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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第四章 ニザ公国編
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第九十二話  幻想と真実

「・・・嫌な気配が、臭いがします」


イリモが呟く。その瞬間、俺の気配探知に強大な魔物の気配が引っかかった。マップで見てみると、俺たちが今いる位置から30分くらいの距離にいるらしい。どうやらコンシディー公女たちの近くに出現しているようだ。しかもその周辺にはシカの群れもいるらしい。


「取りあえず、確認しに行くか」


「ええー?」


「またあいつらの顔を見るんですかー?」


女子二人は本当に嫌そうだ。


「いや、冒険者たちはどうでもいいけど、出現した魔物が気になる。イリモも気になっているようだし、確認はするべきだろう。野放しにして、ニザ公国や帝国に被害が出てはいけないからね」


「これは・・・ご主人様、急ぎましょう」


いつになくイリモが焦っている。俺はすぐに踵を返し、反応のあった場所に向かう。



・・・そこにいたのは、ユニコーンだった。漆黒の体に体長2メートルくらいの大きな馬体。そして金色に輝く角が眉間から生えていた。俺たちが見たのは、コンシディー公女がユニコーンの角に左足の太ももを貫かれる場面だった。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


公女の絶叫と共にユニコーンは首をもたげる。彼女は太ももを刺されたまま、ユニコーンの頭の上に持ち上げられている。そして、そのまま首を大きく振る。コンシディー公女の体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。ピクリとも動かない公女。足から血が噴水のように吹き出している。かなりヤバい状態だ。


ちょうど公女が投げ飛ばされた方向を見ると、夥しい数のシカがいた。何をするでなく、じっとその様子を見ている。


よく見ると、ユニコーンの周辺には冒険者たちと、その馬たちの死体が転がっている。ある者は体に大穴を開け、ある者は顔を吹き飛ばされた状態で転がっている。おそらく、彼らは全滅しているのだろう。


ユニコーンはゆっくり俺たちの方向に体を向けた。ブルルと小さく嘶いたかと思うと、いきなり突撃を始めた。速い。一瞬で距離を縮められる。素早く周囲に結界を張る。


「ガッ・・・バリぃぃぃぃン!!!」


一瞬だけユニコーンの動きが止まったかと思ったと同時に、結界は粉々に砕けていた。そして、その衝撃で後方に吹き飛ばされる。


「ぐはっ!」


すぐにエクストラヒールを唱えて、体をすぐさま回復させる。イリモもフェリスもルアラも無事のようで、すぐに起き上がる。


「お前ら気を付けろ!かなり手ごわいぞ!」


「わかりました!」


「大丈夫です!」


フェリスはルアラを抱えて空中に浮かび、木の上に降り立った。それを見てユニコーンは、今度はイリモに向かって突撃を始める。イリモも負けじとユニコーンに突っ込んでいく。


「ガキイィィィィィィィン!」


凄まじい衝撃波が発生する。さすがに体格で劣るイリモはバランスを崩す。その瞬間、ユニコーンは黄金色に輝く角を、イリモの横腹に突き立てた。


「ヒィィン!!」


悲鳴を上げながらイリモはがっくりと膝をつく。彼女の横腹から噴き出した血が森の土を染めていく。


「ウインドカッター!!」


「アイスショット!」


間髪を置かず、フェリスとルアラの魔法が木の上から放たれる。


「キィィィィィン」


その魔法はユニコーンの手前で弾かれるような形で消え去った。ユニコーンは荒い息をしながら一旦体を沈めたかと思うと、二人に向かって両前足を掲げた。その瞬間、ユニコーンの口から氷のブレスが放たれた。


「きゃぁぁぁぁ!」


「うわぁぁぁぁ!」


二人は体の半分を凍らせた状態で木の上から落ちる。彼女たちを助けに行こうとした瞬間、胸をユニコーンの角に貫かれていた。


「ぐはっ!」


胸から、口から、血が流れだす。ユニコーンは首をそのまま持ち上げる。体の力が入らない。


「こ・・・こんなことが・・・」


「あらあら、せっかくの英雄様が台無しね。もう少し活躍してくれたら格好よかったのに」


傍にフード姿の女が近づいてくる。こいつは、コンシディー公女の傍に居た女だ。


「お・・・おまえ・・・は。なぜ・・・ここに」


「うふふ、私はここで公女様たちを殺すために遣わされた刺客ですわ」


「そ・・・そんな・・・早く、レコルナイ博士に・・・」


「アハハッ、バカねぇ。そのレコルナイ様こそが、私を差し向けた張本人ですわよ?」


「何・・・だと?」


「貴方もバカですわね?そのまま帝国に帰っていたら命だけは助かったのに、わざわざ殺されに来るんですものね?」


「お前らは・・・何者だ?」


「うふふっ。まあ、天国で見ていらして」



「リノスさーん、こっちの方は全滅ですねー。回復魔法をかけてもダメです」


「全員、顔と頭と心臓をやられているので、難しいです」


「そうか。わかった。こっちは何とかなった。コンシディー公女が助かっただけでも良しとしないといけないな」


そこには、ぐったりとしたコンシディー公女をイリモの上に乗せようとしている俺と、その傍に近寄ろうとするフェリスとルアラの姿があった。


「なっ・・・何?何なの・・・?」


「公女様の状態がヤバかったからな。まともにやってちゃ間に合わないと思って、お前らには少し遊んでもらっていた。しかし、お前らポーセハイは本当にロクでもないな?」


「どうしてそれを!」


「お前の名前は、ウトニカ。28歳の女か。ポーセハイは幻影術が得意だと思っていたが、お前は回復魔法が得意なんだな。子供の頃から一族の怪我を治癒し続けていたから、レベルが上がるのは当たり前か?」


俺はかなり前からこの女に鑑定スキルを発動している。女のことはかなり詳しく把握できた。


「・・・あなた一体、何者なの?」


「レコルナイの下に居るようになって10年か。随分酷いことをしてきたんだな。人体実験の手伝いをしてきたのか?ポーセハイじゃない人間やほかの獣人は実験材料にしようってか?ユニコーンを転移させてきたからMPが枯渇しているな。残念だがお前は、ここで死ぬことになりそうだな」


「アッハッハッハ!私が死ぬですって?どの口がそれを言うのかしら?」


「お前ら転移で逃げるのにけっこうなMPを使うんだろ?それに、いざという時に自爆するにもMPを使うんだろ?今のMPじゃどちらも無理だろう?」


「何故それを!まさか、ミニーツ様が仰っていた結界師って」


「誤算だったな。皇帝陛下の結界を張っていることを知った段階で、警戒するべきだったな」


「殺して!何してるの!早くコイツを殺しなさいよ!」


ウトニカがユニコーンに向かって叫んでいる。しかし、ユニコーンは体をワナワナと震わせるだけで動こうとはしない。


「無駄だ。既にコイツは俺の結界の中に閉じ込めてある。コイツはイリモに欲情してやがったからな。きっちりお仕置きをしてやらないとな」


「さっきアンタ結界を突破してたじゃない!そのくらいの結界何で破れないのよ!」


「ああ、俺の結界を破った場面はお前らが見た幻だ。公女がユニコーンに襲われているのを見た段階で結界を張らせてもらった。しかしユニコーンってすごいな。あんな突撃力と水魔法を使うんだからな。そしてチンケだが、結界も張れる。これじゃ冒険者たちは太刀打ちできないわけだ。もしかしてかなりの上位種か?・・・まあいい。こいつもかなり人を殺しているようだからな。お仕置きだ」


俺はユニコーンに張った結界を縮めていく。


「ご主人!ユニコーンの角は万病に効く薬になるであります!これを損ねてはならぬでありますー」


「ほう、そうか」


俺はホーリーソードを抜き、ユニコーンに近づく。


「ガシャン!」


機械が壊れるような音と共に、ユニコーンの長い角がゆっくりと落ちて行った。


「ブヒヒヒヒヒーン!!!」


「痛い、じゃねぇよ」


俺はさらに結界を縮めていく。


「ブヒッ!ブヒヒヒン!!ブヒィ!ブヒィ!ブヒィ!ブヒィ!ピギャァ!!!」


断末魔の絶叫を上げてユニコーンは肉の塊になった。


「さて、ウトニカ。今度はお前の番だ」


俺は結界を強化して女の自由を奪う。そして手を伸ばして女のフードを取る。中からは黒いウサギ人族の女の顔が現れた。俺は女の頭の上に手を置く。


「ふっ、思った以上にフケてるんだな。ずいぶん苦労したのか?」


「くっ!うわああああ!なっ!なんで!」


「念のために、お前の能力は全て奪わせてもらった。『転移』はもう二度と出来ないぞ?」


「くっそー!ぬぅぁぁぁ!」


女の叫び声がうるさいので、結界内で強制的に女のMPを全て奪う。強烈な眠気に誘われた女は睡魔と戦っているのか、ぐったりとした様子になった。


「さて、こいつをどうしようか?」


「このまま眠らせたまま、人質とするのはどうでありますかー」


「まずはレコルナイとその部下たちを王宮から離さないとな」


「リ、リノスさん!あれ!」


フェリスの声がした方向を向くと、数百頭のシカの体が光っている。そして、群れの前に小さな小鹿が現れた。


シカたちは一匹、また一匹と次々と消えていく。消えていくたびに光の量は増大し、ついに目を開けられないほどのまばゆい光が辺りを覆った。


光の中から現れたのは、一頭の巨大なシカだった。


身体も大きいが、その体程も大きな角を生やしている。元々は白鹿だったのだろうが、体中に赤黒い斑点が浮き出ており、そして、体のあちこちに傷を負い、流血している部分もあった。シカはフラフラと前に進むが、ドウという音と共に膝をついて座り込んでしまった。


恐る恐る俺たちはそのシカに近づく。


「これは・・・立派なシカでありますなー」


「ずいぶん酷いケガをしているみたいですね」



『ニンゲンよ・・・コンシディーの命を救ってくれたこと、感謝する』



頭の中に男の声が聞こえた。どうやらこのシカが念話で話しかけてきているようだ。


「あなたは一体・・・?」



『我は、鹿神だ。ご覧の通りの有様ゆえ、コンシディーを助けたくとも助けられなかった。そなたたちには感謝する』



「鹿神と仰いますか!なぜ、ニザの作物を食い荒らしたのですか?それにその傷は・・・」



『うむ。そなたたちであれば、話をしよう。作物を食したのは、民を守るためだ。それは・・・』



「鹿神様!あなたは・・・何ということを!」


鹿神の話を聞いて、俺も、ゴンも、フェリスも、ルアラも、全員が泣いていた。

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[一言] すげー後付け展開みたいな流れ来た…
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