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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第二十四章 ラウスト・リンデーズ編
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第七百八十三話 ヒダの内情

ミンズ王国の使者がヒーデータに着いたその頃、隣国ヒダにもミンズの使者が訪れていた。


ミンズ王国国王リイジの使者として、側近であるマムラとその子サンクが率いるミンズの兵二千は十手に分けられ、それぞれ先頭には侍大将が乗った騎馬が進んでいた。タカ郷に入るとカハラ川の川幅は広くなり、川の両側に点々と村落が見えた。


サシマ村に入るとすぐ、騎馬武者数騎が走ってくるのが見えた。騎馬武者は馬から下りて片膝をついた。


「我らはオイロ城の者でございます。主君ヒダ・キモリの命令によって道案内に参りました」


男はそう口上を述べ、それぞれの名を名乗った。


オイロ城というのは出城であり、城というよりも山城、砦の類だった。カハラ川に沿って敵がくる場合の見張り所を兼ねている小さな砦だった。キモリの五名の家来は早速、先頭に立ってマムラらを案内した。二千の軍は細長く伸びた道端に小休止した。


マムラはその五名を引見して言った。


「出迎えご苦労でありました。して、キモリ国王様はどこにおられる」


「お館様はオイロ城ににてご一行をお待ちしております」


「そこまで来ておいでなのか」


マムラは大きく頷いた。ヒダ王国国王キモリはこの周辺一帯……といっても、版図で言えばミンズ王国の倍に当たる領地を有している。ただ、その大半は山岳地帯であり、食料などの生産高は、ミンズ王国とそう変わりはなかった。ただし、その山々から掘り出される鉱物は、この国の懐を潤していた。そう言った意味では、長い間友好関係を結んでいるとはいえ、そう簡単にミンズ王国に膝を折る国ではなかった。


とはいえ、ヒダとミンズは共闘して敵を打ち破った歴史があった。今のヒダがあるのは、ミンズからの援軍があってのことであり、そのためにヒダの国王は代々、ミンズ王国に最大の礼を尽くしてきたのだった。


そのヒダにミンズ国王のリイジが兵を入れたのは、単にアガルタとの友誼を深めるための貢物を拵えるためではなかった。その以前からヒダが隣国のエスギロ王国と通じている証拠を握っていたためだった。


ヒダ王国国王キモリとその子テルリは親子でありながら意見を異にしていた。キモリはミンズ王国の友誼を優先して、名実ともにミンズ王国の同盟国としてその領地を安定させてきた。キモリの次男ブモリは留学という形でミンズ王国に送られており、ミンズの皇太子ワギと義兄弟の契りを結ぶほどに友好関係を進めていた。ところが長男のテルリは父キモリと違って、ミンズと友好を深めていると見せかけて、裏ではエスギロと手を握ろうとしていた。そういう二股かけた行動はこの世界においてはもっとも嫌われ、結局はどちらにも信用されずに亡びるものという原則がわからなかった。父キモリは素直ではないテルリを嫌って、次男のブモリを後嗣に立てようとして、ミンズ王リイジおよび宰相のムーラに相談していた。


リイジはキモリの希望を入れてブモリをヒダに帰したが、ブモリは私がヒダの王位を継げば必ず兄テルリと争いが起こるから兄弟相争うことは嫌だと言って、ミンズ王国に帰っていた。


ミンズ王国宰相ムーラは、キモリの心情を汲んで、ブモリをミンズ王国の貴族として取り立て、キモリにはやむを得ぬ場合は分家から養子を立てたらどうかとすすめた。実際にキモリが分家からケイリという若者を養子に立てたのは、これから八年後のことであった。


テルリはエスギロとの国境であるチウジ城でこのことを知ると、刺客を差し向けて父キモリを暗殺し、同じ年の夏には養子のケイリをも殺した。そして、テルリがヒダの王位を継承することになった。だが、ヒダ王国はこの頃から目に見えて衰退していった。


それから二年後、ブモリがミンズ王国で起こった反乱に巻き込まれて戦死した。エスギロとミンズ、その他周辺国の中間地帯で何とか生き永らえようとしたテルリも、ブモリが戦死した三年後、隣国のミルキ王国と戦って戦死した。ここにヒダ王国は事実上亡びたのだ。


ヒダ王国のことを一足飛びに述べたが、これは後のことであり、現地点では国王キモリとテルリ父子の仲はまだ悲劇的なものになっていなかった。


ヒダ国王キモリは平静を装いながらも、わが子テルリがエスギロに通じているとミンズ王国に疑われていることをひどく気にしていた。特にその妻であるロアナは心を痛めていた。ミンズ王国とヒダ王国がさらに友誼を深めるために嫁入りしたにもかかわらず、その息子が裏切り行為に手を染めていることは、何としても許せないことだった。彼女からしてみれば、息子の振る舞いは、実の両親は言うに及ばず、両国の安寧を願って婚儀を結ぼうとした人々への裏切り行為に他ならなかった。二人は何回も使者をチウジ城にやってテルリをたしなめ、一方でミンズ王国に使者を遣わして、「息子テルリに限ってそのようなことはありません。テルリがエスギロと通じたと言いふらしたのは敵エスギロの策略に間違いありません」と弁解していた。夫婦は弁解しながらも、心では、テルリの情けない心を嘆いていた。


そこへミンズ国王リイジから使者が来た。テルリがエスギロと通じている証拠は歴然としているが、一応事実を取り調べるために側近のマムラをそちらにやるからもし、申し開くことがあれば、マムラに言ってもらいたい、とリイジの書状には認めてあった。


リイジがヒダ侵攻を画策したのは、この点にあった。まさかその理由がアガルタに貢物をこしらえるためであるという至極下らぬものであったとしても、今、ミンズ王国がヒダに侵攻したとしても、その理由は十分周辺国を納得させるものだった。不幸にも、普段政治には興味を示さなかったリイジがこれをチャンスと見て俄然やる気を出していた。


一方、宰相ムーラは国王リイジの心だけでなく、ヒダ皇太子、テルリの心をもとっくに見抜いていた。彼はかなり前からテルリがエスギロに通じていること示す証拠を入手していた。だが、テルリを攻めるとなると、チウジ城に兵を出さねばならない。とすると、その道案内という先鋒にはキモリということになる。同族間の戦いは双方が嫌うだろうし、家来たちも二つに割れる。そうなると完全な武力制圧は難しい。完全に制圧しようとするならば、マムラだけでは不足だ。もっと大軍を差し向けねばならない。宰相ムーラとしては、そんな戦いに自国の兵士を無駄にする気はさらさらなかった。今回、国王リイジがマムラをヒダに派遣することに対して気づかぬふりをしたのは、マムラの軍勢がテルリに対する示威運動になると読んだからであった。


宰相ムーラはその意思を部下であるソウネに言い含めて軍監としてマムラに付けていた。軍監即ち軍目付である。宰相ムーラの代理としてマムラ父子の傍にあって、戦いのやり方を見守り、必要な場合は助言もし、あとで宰相ムーラにその結果を報告する任務であった。


軍人ではない一介の貴族に過ぎないマムラ父子にとっては、このソウネという存在は誠に怖い存在だった。ソウネは宰相の側近中の側近である。つまり現在で言うならば、首相補佐官のようなものである。そういう者がついているのだから、あまり思い切ったことはできない。むろん彼らにとっても、国王リイジの意向を真に受けてヒダに侵攻し、周辺国との関係を滅茶苦茶にする気は毛頭なかった。むしろこの際は、特に大きな波風の立たぬようにして帰国することを願っていた。彼らは心の中で、なにからなにまでソウネに伺いを立ててからの方が無難であると考えていた。


「キモリ国王陛下がオイロ城まで出迎えに来られたとは、誠にもって鄭重なおもてなしですね」


マムラはそう言ってソウネの顔を見た。だが彼は何の反応も示さなかった……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今回の話が全く頭に残らない。最近、リノス自体が色々やるというより、世界観的な動きの中でのアガルタという国としての歴史的なものばかりで、正直面白くない。 [一言] この話、かなり退屈で読…
[一言] 更新有り難う御座います。 ……あぁ……うん、小国は結構ヤバそう?(国家運営)
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