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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三章 クルムファル編
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第七十二話  普段の生活とクルムファルのこれから

朝、起きるとまたもや一人だった。リコの部屋もメイの部屋も誰も居ない。また皆でクルムファル領に行ったのかと思いながらダイニングに降りると、皆が揃っていた。ホッと胸をなでおろしたが、何故か全員沈痛な面持ちだ。静かに、自分の席に着席する。


「おはようございます。朝食は食べられますか?」


「ああ、頼む」


ペーリスがドスドスとキッチンに向かう。他の女たちは皆、眉間にしわを寄せて考えている。


「みんな・・・どうした?」


しばしの無言の状態が続く。


「ここは、リノスに決めていただくしかないですわね」


「そうですね。クルムファルは一応リノスさんが領主ですし」


「一体何の話だ、リコ?」


「クルムファル領の今後のことですわ。確かに、漁業は持ち直すでしょう。しかしそれだけでは領民は、転移で送った者たちは、食べていけないでしょう。これから収穫の時期に入りますが、おそらく収穫の見込みはゼロでしょう。この一年は私たちで食料の支援はできるでしょうが、未来永劫とはいかないでしょう。領民が生活していく方法を考えていたのですわ」


「一応、荒れた田畑でも作物が育つ肥料は出来たのですが、塩を溶かす薬品はまだ、未完成です。申し訳ありません」


「メイが謝る必要はない。それについては俺も考えている。説明するからちょっと時間をくれ。まずは朝食を食べさせてくれ。そして、帝都の店も再開しなきゃならないからね」


「それについてですがご主人様、こんな石を作ってみました」


メイが大、中、小の薄緑色の石を取り出した。


「これにご主人様の魔力を込めていただければ、持ち主に結界が張れる結界石です」


ほう、と小さい石に魔力を込めてみる。すると石が赤く変色した。どうやらこれで完成らしい。試しに、ルアラにそれを持たせて軽くたたいてみる。・・・おお、ちゃんと結界が脹れている。どれどれ~とフェリスが叩く。見事に結界がぶっ壊れ、ルアラの顔面に右ストレートがヒットする。人形のように飛んでいき、気を失ってしまう。回復魔法をかけようと近づくと、股間からチョロチョロと流れるものを見つけた。俺は黙って回復魔法をかけてやり、風呂を沸かして、ペーリスとリコに後の処理を任せた。


「あれぇ?力を加減したつもりだったんですけどねぇ」


「さすがにドラゴンの力で殴ると、普通の結界では破られてしまうでありますなー」


その後、しばらく結界石のテストを行ったが、俺の「黒刀」を全力で振りぬいて初めて結界にヒビが入った。これであれば十分売り物になる。また、コイツの優れたところは、邪心や邪念を持つ人間には効果が出ないことだ。従って、盗賊の類がこれを活用するのは無理というわけである。ちなみに、大きい魔石が5日間、中くらいの魔石が3日間、小さい魔石で1日の効果である。


メイの作った結界石を持って帝都の店に向かう。開店すると同時に、たくさんの冒険者や商人が押しかけてきて、その日は大忙しだった。基本的に店番はメイに任せ、俺はひたすら結界石に魔力を込める作業をしていた。お蔭でかなりの在庫が出来、しばらくは俺が店に出なくてもよさそうだ。


俺がいない間にリコはクルムファル領に行き、現状の報告を聞いてきたらしい。特に大きな問題もなく、過ごせているらしい。漁師たちも久しぶりに漁に出たようで、新鮮なイカや魚、貝などが水揚げされたとのことで、またそれらを食べに行かねばならない。


そして夜、久しぶりにゆっくりと夕食を楽しみ、皆でプリンを食べながら、クルムファル領の今後について話をした。


「クルムファル領の今後についてだけど、一応俺の考えを言っておく。絶対じゃないから、気が付いたことがあれば言ってね。まず、農業だけど、これは田畑の上の塩を取り除かないといけない。それは俺がやってみることにする。そしてもう一つ、あのカイリークの町の近くに、ホテルを建てようと思う」


「ホテルって、あの帝都にあるような宿泊できるような施設ってことですの?」


「そうだ。あそこの魚は美味い。また、景色もきれいだ。そこに帝都から客を呼んで泊まってもらう。もしくは冒険者や旅人が泊まれるホテルでもいいかもしれない。そして、港を拡張する。あそこは、北方の交通の要所になる。あそこに船が止まることが出来て、宿泊する施設があれば、町は潤っていくだろう」


「そ、そんなことが果たして可能ですの?」


「できるかどうかはわからない。でも、やってみる価値はあると思うんだ」


「面白そうです!」


「私も、ご主人様の意見に賛成です」


「リノスさんがそういうのであれば、お手伝いします!」


概ね皆、賛成してくれるようだ。とはいえ、俺だけの意見では本末転倒なので、領内が落ち着いた頃に改めてクルムファル領の人間たちと話をすることにして、その日は寝ることにした。


俺とリコ、メイは離れにある風呂に向かうことにする。しかし、メイは一階の書庫に向かおうとした。


「メイ、どうした?」


「あ、ちょっと調べ物をしようと・・・」


「・・・せっかくだから今日は一緒に風呂に入らないか?」


「・・・よろしいのですか?」


「メイ、一緒に入りましょう!」


「・・・ハイ」


その夜、俺たちは久しぶりに一緒に風呂に入り、そのまま一緒の部屋に入った。


次の日の朝、三人でダイニングに向かう。朝からかなり汗をかいてしまったので、風呂に入ってきたためにリコとメイは顔が上気して、ちょっと色っぽい。俺はまだ、眠さと気だるさを残しながらテーブルに着く。いつものようにペーリスとフェリスが朝食の準備をしてくれる。最近では何故かルアラもその準備に加わっている。コイツは弟子にはしたが、この屋敷に住む許可は与えていないにもかかわらず、当然のごとく俺たちと行動を一緒にしている。ただ、フェリスの部屋に居候しているので、快適とまではいかない生活ではあるかもしれないが。


そして、俺とメイは店に、リコはクルムファルに出かけていく。俺は店番もそこそこに宮城に向かい、皇帝陛下と宰相閣下に会って、クルムファル領の惨状を報告する。


「・・・というわけで、何とか漁業は再開しましたが、農地は手付かずですし、収穫も見込めません」


「うーむ。そんなことになっていたとは・・・。儂の下に報告が上がってこなんだは、そういうわけか。まあもともとあの領地には、領民が食べていけるだけの作物は育たん土地だ。従って、帝国に納める税は塩だけなのだ。塩も難しいか?」


「いえ、塩田は再開していると聞いていますので、それは問題ありませんが、とにかく食糧不足に陥る可能性が極めて高いです。まあ、当面は我々で何とかしますが、どうしようもなくなった時は、陛下と宰相閣下におすがりするかもしれません」


「まあ、その時は帝国も何らかの手は打とう」


「それにしてもリノス殿、そのホテル計画は面白そうだな。余もそのような魚、一度食してみたい。それに海も久しぶりに見てみたいの」


「陛下が帝都を離れるわけにはいかないでしょう」


「いや、たまには余とて、政務を離れて休息したいのだ。それに、クルムファルなら口うるさい閣僚共や女たちから離れて、気に入った女子とゆっくり過ごせそうだしの」


「陛下がお望みとあらば、私は吝かではありませんが・・・」


「陛下、困りますぞ。政務を疎かになされては」


「何を言う宰相。世継ぎを残すのも、余の立派な政務ではないか。後宮は窮屈でいかん」


「陛下!」


「今すぐにとは言わん。しかし、リノス殿のホテルが完成した暁には、余も見に行かせてもらうぞ。それはそうであろう。我が妹の婿殿が建てた城のようなものだ。それを余が見分せずしていかがする?それも立派な君主の役割であろう?」


ぐうの音も出ない宰相閣下は無言で頭を下げた。


陛下のお墨付きをもらい、普段通りの生活が一週間ほど過ぎた時、店の休みを利用してクルムファル領に向かおうとしたその日の朝、屋敷に来客があった。


皆で朝食を食べていると、裏の玄関から声がする。


「ピウスです!緊急の報告があって参りました!」


意外な人物の来客に、俺とリコは顔を見合わせる。緊急の報告とのことなので、屋敷に入れ、皆が揃うダイニングに案内する。ピウスは俺たちに無断で転移結界を使ったことを手短に詫び、一気に言葉を吐き出した


「大変です。カイリークとトホツの町が魔物に襲われました!」

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