぬ!」


フィレット王女が大きな声を上げた。きっと、彼女にしてみれば、予想もしなかった結果だったはずだ。それに、おそらく、は、初めての失恋であるはずだ。あ、その前に俺にフラれているが、あれはどちらかと言えばネルフフ王との話しなので、彼女自身が俺に思いを寄せてフラれたというわけではないので、あれはノーカンといったところか。


そんな王女にホルムは向き合うと、真面目な表情で語り出した。


「私は一兵卒からこの年まで軍人として任務に就いてまいりました。戦いによって別れた者も多くございます。むろんその中には妻帯していた者も多くおります。その大半が、夫が死んだと伝えられると、深い悲しみに襲われます。私は目の前で泣き崩れる女性や子供たちの姿を多く見て参りました。そのとき私は決心したのです。自分の家族には、このような思いはさせるまい、と。そのためには、私が妻を、家族を持たないのが一番手っ取り早くございます」


「それは、詭弁だ」


「詭弁……ですか」


「ああそうだ。家族に悲しい思いをさせたくないのであれば、死ななければいい。自分が死なぬようにすればいいのだ」


「恐れ入りますが、それは不可能であるかと存じます」


「何故だ。それは、軍人であるからその可能性が高いのだろう。それでは、そうならない環境に身を置けばいい。例えば、王族になるというはどうだろうか。王族であれば、直接戦場に出る機会も大きく減る」


「平民出身の私が王族ですか……。それは、荒唐無稽な話ですね」


「王族とはいかぬまでも、戦場に出ない環境に身を置くのであれば、その悲しみに遭遇する可能性は格段に低くなる。ホルム殿、それでも、貴様は妻を持たぬと言うのか?」


「私は軍人です。戦いの中でしか生きて来なかった男です。そんな私が他の仕事ができるとは思えません。それに、王族などいうのはまっぴら御免被りたいことです。私は、そんな堅っ苦しい生活はできないですね」


ホルムはそう言って寂しそうに笑う。何だか、彼をこの場に呼んでしまったのが、申し訳なくなってきた。


「ハッハッハ。ホルムとやら、大儀であった。よい、よい。下がってよいぞ」


ウラワ殿下が満足そうな笑みを浮かべながら退室を促す。ホルムは戸惑いながら立ち上がり、スッと一礼して踵を返して、そのまま部屋を出て行った。


「姫、そういうことだ。やはり姫は俺のモノになる運命だったのだ」


「まあ、ここで諦めるのもよし、振り向いてくれるまで粘るもよし。決めるのはフィレット王女ご自身です。先ほど王女は、自分の幸せは自分で決めると言っておいででした。王女にとって一番幸せになる選択をなさればいいと思います。ただ……生意気なことを言いますが、好きな人には好きと言った方がいいですよ。その方が、相手には伝わりやすいですし、何より、上手くいかなかったときのダメージは少ないです」


「私は……もう……」


「脈がないから諦めます? それもいいでしょう。ウラワ殿下のごとく、直接断られても何度もしつこく口説くのもいい。それは、王女がお決めください」


俺の言葉に、ウラワ殿下は露骨にイヤそうな表情を浮かべた。王女はじっと俯いたままだ。


「まあ、取り敢えずゆっくりと考えてみることです。俺は、応援していますよ。とはいえ、ホルムは我々にとってなくてはならない男です。その男がいなくなるというのは、私としてもかなりダメージが大きいのですが、彼が幸せになるのであれば、それは考えたいと思います」


そう言って俺は立ち上がり、ウラワ殿下に部屋を出ようと促す。だが彼は俺の勧めを断った。


「なぜこの俺が出て行かねばならぬのだ! 俺は王女に話があるのだ! 貴様は早く出て行け!」


「出て行けるかよ。早く来い」


「何をする貴様っ! 放せっ!」


俺は暴れる殿下に結界を張り、そのまま首根っこを掴んで無理やり部屋の外に連れ出した。


「貴様! この俺に何をした!」


フィレット王女の部屋から遠く離れたところに殿下を連れて行き、そこで結界を解除する。ようやく体が自由になった彼は、剣の柄に手をかけ、まさに俺を斬ろうとする勢いで口を開いた。


「何をしたじゃないですよ。あの部屋に殿下と王女を二人っきりにできますか。下手をすれば、殿下は王女を手籠めにする可能性すらありますのでね」


「そんなことは聞いておらん。このあいだと言い、今回と言い、俺の体が動かなくなった。貴様、この俺に何をしたのだ!」


「それは、企業秘密でして……」


「キギョウヒミツ?」


「まあ、詰まらない仕掛けです。種明かしをすれば間違いなく怒られるので、何も言わないことにします。すみませんが、殿下も、大きな心で見逃していただければ嬉しいです」


「貴様……一体何者なのだ。その覆面を取れ」


「それは、ご勘弁ください」


「それならば力づくで……クッ!」


殺気を放ち、剣を抜こうとした。この男は本気で俺を斬る気だった。まったく、面倒くさい場面になってしまった。どうして俺はこう、面倒くさい場面を引き寄せてしまうのだろうか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ