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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第二十九章 領地替えはツライよ編
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第九百五十八話 何とか収ま・・・らんのかい!

それからのマツシレイに関して、俺は多忙を極めていた。むろん、アガルタの王としての職務もあるから、それこそ、目が廻るほどの忙しさだった。


あの後、程なくして、新領主であるナノルがコリタらを伴ってマツシレイにやって来た。彼らは俺たちに深々と礼を言い、コリタなどは涙を流しながら、ずっと頭を下げ続けていた。


彼らは、このマツシレイの土地が意外に肥沃なものであるという俺たちからの報告を受けて、一様に驚いた表情を浮かべた。その理由については、メイから説明させたが、あまりにも丁寧に説明しすぎたために、彼らはわかったような、わからないような、微妙な表情を浮かべていた。


ただ、大半の土地は荒廃してしまっているため、ある程度のテコ入れは必要であるらしい。さすがにそれを、ここに残っているジジイたちにやらせるのには無理があるし、サクから人を連れてくるにも限界がある。そこで、メイからの提案で、アガルタ大学の学生たちを派遣して、この地域の土地を再生することになった。


当初、この話を聞いたナノルらは半信半疑だった。特に報酬も決めずに学生をこの遠い土地まで派遣するというのはいかにも荒唐無稽な話と捉えられたようだったが、これは、アガルタ大学にとっても大きなメリットになる話で、これほど荒れはてた土地を一から再生させるプロジェクトは、大学側にとっては初めての試みで、学生たちにはこの上ない勉強になるのだと言う。俺などは不真面目な学生であったから、そんな遠隔地に派遣されて勉強させられると聞けば、真っ先に逃げ出すのだけれど、メイ曰く、かなり多くの学生が参加する見込みがあるのだと言う。


色々と議論をしても始まらないので、まずはやってみようということになった。このナノルという領主は、実に決断の速い男で、交渉相手としては非常に助かる。そのお陰で、話しがサクサクと進み、思った以上に時間が短縮できた。


学生たちの派遣はひと月後を目途に行い、およそふた月をかけて作業をすることになった。俺は内心反対したが、メイもここに赴いて作業と指導に当たるのだと言う。まあ、メイの姿を見たら、ここのジジイたちはヤル気を出して手伝おうとすること間違いなしなのだが、心配なのは、あの殿下に見染められてややこしいことにならないかと言う点だ。


その殿下は、あれ以来ぷっつりと姿を見せなくなったのだと言う。皇帝は相変わらず意識不明の重体のままで、予断を許さない状況であるそうだ。コリタの話では、彼はずっと城に詰めていて、父帝の看病をしているのだと言っていたが、俺の見立では、おそらく彼は、城の中で粛清を始めていると考えている。


きっと、皇帝がこの世を去るのは時間の問題だ。いや、もしかすると、すでにこの世にはいないかもしれない。皇帝が崩御したときに、その権力基盤がスムーズに殿下に渡ればいいが、あの性格だ。反対する者や敵が多いだろう。そうなったとき、家来たちはどうするか。別の者を皇帝に頂こうとするはずだ。殿下はそうした、自分の意のままにならぬ者たちを秘かに粛正しているのではないか、俺はそう見ていた。


なぜこんなことが言えるのか。それは、ジュカ王国の王太子殿下に教えてもらったからだ。教えてもらったと言うよりは、たまたまそんな話を耳にしてしまったのだ。


いつものようにバーサーム家の屋敷にお渡りになった殿下は、エルザ様を前にして俺が淹れたお茶を飲みながら寛いでいた。この日は機嫌がすこぶるよかった。いつもより饒舌だった殿下は、今の国王、つまり父が崩御した後のことを語り始めた。


ジュカの国王は、長年の不摂生な生活から、体調はすこぶる悪かったらしい。あれだけの肥満体だ。高血圧、高コレステロール、糖尿……いわゆる成人病と呼ばれるものの大半に罹患していたと思われる。彼は結果的にカルギのクーデターによって命を失ったが、遅かれ早かれ、この世を去る運命にあったようだった。


王太子殿下は、父が身罷った後は、速やかに自分に弓を向けそうな者たちを捕縛すると言ってのけた。その対象は、カルギを筆頭とする国軍だ。彼は国軍を完全に掌中に収めることが最も大事なことであると考えていた。そのために、信頼できる者たちを集めて親衛隊をつくり、いざという時のために備えるのだと言っていた。まあ、その親衛隊を集める前にカルギに動かれて命を落としてしまったので、王太子殿下とすれば、悔やんでも悔やみきれないことだったと推察する。


ただ、あの方が親衛隊を組織するとなると、おそらく宮廷結界師になっていた俺は、否が応にも巻き込まれることになっただろう。もしかすると、エリルお嬢様もそこに加わっていた可能性もある。いや、あのお嬢様のことだ、面白そうだと言って、嬉々として加わることだろう。そうなるとそうなったで、ややこしいことになる。


ただ、あのウラワ殿下に関しては、その辺は上手くやりそうな気がする。彼が皇帝となれば恐らく、独裁政治になると考えられるので、彼に権力が集中していないときに仕事をやってしまうのが、正解なのかもしれない。


あの山のことだが、ちゃんと処理しました。夜中に風魔法ですっぱりと斬って、それをアガルタに転移させている。かなり広範囲に結界を張りながら、しかも、諸々の効果を付与しながら、ほぼ全力に近い形で風魔法を発動させたので、久方ぶりに魔力が枯渇するところまで行った。ただ、その夜はメイがずっと抱きしめてくれ、また、その日以降、メイとシディーの俺を見る目がいい感じに変わってくれたので、それはそれでよかったのだが。


ただ、切り出した山は、それなりのバカでかさで、それはルノアの森の奥深くに転移させている。お陰で、森の中に小さな山ができてしまった。むろんそれは結界で隠している。とりあえず、そこに入ることのできる者は当面の間、メイとシディーだけにしておくこととした。下手に人が関わると、健康被害が発生する可能性があり、二人のような熟練した技術を持った者でなければ扱えないようにしたのだ。


森の中に突然できた山に、魔物たちは戸惑うだろうし、下手をすれば縄張りを荒らされて森に騒動の一つも起こるかもしれないと思ったが、さすがに魔物たちもバカではないので、この山のヤバさが彼らには十分に伝わっているようで、今のところ森は平穏そのものだ。


そうした諸々の事柄が決まり、それらが動き出そうとしたそのとき、俺はフィレット王女から相談があると持ち掛けられた。


彼女は未だマツシレイに留まっていた。というより、離れたくても離れられない状況に陥っていると言うべきか。彼女は彼女で、いわゆる傭兵のような役割を担っている。とはいえ、彼女自身も王女と言う立場がある。いつまでもこの村に居続けると言うわけにもいかないだろう。


俺は、てっきりその相談だと思った。そのため、新領主であるナノルに、この村の警備を強化してもらうよう、事前に連絡をしておいたのだ。


だが、彼女は同席しようとしたホルムに席を外してくれと言って、退室を促した。そして、俺と二人きりになると、やおら口を開いた。


「……私は、伴侶を持とうと思う」


何の話やねん、という言葉が出そうになったが、何とか抑える。いや、アナタとの結婚はお断りしたはずです。今の俺は、メイとシディーがいい感じに優しくしてくれるので、十分なのですと言おうとしたそのとき、彼女の口からは意外な内容が語られた。


「私は、ホルム殿と結婚しようと思う。そのことを、アガルタ王にお口添え願いたい」


……どういうこと?

コミカライズ最新話、公開中です!(今回は番外編)

ぜひ、チェックください!


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