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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第二十五章 若者の情熱編
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第八百二十三話 いつもと違う

「では、行ってくるぞよ」


そう言ってジェネハは大空に舞い上がった。俺は家族と共にその姿を見送った。


ジェネハ曰く、ムーブの森に住まうハーピーたちを説得するのは、さほど難しくはないと言う。相手は彼女の後輩にして、部下に近い関係であるらしい。言ってみれば、ジェネハが重役クラスに対して、相手は係長クラスなのだそうで、一言やめろと言えばコトが済むのだそうだ。


本来ならば、ジェネハ自ら赴くような案件ではない。だが、森の騒動を指揮する者を調べるということであれば、彼女自ら行くのが手っ取り早いのだそうだ。


「あの森にはクラロマウスがおるからな。ちょうどよい」


クラロマウスは大型のネズミで、真っ黒い体躯をした、かなり獰猛な魔物だそうだ。素早い上に力も強く、魔物ランクもBランクに指定されている。個体を倒すにもなかなか手ごわい相手なのだが、それが群れで行動しているので、一旦目を付けられてしまうと、逃げ切るのはなかなか難しい。ハーピーも、個体で対応するとなると、敗れる可能性もあるほどの魔物らしいのだ。


だが、ジェネハは全く問題ないという。むしろ、その肉が美味で、彼女の大好物なのだそうで、久しぶりに美味い肉にありつけると言って、嬉々として出かけていったのだ。


そのジェネハは、翌日に屋敷に帰ってきた。疲れた様子も見せず、淡々とした様子だった。ただ、その足には大きな黒ネズミが二匹掴まれていて、実に不気味だった。これがいわゆるクラロマウスらしい。彼女は土産だと言ってそれを無造作に放り出すと、森からハーピーたちが飛び出してきてそれに群がった。彼女らは美味い美味いと言ってそれを食べていたが、到底子供たちに見せられるような光景ではなく、俺は思わず苦笑いを浮かべながらその光景を見守った。


「ムーブの森のハーピーたちは動かぬことを約束させた。妾の到着が一日遅れていたら、あ奴らは攻撃を開始しておった。危ないところじゃった」


ジェネハの話によると、ムーブの森に生息する百羽のハーピーは、三つに別れてそれぞれ、フラディメ、サンダンジ、ケダカに攻撃を仕掛けるつもりだった。特にケダカとフラディメには、大部分のハーピーが投入される予定であったとのことで、ジェネハの言う通り、一日彼女の出発が遅れていれば、あの国々は大惨事になっていた。ある意味では、あのバカ殿の提案は、この三国を救ったことになる。


ただ、疑問なのはなぜ、ハーピーがそんな騒動に加担することになったのか、ということだ。それはジェネハが説明してくれた。


「この騒動を指揮している者は、マモ、というオークキングじゃ。ヤツは森に住む魔物たちに、人族への復讐を説いておる」


聞けば、ケダカ王国国王ビオンは、ムーブの森に侵攻したときと撤退するときに、オークだけではなく、多くの魔物たちの領域を犯したらしい。当然、領域を侵された魔物たちは、その者を排除するべく動いた。だが、幸か不幸か、国王はその場を逃げおおせた。魔物たちはその後を追ったが、王国軍に討伐された。


この騒動で、いわゆるランクの低い魔物たちは、オークらと同様、森の外に出て人族を襲撃したが、ランクの高い者たち、言わば、知能が優れている者たちは静観していた。そうした魔物たちに、オークキングであるマモは、再び人族の襲来があること、そのときは、今回のような規模ではなく、さらに大きな規模となるであろうことを説き、やられる前にやれとけしかけたのだそうだ。その言葉に、割かし多くの魔物が賛同しているのだそうだ。しかし、ジェネハがハーピーたちを説得し、人族が森に侵攻する意志がないことを伝えたことで、おそらく高ランクの魔物たちが動く可能性は低くなったのだと言う。


「あ奴らも、できるだけ争わずに生きていたいと思っておるからな。穏便に暮らすのが一番じゃ」


そう言ってジェネハは頷いた。


さて、森の魔物たちは説得できつつあるが、問題はオークキングのマモだ。彼の心は侵略者憎しで凝り固まっているのだと言う。他の魔物たちに協力を断られたとしても、彼は最後まで抵抗を続ける覚悟なのだそうだ。


「それは、己が得た地を侵略されておるからな。マモの気持ちもわからんではない」


とはいえ、今はその砦はオークらのものになっているのだ。もし、ケダカ王国側がその砦を放棄してオークらのものと認めれば、コトは収まるんじゃないかと思うが、さすがにジェネハにはオークキングの気持ちまではわからなかった。


「ま、ケダカの王様に聞いてみてから後のことは考えるか。ありがとうな、ジェネハ」


俺はそう言って、ジェネハを労った。


◆ ◆ ◆


ケダカ王国国王ビオンは、使者が到着してから二週間後にフラディメ王国にやって来た。俺からすれば遅いの一言だが、ケダカ側にしてみれば、魔物たちの襲撃を受けながらの訪問となるために、色々と準備が大変であったようだ。


現れたのは、国王ビオンと宰相マガタ、そして、二人に従う者十名といういで立ちだった。対する俺たちは、リボーン大上王父子とニケ王、そして俺という三人での出迎えとなった。


フラディメのアリスン城の一室に通された俺たちは、部屋に入るや否や、宰相マガタの謝罪を受けた。


「リボーン大上王陛下、並びに、メインティア王陛下には、我が国の騒動のために、大変なご迷惑をおかけしました。誠に、申し訳ございませんでした」


宰相マガタが深々と腰を折る。それに続いて、従者たちが深々と腰を折る。国王ビオンは少し頭を下げただけだった。この人は喋らないのかと思っていると、国王ビオンがゆっくりと口を開いた。


「我が国におけるムーブの森の状況は、今のところ、大規模な魔物の襲来はなく、膠着状態であると言える。我が国軍が森を包囲しているため、今後も大規模な襲来はないと思われる。安心されたい」


その言いように、ビオンの隣に控えていた宰相マガタがチラリと視線を向けた。それはそうだろう。詫びに来た者の態度ではない。リボーン大上王が怒鳴り散らすかと思ったが、意外に彼は冷静だった。


「ウム、それを聞いて安心した。じゃが儂は、森の鎮静化はまだまだ先であると考えている。我がフラディメ王国は引き続き、森の動向を見守ることとする」


大上王の言葉に、ビオンはゆっくりと頷く。


「まずは、今後のケダカ王国の取り組みを伺いたい」


大上王の言葉に、宰相マガタが口を開く。


「我が国も、大上王陛下のお考え通り、まだまだ沈静化には程遠いと考えます。従いまして、国軍を配置しまして、森からの襲撃に備えたいと考えます」


「いや、兵を引かれてはいかがかな?」


出し抜けにメインティア王が口を開く。国王ビオンと宰相マガタが、コイツ、何を言っているんだと言う表情を浮かべる。


「森の魔物の大半は、森から出て我々を襲うことはないと聞いている。我々を襲撃しようと考えているのはオークキングくらいだ。このオークキングを説得できれば、すぐさま兵を引いたほうがよいと私は考える。徒に、森の魔物たちを刺激するべきではない」


「お、畏れながら、そのお話しは、一体どこから……」


「宰相殿の懸念はもっともだ。それは、私からではなく、隣に座るアガルタ王に聞かれたらいいんじゃないかな。ちなみに、アガルタ王の隣に座られているのは、サンダンジのニケ王様だ」


「あ……アガルタ王様、ニケ王様……。まさか……」


「そのまさかだよ。貴国にとっても、我が国を出た後でサンダンジに行くのは苦労だ。そう思ってニケ王様においでいただいた。アガルタ王は、我が国が無理を言っておいでいただいたのだよ」


……どうしたんだ? いつものバカ殿じゃない。立派な王様になっているじゃないか。俺は思わず、メインティア王の顔を覗き込んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 さて、話し合いは……無理な気が……?
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