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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第二十四章 ラウスト・リンデーズ編
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第七百八十一話 イヤな予感

雲一つない快晴の中、一隻の船が南に向かって進んでいた。秋も深まってきたためか、風が冷たい。つい先日まで上着はいらないと思っていたが、場所が海上ということもあってか、何かを羽織らないと長い時間甲板には立っていられない。


ダンゴはそんなことを考えながら、水平線を眺めていた。空にはカモメが飛び、さらには、多くの鳥たちが飛んでいる。


鳥たちは越冬するために温暖な南に向かっているのだろうか。それとも、魚を捕らえるために集まっているのだろうか。そんなことを考えながら彼は、ぼんやりと空を眺める。


彼は今、ミンズ王国宰相、ムーラの命令を受けて、ヒーデータ帝国に赴く途中であった。


ダンゴ自身、その命令は青天の霹靂ともいうものであった。一体、ヒーデータ帝国と誼を結んで、何をするつもりなのか。最初、命令を受けたとき、彼は混乱した。


よくわからぬ命令だった。アガルタとの誼を通じたいが、その前に、ヒーデータと誼を通じるのだと宰相は言う。そんな回りくどいことをせず、直接アガルタに使者を遣わせばよいではないか、ダンゴは心の中でそう呟いた。だが宰相は多くを語らず、まずはヒーデータと誼を結ぶことを伝え、まずは、かの国と顔つなぎをするようにと命令した。


顔つなぎをする、とは、相手国と交渉相手を定めるということだ。当然それは、決裁権を持っている者が望ましい。ということは必然的に、ヒーデータ帝国の宰相クラスの者と連絡が取れる態勢を整えることが理想と言えた。


ダンゴはミンズ王国の中でも比較的、そうした顔つなぎの使者として他国に赴いた経験が豊富な男であった。使者に遣わされた理由はいまいちよくわからぬとしても、使者としてどう振舞うか、そのことに関しては彼自身よく理解していた。


少々のんびりしたところはあるが、頭の回転が速く、他人の懐に飛び込むことができる才能を持った男だった。その性格は温厚篤実な者で、ミンズ王国内でも、人格者として通っていた男だ。ダンゴ自身も、国の外に出て旅をすることが何よりも好きであり、まさしくこの仕事は、彼に打ってつけであると言ってよかった。


ぼんやりと空を眺めながら彼は思考する。こうして空を見ながら考えると、不思議に色々なことが思いつくのだ。


一番手っ取り早いのが、宰相グレモントだ。まずは彼に会ってみるか。タンゴは頭の中でグレモントどのように会話を運ぼうかと思案する……。


◆ ◆ ◆


宰相閣下自ら俺の屋敷にやってきた。これはとても珍しいことと言える。いや、初めてのことか。大抵はヴァイラス公爵がやって来る。最初、この話を聞いたとき、俺はイヤな予感が止まらなかったが、実際話を聞いてみると、それは実に拍子抜けする内容だった。


「……こんなこと言っては何ですが、そんなことなら直接言ってくれればいいのに」


俺の言葉に宰相閣下はゆっくりと頷く。


「いや別に、我が国がミンズ王国と誼を通じることは何の問題もないのだが、わざわざアガルタに誼を通じることを我が国に尋ねてきたことに、少し違和感を覚えてな」


そう言って彼は出されたお茶に手を伸ばした。


「いやなに、これは私の勘なのだ。もしかして、あの国とアガルタに過去、何かあったのではないかと思ったのでな」


「俺の記憶にはないですね」


そう言って俺は隣に座るリコに視線を向ける。彼女もゆっくりと頷いている。


「アガルタとミンズ王国は確かに誼は通じておりませんわ。互いに使者を遣わしたことすらありませんわ」


リコの言葉に宰相閣下はゆっくりと頷く。


「まあ、同盟国を通じて仲介を頼む、というのはよくあることだが、大体そうした場合は、婚姻などの場合が多いのだが、どうもあの国はそういう狙いではないらしい。単に誼を通じたいだけのようだな」


そう言って彼は立ち上がった。


帰り際、馬車に乗り込む直前に、宰相閣下は立ち止まって振り返り、ゆっくりと屋敷を見廻した。


「こちらは、にぎやかでよろしいな」


見ると庭で子供たちが遊んでいる。少し離れたところで龍王が腕を組みながらその様子を見ている。俺は反射的に心の中で、バカ龍そこを動くなと呟いた。


ふと見ると、彼の表情が何とも柔和なものに変わっていた。いつも厳しい表情をしている彼からは想像もできない様子だった。彼は無言のまま、馬車に乗り込んだ。


「……もしかして、宰相閣下は子供好きなのかな?」


「確かに、ヴァイラスはよく彼に助けてもらっていたみたいですわね」


もし、宰相という地位に就いていなければ、彼はいいおじいちゃんとして平穏な生活を送っていたのではないかと思った。ベンチに座りながら孫たちの遊ぶ姿に目を細めている姿が、何となく彼に最も似合っているのではないかと思った。


◆ ◆ ◆


一方その頃、ミンズ王国では国王リイジが側近のマムラを呼び出していた。


マムラは王の前だが、その表情は暗い。それもそのはずで、この王が嬉々として自分を呼び出すのは、大抵がロクでもないことが多かったからだ。


そんな彼の心情などまるで知ったことではないと言わんばかりに、国王リイジは口を開いた。


「よいことを思いついたぞ。これは私とお前だけの秘密だ。いいな」


マムラは以前にもこの言葉を言われたことがあったなと、心の中で呟いた。それはすぐに思い出すことができた。ずいぶん昔の話だ。まだ、王も自分も若者だったときのことだ。王が隣国の姫に惚れたのだ。何度アプローチしても返事さえもらえないにもかかわらず、王は彼女を諦められなかった。そこで、近習を務めていたマムラを呼び出し、いいことを思いついたと言って、その姫を攫う計画を打ち明けたのだった。


むろんマムラはその計画に反対した。そして、近習をクビになり、彼はしばらくの間無聊をかこつことになった。せまじきものは宮仕え、何か商売でも始めようかと考えていた矢先、先王のとりなしによって城に戻ることができたのだった。それ以来ずっとこの王に仕え続けてきているが、年に数回訪れる王の気まぐれの無茶ぶりに振り回される生活を送ってきていたのだった。


よほど下らぬ、いやもとい、良いアイデアが思いついたのだろう。目が輝いて鼻が膨らんでいる。王女を攫おうと計画したときと同じ表情だ。マムラは少し腹に力を入れた。


「ヒダに使者を派遣しようと思う」


「ええっ!?」


予想外にまともな話が出て、彼は逆に驚く。いや、ここで油断してはいけない。王の話を全部聞かねば油断してはいけないのだと自分を戒める。


「何を驚いている。ヒダとは長い間我が国と誼を通じてきた間柄だ。ご機嫌伺いの使者を遣わして何が悪い!」


「いいえ。何も悪いことではございません。失礼しました」


「うむ。では、ヒダに使者に立て」


「私が、でございますか?」


「お前を置いて他に誰がいるのだ!」


「宰相様はご存じなのでしょうか?」


「知るわけはないだろう! お前がヒダに行くのは、誰にも悟られるな」


やっぱり自分の予感は当たっていたなと、マムラは心の中で苦笑する。彼はうんざりしながら口を開く。


「ということは、密使ということになりますね。ちなみに、ヒダには何と?」


「鉱山を調査させてほしいと言え」


「鉱山?」


「ヒダには豊富な鉱山があるだろう。それを調査させてほしいと言うのだ。採掘方法から採取方法まで詳しく聞いてくるのだ。そして、さらに効率的に鉱物を採取する技術を提供したいというのが、使者に立つ理由だ。あ、むろん、我が国の鉱山技師たちも連れて行くことを忘れるな」


「承知しました。ですが、それでしたら、宰相様にその旨をお伝えしてもよいのでは?」


「わからぬやつだ!」


国王リイジは目を閉じて首を振る。


「鉱山を調査するのは、我が国がヒダを征服したときのためだ。正確な埋蔵量がわからぬでは、貢物を拵えるどころではないであろうが!」


マムラは一瞬、めまいを覚えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……この王様アホ過ぎだろ!?
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