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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第二十七章 僕のお嫁においで編
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第八百九十七話 夢だ、夢だ……

その日の夕食は焼肉だった。いわゆる、塩タン、カルビ、バラ、ハツ、ホルモン……などなど、色んな部位が出てくるフルコースだ。もちろん、サラダもある。野菜と肉のバランスが上手に考えられている。


我が家の焼き肉は、それぞれがめいめいに焼くというスタイルだ。赤く焼けた石を目の前に置き、好きな肉を取って焼く。もちろん子供たちは小さいので、大人が焼いてやるのだ。


フェリスなどはよく食べるので、彼女用に大きな肉の塊も用意されていて、そこには大きな剣も置かれていて、好きなだけ切り取って食べるというスタイルもある。最初は彼女専用だったが、子供たちには大うけで、いつしかフェリスが肉を切り分ける係になった。


子供たちはやはり脂身が好きなようだ。俺はホルモンをじっくり焼き上げてから食べるのが最近のお気に入りだ。この世界では牛の内臓は食べない。まさに「放るもん」、と言われるように、そのまま捨ててしまう。だが、ペーリスの買い付けによって最近は、ホルモンも食卓に上るようになった。最初は、リコたちは敬遠していたが、俺があまりにも美味い美味いと言って食べるので、いつしか彼女らも食べるようになった。


意外かもしれないが、肉をたくさん食べるのはメイとマトカルだ。そして、ソレイユもよく食べる。シディーはどちらかと言うと脂身の少ない肉を好む。リコは色んな肉をバランスよく食べている。


メイは特に脂身が好きだ。油の塊をカリカリになるまで焼いて、それを食べたりする。それに彼女は甘いものも大好きで、その風貌からはあまり想像できないような食べ物の好みをしている。まあ、普段ずっと頭脳を使い、色々な場所を歩き回っているので、糖分とたんぱく質を体が欲するのかもしれない。


マトカルの場合は、軍人であり、自らにも厳しい訓練を科すこともあるために、体力をつけるために肉を食べているという感じだ。そう、アスリートというか、ボディビルダーのような肉の食べ方をする。そのお陰もあってか、今の彼女の体はバッキバキだ。腹筋などそれは見事に割れている。


ソレイユは肉全体が好き、と言う感じだ。それこそ何でも食べる。野菜は基本的に食べずに、ひたすら肉だけを食べる。フェリスといい勝負だ。ただ、彼女の食べ方は少し変わっていて、最初は脂身の少ない肉から食べ、徐々に脂身の多い肉に変わっていく。そうなると、彼女の肉焼き石は油だらけになるのだが、そこに彼女はご飯を入れて、ゆっくりゆっくりとそれを焼く。味付けには塩と酒を使うのだが、かなりの量の酒を入れる。そしてその焼き上がったご飯を俺たちに振舞ってくれるのだが、これが実に美味いのだ。しかもそれは子供たちの大好物で、彼女は「お口を開けてごらん」と言いながら、エリルやアリリアの口の中にそれを放り込んでやる。最近ではピアもそれを食べるようになった。あれだけの酒が入っているのに、子供たちに食べさせて大丈夫かと思うが、アルコール分は飛んでいるので大丈夫らしい。シディー曰く、これには美容効果があるらしい。そういえば、妻たちの肌が最近キレイになってきたような気がするが、このお蔭だろうか。


そのシディーは脂身の少ない肉を中心に食べるが、最後の最後に一番脂ののったいい肉を食べる。ある意味では、この食べ方が最高の肉の食べ方かもしれない。彼女曰く、本当の肉の旨味は赤身肉にあるのだそうだ。


ペーリスは、先ほどのストーカー被害などなかったかのように、いつものように天真爛漫に振舞っている。あのベリアルを吹っ飛ばしたあとは少し不安そうな面持ちをしていたが、この屋敷に戻ってくるにしても数か月かかる程の場所にふっ飛ばしたと聞いて、ホッと胸を撫で下ろしていた。かなり魔力を込めたエアバズーカ―なので、下手をすれば死んでいるかもしれないが、きっと生きているだろう。これで諦めてくれれば御の字だが、きっとあのベリアルはあきらめないだろう。ストーカーとはそういうものだ。


ということで、この屋敷に結界を張り直したのはもちろん、あのベリアルにペーリスの姿は見えない効果を付与した結界を張り直した。あのベリアルが魔法を放った際、その魔力の特性は把握していた。かなり特殊な魔力特性をしていたので、おそらくペーリスが見えないのは彼だけになるだろう。


加えて、あのベリアルは嗅覚が優れているようで、ペーリスにはソレイユが調合した香水をしばらくの間、付けて外出してもらうことにした。そして、転移効果を付与した結界石を必ず持っていくことを徹底させた。


やれやれ、厄介ごとは去ったなと思っていたら、その夜、リコが俺の言ったセリフに記憶がないと言って、なかなか離してくれなかった。あのときと同じ、耳まで真っ赤にしながら問い詰めてくるリコがかわいすぎて、俺はずっととぼけていた。それもあって、寝るのが遅くなってしまい、俺は寝不足のまま朝を迎えることになった。


俺は少し寝過ごしてしまったのだが、リコはいつも通りの時間に起きていた。眠りが足りなかったという雰囲気は微塵もない。聞けば彼女は四時間寝られれば十分なのだという。子供たちのこともあって、基本的に七時間は寝るようにしていたので、それだけの睡眠時間が必要なのだろうと思っていたのだが、まさかのショートスリーパーだったとは……。結婚して数年がたつが、また新たなリコの側面が見えて、俺は少しうれしくなった。


◆ ◆ ◆


同じ頃、アウバウトは森の中で目を覚ました。そこは大きなクレーターの中だった。


彼はゆっくりと立ち上がる。地面がぬかるんでいる。どうやら柔らかい土の上にいるようだ。一体ここはどこだ。そうだ、ペーリス、ペーリスはどこだ。一体何が起こったのか……。彼は頭の中を整理しようとするが、うまく働かない。ただ、腹に凄まじい衝撃を受けたことだけは鮮明に覚えている。


そんなことよりもペーリスだ。俺の嫁にするのだ。そのペーリスはどこに行った……。翼をはためかせて飛ぼうとしたが、その瞬間に全身に痛みが走り、思わずその場に蹲る。


「グモモー。何だ。一体何があったのだ」


彼は何度も深呼吸を繰り返す。これまでこうやって傷を治してきた。最近では深手や欠損した体すらも直せるようになってきた。すぐに体の痛みは消えるはずだ。


だが、何度深呼吸を繰り返そうとも、痛みは消えなかった。それどころか痛みはどんどんひどくなってきていた。まさか、骨が折れているのかと疑ってみたが、どうやらそこに関しては大きな怪我はなさそうだった。


体に痛みはある。だが、もう動けるのではないか。そう考えて彼はもう一度翼を動かして飛び上がろうとする。


「グモっ! グモォォォォォ~」


やはり体に凄まじい痛みが駆け抜けた。先ほどよりも強い痛みだ。彼は蹲りながらなぜ痛みが消えないのか、戸惑いを隠せなかった。


ゆっくりと腰を下ろして天を仰ぐ。朝日がまぶしい。一体ここはどこだろうか。どうして俺はこのようなところにいるのか。思い出そうとするが、体中の痛みがそれを許してくれなかった。それどころか、呼吸も苦しくなってきていた。


「グモモ~。グモモ~」


アウバウトは体をくの字に折り曲げながらその場に寝転がった。相変わらず痛みはあるが、この姿勢が一番楽だ。なにより、呼吸がしやすい。


「グモモ……グモモ……」


彼はゆっくりと目を閉じて、再び眠りについた。いつしか彼は夢を見ていた。それはペーリスと二人で幸せな生活を送るというものだった……。

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