第七十一話 二匹目のドジョウ
魚の名前を書いているうちにちょっとごっちゃになってきましたので、ここでまとめておきます。
エサラハルはカツオ
オルレインはマグロ
ナイバーンはクエ
の設定です。
目が覚めると、屋敷のベッドの上だった。前日はどのくらい飲んだのか。どうやってここに帰ってきたのかすら覚えていない。頭がガンガンする。二日酔いだ。顔を起こしてみると、誰もいない。いつもはリコかメイが、下手をすると二人の美しい顔がそこにあるのだが、今日は誰もいない。
俺は回復魔法をかけて痛みを和らげる。ちょっとふらつくが、何とか立てる。そのまま俺はベッドから降り、服を着替えて部屋の外に出る。
「リコ~」
リコの部屋に行ってみるが誰もいない。ついでに、メイの部屋にもいってみるが、ここにも誰もいない。俺は階段を降りてダイニングに向かう。しかし、ここにも誰もいない。
「ゴン~。フェリス~。ペーリス~。ルアラ~。誰もいないのか~?」
我が屋敷で誰もいなくなることは、今までなかったことだ。ムクムクと不安が心の中に湧き上がってくる。みんなどうしたんだ?どこに行ったんだ?
そういえば、外にジェネハとイリモがいるはずだ。俺は慌てて馬小屋に向かう。そこには、イリモがいた。
「イリモー。よかった。お前は居たんだな?ジェネハは?みんなはどうしたんだ??」
しかしイリモは身をよじって俺から顔をそむける。
「イリモ?」
彼女は俺と顔を合わせようとしない。俺はしばし立ち尽くす。そして、弾かれるように転移結界に乗り、カイリークの町に移動する。海岸から騒がしい声が聞こえる。俺は全速力でその声の方に走っていく。
そこには人だかりができていた。その中心には・・・いた!リコだ!
「リコぉ~~~~!」
手を振りながら俺はリコの下に走る。ああ、この凛とした顔。真っ白い肌、まっ平な胸。リコだ、俺のリコだ。
「リコ~起きたらいないから心配したよー。よかったー」
「何を言ってって、くっさ!臭いですわ!お口の臭いを何とかしてくださいませ!」
目の前でリコに拒否られてしまった。大爆笑の中、俺は静かに口の中と体に浄化の魔法をかけた。そういえば、酒を飲みながらニンニクたっぷりのエサラハルのたたきを食べまくったのだ。そりゃ、臭うよね。
よく見ると、ペーリスもフェリスもルアラもいた。皆、ここの住人に朝食を届けに来たのだ。俺は完全に寝ていたので、置いてこられたようだ。そしてメイは、乾燥エサラハルを作る結界のところに居て、乾燥具合と味をチェックしている。
「たぶん、この製法でいけば問題ないと思います」
早速メイは、海人族の女たちにこの結界の運用方法を説明している。
取りあえず朝飯が終わると俺は、全員を一度集めた。エサラハルは駆除されたとはいえ、もう一つの漁師町、トホツもエサラハルに海を占領されているという。ここは塩の産地でもあるため、早く駆除しなければならない。ということで、カイリークには俺が結界を張り、最小限の人間を残して移動することにした。
歩くこと二時間、トホツの町に到着する。全員に昼飯の弁当を配り、食べながら作戦計画を立てる。基本的には前日と変わらない。短い作戦会議の後、エサラハル駆除作戦は決行された。
全員が手慣れた動きでそれぞれの役割を果たしている。前日を上回るハイペースでエサラハルは駆除されていく。そして、そのエサラハルを捕食しに、さらに大型の魚が姿を現す。
「・・・ナイバーンだ!ナイバーンが出たぞ!!」
海人族が大騒ぎになっている。聞けば、めったに現れない幻の魚であるとのこと。数メートルはあろうかという巨体。何千匹のエサラハルを一飲みにしている。白身が絶品とのことで、10匹ほどいるナイバーンも捕獲することにする。さすがの海人族もこの巨体の収容には手こずり、夕方近くになってようやく全てのナイバーンを捕獲することができた。
海人族が狩りをしている最中の俺は、乾燥エサラハルを作成する結界を張ると同時に、もう一つの結界の実験を行った。それは、結界内の微生物をなくしてしまう結界である。
かなりのMPを消費してその結界を作り、エサラハルを入れておいた。そして夕刻、それを結界から取り出し、食べてみた。正直、美味だった。缶詰の要領で作った結界だったが、どうにか成功したようだ。今回作った刺身やたたきは、ここに保存することにした。そして、解体できなかった数万匹に及ぶエサラハルも、ここに収納されることになった。
この日の夕食は、エサラハルのたたき、刺身とナイバーンの刺身である。ナイバーンの刺身はとてもとても美味だった。前日同様、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎであったが、同じ轍は二度踏まない。リコたちは俺が用意した屋敷の転移結界に乗って帰ったが、俺はそこにとどまり、朝まで飲み続けた。途中、海に向かってマー○イオンの物まねを演じるという失態?があったが、それはナイショの話である。
朝、二日酔いを回復魔法で何とか回復させて立ち上がる。前日、メイがレクチャーした乾燥エサラハルの作り方が伝わっているかを確認していると、リコたちが転移してきた。そして、皆で朝飯を食べ、人族の兵士や冒険者たちの中でここに残りたい者たちを募る。意外に数十人の人間が手を上げてくれる。どうやら一晩飲み明かしたことで、海人族と仲良くなったようだ。
トホツの海人族の責任者と話をし、そこに15名の人族を駐留させることにする。住居は海人族の空き家を提供してくれるという。そのお礼というわけではないが、この町にも結界を張り、邪心や邪念を持つものは近寄れなくしておいた。
そして、カイリークの町に戻った俺たちは、「魚が腐らない結界」をここにも張り、無限収納に入れておいたエサラハルをそこに移した。その後俺は、残りの人族を連れて、クルムファル領主の館に転移し、その近くに彼らの住居スペースを作った。
住居スペースと言っても、俺の結界である。きちんと外から見えないように、マジックミラーのような造りにしておいた。中は狭いが、防御力を高めたのと、中身が一定の温度になるように作ったので、かなりMPを消費した。約150個のシェルターである。終わるころにはフラフラになった。
その間、野郎どもは簡易的なトイレを作るなどして、女たちは生活環境を整えるなどしてくれたため、驚くほど早く最低限の生活環境を整えることができた。そして最後の力を振り絞って俺は土魔法で井戸を掘り、その周囲を固く錬成し、井戸が使えるようにして、その日の業務を終えた。ゆくゆくは自分たちの住居を拵えると言っている者もおり、そういうやつらには住宅建築を任せてもいいかもしれない。
本日の弁当を渡し、衣料品や生活用品を丸ごとおいておく。一瞬取り合いが始まるかと思ったが、ピウスやアーガたちが列整理を行い、それぞれに必要なものを平等に分け与えていた。そういった意味で、転移してきた人族たちから一言の文句も出なかったのは、彼らの統率力のなせる技だ。リコが育てただけあって、奴らは伊達ではないようだ。
生活用品をいっぱいに抱えた女性たちがリコに礼を言っている。
「私に礼は及びませんわ」
「でも、リコレット様・・・」
「これをやってくださったのは、主人のリノスです。お礼なら彼に言ってください」
「リノス様、ありがとうございました。私たち、生きていく場所が見つかりました」
「よかったな。いい街にしていければいいな!いや、みんなでいい街にしていこうぜ!」
「ハイ!」
溢れるような満面の笑みだ。リコも満足そうだ。
その笑顔に見送られながら、俺たちは一旦屋敷に帰った。MPを限界まで使ってしまった俺は、夕食も食わずに眠りについた。
そしてまた、朝を迎えた。




