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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第四章 ニザ公国編
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第九十四話  大いなる勘違い

ポーセハイ。黒、もしくは灰色の耳を持つ兎獣人である。彼らの特徴を一言で語るとすれば、それは「家族」という言葉に行きつく。


彼らの家族意識は強い。従って、鉄壁の連携を誇る。彼らが身に付けているスキルの大半は、「家族を守るため」という意識が根本になっている。


例えば「転移術」。仲間の危機を察知した時、一刻も早く駆けつけて救援するためのものであり、「思念」スキルと共に、ポーセハイが一番最初に身に付ける必須のスキルである。


「回復魔法」、「幻影術」、「薬師」、「鍛冶師」などの彼らの代表的なスキルは全て、家族と一族を守るために身に付けてきたスキルだったのだ。


しかしポーセハイは常に二番手、三番手に甘んじていた。彼らの意識は常に「自分たちのため」「自分たちが必要なもの」であったため、彼らの用いるスキルや技術は、汎用性が限定されるのだ。


そのため、鍛冶などの製造や鋳造はドワーフの後塵を拝し、薬師にしても多くの優れた薬を作り出したにもかかわらず、他の人間や獣人にとっては劇薬や毒薬となる薬も多くあり、そうしたことが重なって、ポーセハイの作る薬はよく効くが危ないというイメージを持たれていた。


ポーセハイの長であるミニーツはそれが口惜しくてならなかった。ポーセハイの技術力、医術、製薬学、魔術はどこよりも優れている。現にポーセハイ一族の命の多くを救っているではないか。何故他の種族たちはこの素晴しさが分からない?何故ドワーフやほかの種族が作ったものを支持するのだ?と自問自答を繰り返した。


ミニーツが出した答えは、ポーセハイが世界中の国々に赴き、そこで自分たちの技術や力を見せつけることで、ポーセハイの名声を高めようとするものであった。ただし、彼らの数にも限界がある。そこで彼らは10名程度のグループを作り、グループ単位で世界を移動しながら、ポーセハイの名声を高める取り組みを始めた。


元々、「転移術」と「思念」スキルを持っていた彼らは、移動と情報交換のスムーズさもあって、あっという間にあちこちの国々で成果を出した。それは彼らの大いなる勘違いも含むのであるが、ともあれ、彼らは自分たちの技術が世界一であるという認識を新たにしたのだ。


しかしそれでも、「ポーセハイ」の名前を出すと、あらゆる国が彼らを忌諱した。「ポーセハイ=諸刃の剣」というイメージは根深かった。


ミニーツは焦った。世界中で成果を出しているのに、何故自分たちは支持されない?理由が分からない。自問自答を繰り返すが、答えは出ない。きっと人間やほかの獣人たちがバカなのだ、そんなことさえ思うようになっていた。


そこに齎されたのが、ジュカ王国での「大魔王復活」の情報だった。


世界に名を馳せたジュカ王国、その本拠たる巨大なジュカ城が一瞬のうちに岩塊となり、王国軍の精鋭10万人近くが瞬殺されたという。


ミニーツは心躍った。この大魔王の下にいち早く参じれば、ドワーフやほかの種族たちを出し抜くことができる。大魔王に自分たちの技術や知識を見せつけるのだ。きっと大魔王さまは、ドワーフや人間たちを滅ぼすおつもりだろう。その前に、自分たちが邪魔な種族を滅ぼしてしまおう。きっとお喜びになるに違いない。もし大魔王にその気がなくとも、事がなった暁には自ずと自分たちが世界一になる。一石二鳥だと。


ミニーツは、大魔王さまの邪魔になりそうな種族を先に壊滅させようと考えた。しかし、ミニーツは思わぬところで大怪我を負うことになる。成長が見込めない奴隷の処分に失敗し、その加勢に向かった時に、得体のしれない男に自分の片腕ともいえるミヒジとリヨナをはじめとする全ての部下を殺されたのだ。


その男の強さを見て、本能的にミニーツは逃げることを選択した。家族を何よりも大切にするポーセハイにとってはありえない、あってはならぬ行為である。その代償か、転移で逃げる際にMPが全てなくなり、片耳を失い、左半身に大やけどを負った。


部下を見捨て、そして、長としては働けない体になったミニーツであったが、ポーセハイたちは彼を責めなかった。むしろ、これ以上家族が死ぬことを嫌ったのである。


長として実際に一族をまとめていくのは他の有望な若いポーセハイに譲ったものの、ミニーツはその相談役として影響力を発揮し続けた。だが彼としては今一度、自分の汚名をすすぎたいという思いがあった。そのための作戦として考えたのが、ドワーフ族の抹殺である。


ドワーフの国であるニザ公国は、なかなかに入りにくい国であった。元々ドワーフの技術力は高い。そして、生み出された製品は、どのような種族も使用可能という汎用性がある。ポーセハイが入り込む余地はなかった。


しかし、科学者を自称するレコルナイとそのチームは、見事にドワーフ王に取り入ることに成功し、あまつさえ、王宮の中に研究室まで与えられた。レコルナイたちは公国内の水の汚れと臭いが自分たちの健康を害すると判断し、その水を浄化する薬品を開発しただけなのだが、それが望外の評価を得たのだ。


ミニーツをはじめレコルナイらのポーセハイは、ドワーフたちのレベルの低さをあざ笑った。たかが水を浄化する程度でここまで喜ぶのか、と。ドワーフはもはや敵にあらず、そんな思いを抱いていた時だった。シカによる農作物の被害が発生したのは。


ポーセハイたちはこれを絶好の好機と捉えた。農作物が全てシカに食いつくされてしまえば、ドワーフは自然に滅びる。しかも、国王以下、王族たちも全て病に伏している。自分たちはただ、傍観していればよい。国外へ逃亡する者は、国を出る前に始末してしまえばいい。ニザ公国が瓦解するのは、時間の問題であるかに思えた。


そんな時、同盟国であるヒーデータ帝国からバーサーム侯爵が特使として派遣されてきた。バーサームと言えば、帝国のクルムファルを荒廃から復興させたと噂される人物である。レコルナイは焦った。バーサームがニザを復興させるようなことがあってはならない。もし成功する算段があるのであれば、速やかに消さねばならないと覚悟していた。


しかし、予想に反してバーサームの策はすべて失敗に終わった。バーサームを国に帰すことにも成功した。公女のコンシディーが王の命を無視してシカ討伐に向かったが、問題なく排除された。全ては順調だった。レコルナイから緊急支援の信号を受け取るまでは。


報告では数百頭のシカに囲まれたとあった。ポーセハイの戦闘力は基本的に低い。そのため、大多数の獣を相手にするのは多くの人数が必要だった。ミニーツは一族全員に思念を送り、レコルナイを救援するように命令し、そして、自分もそこに転移したのだった。



「大いなる勘違いの連続だな、お前ら」


「ぐぅぅぅぅ・・・」


デカいウサギは体を必死に動かそうとするが、両手両足を切断されている上に、俺の結界に閉じ込められているので動けない。ただ、うめき声をあげることしかできない。


「まずもって大魔王はいない。お前らの目論見は完全に外れている」


デカいウサギのうめき声が止み、薄目が開かれる。


「そしてお前らの最大の間違いは、全ての行動が自分たちのためという点だ。それでは未来永劫、ドワーフには勝てん」


「きっ、貴様などに何がわかるぅぅぅぅ!!」


「お前らは、自分たちの技術や知識が世界一だと信じ、それを認められないことに不満を感じていた。違うか?」


「・・・」


「そして、その力を知らしめようと世界中に散った。成果は出したが、世間の評価は一向に上がらない。自分たちの実力が分からねぇ世界の奴らはバカだと思った。そこに大魔王が現れた。大魔王に自分たちの実力を見せつけて評価を得ようと思った。しかも、ドワーフの抹殺はバカうさぎ、お前の一族の中での評価を上げるために仕組んだものだろう?」


「そ・・・そんなことは・・・」


結界に閉じ込めてある他のポーセハイたちが動揺しているのが分かる。俺はそれには気にせず、言葉を続ける。


「結局お前も、お前らポーセハイも自分のことしか考えてねぇからそんなアホな考えに至るんだ。何故、他の人々の助けになろうとしない。世界一とか何とかは、人が評価をするものだ。人が評価してくれないのは、自分の責任だ。うまくいかないことを人のせいにするんじゃねぇ」


「きっ・・・貴様~!!」


「うまくいかないってことは、自分の考えと行動が間違っているからだ。上手くいくときは一発でうまくいくもんだ。それに気づかず、おんなじ失敗を繰り返したから、お前の大事な家族をここまで失ったんだ」


「・・・」


デカいポーセハイは震えている。どうやら泣いているようだ。


「お前らポーセハイとドワーフの違いを教えてやろう。人のためになるかどうかを考えているかどうかだ。ドワーフは、全ての人族、獣人たちに合うように、最大の効果を発揮するように考えてモノを作っている。彼らが評価されているのは、そこだ。それにしても惜しいな、チャンスはいくつかあったろうに、全くそれに気づかないんだからな。お前らが世界一になれないのは、その鈍感さなんだろうな」


俺はクルリと向きを変え、拘束されているポーセハイたちに向けて声をかける。


「お前らの考え方と行動が間違っていたから、今のお前たちのこの状況がある。この状況を改善するためには、考え方と行動を変えろ。もっとも、生きていられたらの話だがな」


ポーセハイたちの顔が歪み切っている。俺は再びデカいポーセハイに向き直る。


「ちなみに、そこで笑い転げているレコルナイが開発した水な?あれ、お前ら大成功だと思っているようだが、これも大いなる勘違いだ。とんでもねぇ代物だぞ、あれ。まあ、このことはドワーフ王の前で話さねばならん。せっかくだ。お前も一緒に来てもらうぞ?」


「ふっ、ふっふっふ・・・無駄だ。私はもうすぐ、死ぬ」


「何だと?」


「自分の命と引き換えに、自分の持つ能力を最大限に発揮する薬を飲んだ。レコルナイも、自分の精神を完全に崩壊させて、痛みも恐怖も感じずに死ぬ薬を飲んでいる」


「お前の飲んだ薬はもしかして・・・」


「そうだ。メイリアスに開発させたものに手を加えたものだ。しかし、ダメだな。負けては意味がない。そういえば、メイリアスの親が開発した薬も、いいところまではいっていたんだが、ダメだったな。我々が手を加えなければ効果を発揮できなかった。まあ、強い薬にしたので、弱い子供が死ぬのはしかたな・・・」


「ぬうん!!」


ホーリーソードでデカいポーセハイを真っ二つに斬る。そして、笑い転げているレコルナイの下に行き、コイツも真っ二つに斬った。ふと見ると、中空をぼんやりと見ているウトニカの姿が目に入る。俺はゆっくりと彼女に近づき、無言でその首を刎ねた。


「その考え方が、激しく間違ってんだよ、バカたれが」


そう言い捨て、俺は剣を鞘にしまう。辺りは既に、夕暮れになっていた。

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