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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第二十二章 なんでそうなるの!?編
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第七百四話   目立たぬためには……

「ほう……。そうか……」


俺の目の前では、陛下が、鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべている。その隣に控えている宰相閣下と、ヴァイラス公爵も、同じような表情を浮かべている。何ともおかしな光景だ。


どうでもいいことだが、陛下とヴァイラス公爵は、驚いた顔がそっくりだ。母親は違うのだが、やはりこの二人は兄弟なのだなと思わせる。


「本当にそれでよろしいのでしょうか、義兄上……」


ヴァイラス公爵が、まるで絞り出すようにして口を開いた。


「まあ、そんなにどっぷりと入り込む気はないのです。一つ二つアイデアを出して終わらせようと考えているだけですから」


「……」


ヴァイラス公爵は口をポカンと開けたまま、陛下と宰相閣下に視線を向けた。相変わらず二人は、何とも言えぬ表情を浮かべている。


「ま、まあ、アガルタがそうしてくれるのであれば、我が国としては、特に何も言うことはないが……」


宰相閣下はそう言うと、まるで覗き込むようにして陛下の顔を見た。彼はあらぬ方向に視線を泳がせながら、何か、物思いにふけっている。察するところ、ヒーデータとして、どのような対策を講じるかを考えているのだろう。


「わかった」


陛下はそう呟くと、ゆっくりと椅子から立ち上がった。そして、宰相閣下に視線を向けると、落ち着いた声で口を開いた。


「それでは、我が国からは、金三千を送ることとしよう」


「お言葉ながら陛下、セーファンド帝国は、我が国から援軍を求めておりますが……」


「ヒーデータの海はここ数日荒れておるために、兵士の輸送に時間がかかる。従って、取り急ぎ軍資金を送る……そんな口上でよかろう」


「畏まりました」


宰相閣下はそう言って恭しく一礼して、そのまま部屋を出て行った。


「リノス殿、くれぐれも無理だけはせぬようにな」


「承知しました」


陛下はさも申し訳ないと言った表情を浮かべている。俺はそんな彼に笑顔を向けた。


◆ ◆ ◆


結果的に、セーファンド帝国への支援は、俺自ら赴いて何らかの知恵を貸すことに決まった。俺一人で行って、すぐに帰ってこようと思ったのだが、それにはシディーが反対した。やはり、カーザ城の水を調べたいと言ってきた。


しかもそれに関しては、リコとソレイユ、そしてメイまでが賛成してしまっていた。リコとソレイユは、お肌にいい水、と聞いて食指が動いてしまったようだ。メイは研究者としての血が騒いだのか、その水の成分を調べたいと言ってきたのだった。


仕方なく、シディーも一緒に連れて行くことにした。


当然ながら、セーファンドに出かけていると言っても、毎晩転移結界を使ってこの屋敷に帰ってくる。のっぴきならない事情で現地に宿泊するときは、あらかじめ連絡を入れる。夕食がいらない場合も、必ず連絡を入れることを、リコから命じられてしまった。一応、一国を預かる王なのだが、中身は、そこら辺のサラリーマンと何ら変わらない。


で、俺の格好だが、やはり、素顔を曝していくのはよろしくないという意見で一致した。そこで、以前、ドルガの戦いで使った、ソレイユの布を今回も使うことにした。あれは実に便利だった。顔をぐるぐる巻きにしているにもかかわらず、息苦しさは全く感じなかった。ソレイユ曰く、あの布はさらに進化を遂げているらしく、何と、日焼け止めの効果もあるのだそうだ。まあ、それはどちらでもいいのだが。


問題はシディーだった。彼女をどうカモフラージュするかだが、基本的に彼女の顔を知っている者は少ないので、別に変装しなくてもよいのではないかと思ったが、意外にもセーファンド帝国とシディーの実家であるニザ公国は古い付き合いがあるらしく、帝国内にはシディーの顔を知っている者も少なくないのだそうだ。突然、アガルタ王の嫁がやって来たとわかると、色々と厄介ごとが巻き起こる可能性もあるので、やはり、彼女もある程度の変装をしていくことになった。


「それなら、私に考えがあります。ちょっと待っていてください。……決して、私の部屋を覗かないでくださいね?」


そんな物騒な言葉を言い残して、シディーはダイニングを出て行った。ピアたち小さい子供らが彼女を追いかけようとするが、そこはエリルが優しく引き留めていた。何としっかりした娘なんだ。我が娘ながら、いい女の子に育ったものだ。


「お待たせしましたー」


しばらくすると、機嫌のよさそうな声でシディーが帰ってきた。……何と彼女は、髪型を変えていた。


いつもはポニーテールにして、後ろの部分を三つ編みにしているのだが、それを何と、ツインテールにしているのだ。しかも、着ている服が、何かの制服? のような格好だ。ちょっと待てよ? この姿は、記憶がある。これは……?


「初〇ミク!?」


妻たち全員が振り返って俺を見た。その光景に俺も思わず驚いてしまい、絶句してしまった。シディーは不思議そうな表情をしているが、その格好は、それそのものだ。


「うわぁ……歌って踊れば、男子から人気が出そうだな……」


「何がですか?」


シディーが不思議そうな表情を浮かべている。子供たちは皆、唖然としている。それはそうだろう。いつものシディー母さんとはまったく趣が違うのだから。どう反応していいのか戸惑っているというのが正直なところだろう。


「ちょっと、歌って踊ってみてくれるかな? すごくかわいいと思うんだけれど」


「え~」


シディーは困ったなという表情を浮かべながら、歌って踊り始めた。


……違う。違うんだシディー。そんなゆっくりとしたリズムじゃなくて、そんな、日本舞踊なゆったりとした舞じゃなくてだな。もっとアッテンポな曲で、元気はつらつと踊るんだ。ああくそ、前世にいる頃にもっと覚えておけばよかった。今の俺には、どんな曲だったか、どんな踊りだったのか全然覚えていない。うん、何とも惜しい限りだ……。


「いいよシディー。ありがとう。とてもかわいいよ」


「リノス様、全然そんなことを思っていませんね?」


「……ツ」


シディーに痛い所を突かれてしまった。いやでもこれは、誰が悪いわけではない。誰も悪くはないのだ。


「いいえ、本当に可愛らしいですわ、シディー」


リコが間に入ってくれる。彼女は本当にそう思っているのだろう。目がとてもやさし気だ。他の妻たちも、どうやらおおむね好意的に見ているようだ。メイとソレイユはニコニコと微笑んでいる。マトカルは……よくわからないと言った表情だ。


リコ、メイ、ソレイユがシディーを取り巻いて、色々と服のことについて話をしている。彼女は彼女で、少し照れながら答えている。


「これならきっと、私であることはわからないと思います」


シディーは堂々と胸を張る。うん、こう言っちゃなんだが、国王の妃には見えない。その一方で、冒険者にも見えない。この世界にはいない人種になってしまっている。前世の頃なら、秋葉原や、東京ビッグサイトのイベントで見かけたものだが、さすがにこちらの世界にはそう言った場所はないだろう。少なくとも、俺は知らない。


「ただシディー、この格好は目立ってしまいますわ」


リコが冷静に突っ込む。その言葉を受けてシディーはううっ、と呻き声を上げながら怯んでいる。そうなのだ。俺が顔を布で隠していく予定なのだ。言ってみれば、ある程度素性を隠していくのに、シディーのこの格好はすべてをぶち壊している。だが、シディーはどうしてもこの格好で行きたいらしい。彼女の眼がそう言っている。


「じゃあシディー、その上からローブを羽織っていきなさいな」


ソレイユが口を開く。なるほど、ローブですっぽりと覆ってしまえば、目立つことはなくなる。だが、シディーは不満そうだ。せっかく工夫したのに、それじゃ台無しになるじゃないかと目が訴えている。そのとき、ソレイユが口を開いた。


「いざという時に、ローブを脱げばいいのよ。いきなり中からその格好で出れば、可愛さも倍増するわよ」


「……しかたないなぁ。じゃあ、そうするわ」


シディーは顔を赤らめながら、頷いた。

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[一言] 更新有り難う御座います。 「……キミのこと、ボッコボッコにし~てあげる~♪」
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