第七話 8歳になりました
8歳になった。バーサーム家の暮らしにもかなり慣れた。
奴隷という身分、最初はかなりひどい扱いを受けることを覚悟したのだが(師匠の訓練は虐待そのものだが)、予想以上に暮らし向きはいい。
侯爵家というだけあって、城の立つ湖のほとりに広大な敷地を有している。しかし、住居となる屋敷自体はそんなに大きくない。普段エルザ夫人が過ごす母屋の他に、使用人専用の建物があるくらいだ。使用人といっても、意外に多くはなく、メイドが4名と執事が1人、そして師匠のファルコという構成である。
母屋は二階建てで、一階が玄関ホールと応接室とダイニング、キッチン、そして風呂とトイレがあり、どちらかと言えば来客用のスペースだ。どの部屋も広く、調度品も一流だ。ダイニングなど、100名は収容できるんじゃないかと思うくらいの広さだ。ここでパーティーなども開かれるらしい。
二階は住居スペースで、エルザ夫人の私室もここにある。十いくつかの部屋があるが、使われていない部屋も多い。
「当家は侯爵家です。奴隷といえどバーサーム家の一員ですから、相応の格好をしなさい」
エルザ夫人の命令で、俺の普段着は執事と同じようなスーツ姿なのだ。実際、かなりカッコイイ。修行着も支給されており、夜はパジャマもある。食事もきちんと3度あり、さすがにエルザ夫人と同じものとはいかないが、それでも食糧事情はかなりいい。毎日きちんと、パンとスープ、シチューらしきものが出てくる
夫であるバーサーム侯爵は城に常駐しており、執務室で寝泊まりしている。執務室といってもかなり広く部屋数も多く、風呂やトイレもあるらしい。それだけでなく、いくつかの部屋を与えられており、そこに多くの侍女や部下たちと共に暮らしているのだそうだ。
その昔は最強国として名を馳せたジュカ王国だが、内部は腐敗しつつある。現王である、ジュカ・ヨーク・ファン4世は38歳という若さでありながら、暗君であると専らの評判であり、後宮にこもりっぱなしで、ほとんど政務を顧みることがない。自身の傍に美女を侍らせて、朝から晩までヤリまくっているらしい。
しかし、今年19歳になる王太子、ジュカ・ヨーク・オルレンは大変に聡明な人物であり、王宮内は既にこの王太子が政務を執る体制が着々と整いつつある。
エルザ夫人はこの、オルレン王太子の家庭教師であり、言ってみれば彼の育ての親みたいなものだ。当然、王太子の彼女に対する信頼は厚く、折に触れて彼女は王宮に赴き、王太子の相談相手となっている。そして、夫であるバーサーム侯爵は王太子の右腕として、政務を補佐する立場に立っている。
要はこの国は、王太子と、その彼を育てたバーサーム夫婦が背負っていると言って過言ではないのだ。その結果、何とか国としての体制は保っているものの、バーサーム家の失脚を狙う家も多く、実際に刺客を送られたこともあるのだという。
普段は師匠・ファルコが護衛についているため、刺客の類は問題なく排除されたのだが、王宮内にいるバーサーム侯爵と同時に狙われた場合、護衛の数が足りない。そのために結界スキルを持つ俺が、奴隷として買われたというわけだ。
貴族社会とは派閥の社会である。ジュカ王国は、王太子を筆頭とする派閥が最大勢力を誇っているものの、王弟であるヒーラ公爵や王国軍のカルギ将軍もそれぞれ派閥を持っており、油断がならない。それらの派閥に正面から対応できる体制が急務というわけだ。
バーサーム家に来た当初は、朝から晩まで師匠との修行だったのだが、最近は、師匠との修行の他に、「行儀作法」や「読み書き」といった教養の時間も設けられるようになった。
さすがに、中身は34歳である。読み書き、算数はあっという間に修得した。だって言葉は日本語だし、文字はローマ字なのだ。ちょっと頭の中で漢字変換が必要だが、きちんと句読点があり、読むのに不自由はない。
「もう少し結界のスキルを上げて、このままこの家の執事になれたら、平和な暮らしなんだけどなぁ」
ぼんやりとそんなことを考えながら、俺はベッドに入る。もちろん、そんな甘い考えはすぐに崩壊するのだけれど・・・。
リノス(奴隷結界師・8歳)
HP:45
MP:143
結界魔法 LV3(師匠の火魔法(LV3)は効かなくなった!)
火魔法 LV1(小さな火の玉が出せるようになった!)
水魔法 LV1(水が出せるようになった!)
回復魔法 LV1
生活魔法 LV1
詠唱 LV2
鑑定魔法 LV3
行儀作法 LV1
教養 LV3(二ケタの掛け算をやったら付いていた)