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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三章 クルムファル編
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第七十七話  再会

奴隷市はかなりの繁盛ぶりだった。


会場の一番後ろに腰を下ろし、奴隷たちを眺める。今回はどちらかと言うと、性奴隷や兵士、冒険者のパーティーであれば需要が高そうな者たちばかりで、俺たちの購買意欲を掻き立てる者はいなかった。


しばらく休憩の後、犯罪奴隷の部になる。これは完全に冷やかしで見るつもりでいた。とはいえ前回はメイのようなとんでもない者が出てくる可能性がないわけではない。なかなかバカには出来ないのだ。


市が始まってしばらくした時、舞台袖が何やら騒がしい。どうやら女の犯罪奴隷が暴れているようだ。しばらくすると、三人の奴隷が舞台に引き出されたが、それを見て俺は驚愕した。


・・・猫人族のバカ勇者たちだった。


女の猫はずっと泣いている。そして他の男たちは暴行を受けたのか、顔が腫れ上がっている。三人ともボロボロの服を着せられている。


「さて、ナンバー16番でございます。猫人族の男・16歳、猫人族の女・15歳の生娘、猫人族の男・17歳!5000Gから始めます!」


意外に反応がない。シンとした空気の中、一人の貴族風らしき男が札を上げる。


「他にございませんか?ございませんか?」


「10000G!」


思わずそう叫んで、俺は札をあげた。


「10000G!他にございませんか?ございませんか?・・・それでは、10000Gで落札です!」


市の終了を待たずに、俺たちは外に出た。


「リノス、どうしてあの猫人族を購入したのです?」


「リコ、覚えてないかい?あれは勇者を名乗って騒動を起こした猫人族だ」


「おりましたわね。まさか本当にあの者たちですの?」


「おそらく間違いない」


落札者が集まる部屋に向かう。しばらく待っていると、奴隷商と思わしき風体の男が俺のところにやってくる。


「この度はご落札ありがとうございました。早速、購入の手続きを進めさせていただきたく存じます」


そう言って男は別の部屋に俺たちを案内した。


メイの時と同じように、金を払い、俺の血液を提供する。その直後、あのバカ猫たちが連れて来られる。舞台で見たボロボロの服ではなく、男はシャツ、女はワンピースに着替えさせられていた。一列に並ばされ、腕や手に俺の血液を付けられている。奴隷商が呪文を唱えると腕が光る。


「これで、契約は完了しました。もし、この奴隷がお気に召さない場合は、買取を致しますのでその際は是非、ご用命くださいませ」


そう言って男は名刺のようなものを置いて部屋を出て行った。


「この度は僕たちをお買い上げいただき、ありがとうございました。今後は必死で務めさせていただきます」


「ちゃんとした言葉が話せるようになってるじゃないか、バカ猫ー」


猫たちがまじまじと俺を見る。


「あっ!あの時の無礼者じゃ!」


女の猫人族が声を上げる。


「どうやら俺は、つくづく厄介ごとを引き寄せるらしいな。まあ、お前らと会ったのも何かの縁だ。ここじゃ話がしづらい。外で話そう」


俺たちはバカ猫たちを連れ、外で待っていたソーニヤとアンジェを連れて、ホテルのレストランに入った。


「腹減ってるだろ?好きなものを好きなだけ頼め」


しかし、奴隷たちはかなり戸惑っている。仕方なく、俺たちが頼む料理と同じものを頼むことになった。


「それにしてもお前たち、一体何で犯罪奴隷なんかになったんだ?」


「領主とモメたんだ。その時に領主とその家来たちに傷を負わせてしまったんだ」


「うわ~それは~」


「だからそんなに傷だらけなのでありますなー」


俺と別れてからのバカ猫どもはかなりの苦労をしたらしい。村から村へ渡り歩きながら、ある時は人に騙され、ある時は魔物に襲われたりしながら、旅をしたのだという。そして、とある町にたどり着いたとき、大規模な魔物の討伐があり、バカ猫たちも半ば強制的に参加させられたらしい。そこで、剣の心得のあるウィリスはそこそこ活躍し、回復魔法が使えるシェーラは後方部隊でかなり重宝された。それが縁になって町に住むことになり、ウィリスは傭兵として商隊の警護などを行い、シェーラは怪我人の回復を行う商売を始め、そしてユリエルはその教養を活かし、町の子供たちに読み書きを教える寺子屋のようなものを作り、そこで先生をしていたのだという。


彼らには基本的に欲はなく、三人が暮らしていけるだけのお金があればいいということで、シェーラとユリエルはかなり安価で仕事をしていたらしい。その結果彼らは町の人から多くの感謝をされ、かなり充実した日々を送っていたのだった。


しかし、シェーラに目を付けた町の領主が、彼女を妾に差し出せと言ってきた。当然三人共にその要求を突っぱねたが、領主はしつこかった。そして、その町を出る決意を固めて、旅に出ようとしたところを領主たちに捕まり、そこで大捕りものを演じた。結果的にウィリスは領主の従者に傷を負わせ、シェーラとユリエルも捕まる際に領主に怪我をさせた。それが罪に問われ、結果的に犯罪奴隷となり、帝都に売られてきたというわけである。


「人のために働いて、人に感謝される。すごく充実していたんだが、このザマだ。僕たちはよくよくツイていないらしい」


「あら、そんなことはありませんわよ?リノスに買われたのは、あなた方にとっては幸運だったと思いますわよ?」


「あなたは・・・」


「ヒーデータ帝国第一皇女のリコレットです」


「あっ、あの時の高飛車な女!」


「シェーラ!言葉を慎め!」


思わずウィリスが口を挟む。なかなかいいお兄ちゃんらしくなっている。


「ご主人様をリノスと呼び捨てにしておられたところを見ると・・・」


「そう、私とリノスは結婚したのですわ」


「けっ、結婚?え?何で?てっきり皇女様の家来になったものだと・・・」


その後、俺はリコとの結婚に至った話を聞かせてやった。


「そんなことが・・・。それにしてもご主人様はすごいや。皇女様を妻に迎え、帝国の名誉侯爵になり、第二皇子様の領地を管理するなんて・・・。そんな人に僕は随分と失礼なことをしたんだな」


「それが分かっていれば、十分だろう。いい経験してきたじゃないか。ダメだったらやり直せばいいんだ。それにしてもお前、随分と成長したな。これなら大丈夫そうだな」


「本当に、色々と苦労をした。でもいろんな人に助けてもらった。ご主人様の色んな人と話せというのは、間違いじゃなかったですよ」


そうして皆で、デザートを堪能しつつ、今後のことを話す。


「お前たちに頼みたいのは、店の管理だ。ソーニヤとアンジェは、結界石を売る店だ。軍の関係者なんかも来るから、舐められちゃダメだぞ。そして、ウィリスたちは、食材を売る店だ。これは秋ごろに開店する予定だから、その準備もしてほしい。むろん、店同士で人手が足りないときは、協力し合いながらやってくれ」


皆、無言でうなずく。


「お前たちの住居は店だ。しかし、寝るためのベッドやその他の生活品をそろえるのに時間がかかるだろうから、今日から三日間はこのホテルに泊まれ。その間に生活品を揃えてくれ。もちろん、服も買ってくれ。金はゴンに渡しておくので、必要があれば言ってくれ。ゴン、頼むぞ」


「承知したでありますー」


そして、次の日からゴンに連れられた5人の奴隷は、帝都の街で買い物に走り回った。


結果的に、結界石を売っている店については、広さがないために、ここで暮らすのは断念することになった。一方で、倉庫には二階があり、ここを生活の場として使うことになった。5人が入ってもまだまだスペースがある。ただし、キッチンとトイレがないので、そこが悩みどころであったが、ウィリスたちが自分たちで材料を買ってきて作ってしまった。旅をしている最中に身に付けたとのことで、こいつは意外に頼りになるかもしれない。


早速、結界石の店はルアラから引継ぎを済ませたソーニヤ親子が営業を開始した。特に大きな問題が発生することなく、今のところ順調である。それどころか、俺の気まぐれで店が開かれないことが無くなり、特に商人たちの間で評判が良いようだ。加えて、ソーニヤがそこそこの美人である。いい寄ろうとする軍人や商人もいるらしく、なかなかの人気ぶりらしい。


ウィリスたちの倉庫は、今のところガランとしているが、保存スペースと販売スペースとに分け、その間に壁を作るなど、着々と準備が進んでいる。収穫された野菜や作物を倉庫の前で露店を出すようにして売っている。こうしておけば、開店までのいい広告になるし、事前に味を知ってもらえれば、開店時に沢山の客が来るだろうとウィリスが提案してきたのだ。俺はそれに乗ることにし、カイリークをはじめとする各村や漁村への転移結界を倉庫の保存用スペースの中に設置した。そしてその中にも、冷凍用と冷蔵用の結界を張り、鮮度が落ちないよう万全を期した。


売る量は少ないながらも、ウィリスたちの店は繁盛している。ありがたいことに、開店を早くするように言ってくる客も多い。これまで苦労した分、ウィリスたちは愛嬌を身に付けており、それも客が訪れる要因になっている。


これ以降、俺は彼らを「バカ猫」と呼ぶことはなくなった。

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