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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第二章 ヒーデータ帝国編
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第六十一話  驚くことが、いっぱい

異変に気付いたのは、朝のことだった。


森に棲むハーピーが、いつものように卵をもってやってきた。普段はペーリスかゴンがそれを受け取るのだが、その日はたまたま庭にリコがいた。


「ピィーピピピピピー」


「あら、卵を持ってきてくれたのね?ありがとう」


「ピィーピピィーー」


「へぇ~今日初めて一人で運んできたの?偉いわね」


「・・・リコ、ハーピーと会話が出来ている??」


「いえ、何となく言っていることがわかるのですわ」


この間まで、全く分からなかっただろうに。俺は慌てて鑑定スキルを発動させる。


ヒーデータ・シュア・リコレット(皇女・23歳)LV32

HP:69 

MP:188 

水魔法  LV2

棒術   LV2

MP回復 LV3

教養   LV4

行儀作法 LV4


教養スキルと行儀作法スキルが上がっている。そのうえ、レベルも一気に上がっている。これは一体何だ?


取りあえず、ゴン、イリモ、ジェネハ、ペーリスの鑑定を行ってみる。一部のスキルが上がっているものの、リコのような大幅な上昇は見られない。そして最後に、メイリアスを鑑定する。


メイリアス(奴隷賢者・17歳)LV47

HP:141  

MP:375 

錬金術  LV4

鍛冶師  LV4

薬師   LV4

MP回復 LV3

教養   LV4

行儀作法 LV1


自己韜晦


全体的にスキルが上がってますやん!LV3になってから20年は修行を積まなきゃならないものを、1年足らずでクリアしやがった。どうなってるんだ?


「おそらく、ご主人と夫婦の契りを結ぶと、スキルが上がるのでありましょうなー。おそらく、加護スキルの効果なのでありましょう」


すぐさま俺は、おひいさまの下に飛んだ。当然、いろいろな貢物を用意して。


「何じゃ知らんかったのか?加護スキル持ちと夫婦の契りを結べば、対象者のスキルは上がる。無論、加護スキル持ちのスキルが高い場合ではあるがの。そなたはスキル持ちゆえ、色々な効果が付与されるかもしれんな」


「と、いうことは、やればやるだけスキルが上がると?」


「いや、夫婦の契りで上げられるのは一度きりじゃろうな。加護持ちはそうした特性があるために、自身の身持ちには注意せねばならぬ。誰でも彼でもスキルを上げてしまえば、世が乱れることにもなるからの。妾が三年に一度、専属たちを呼び戻すのも、奴らの身持ちも見ておるのじゃよ」


まじかー。俺と関係を結ぶとスキルが上がるなんて・・・。世間に知れたらえらいことになりそうだ。


スキルが上がったおかげで、メイリアスの研究も進んできているらしい。どんどんアイデアが湧き出してくるらしい。おかげで彼女は空き時間を見つけては研究室にこもるようになった。


その忙しい合間を縫って、彼女はホーリーソードの鞘を完成させた。何と、剣を鞘に仕舞っておけば、自然と刃こぼれなどを修復し、常に剣を手入れされた状態にしてくれるという優れものだ。当然彼女を抱きしめたのは、言うまでもない。


教養レベルが上がったリコは、ペーリスとジェネハと話をする機会が多くなった。何を話しているのか、気になるところであったが、驚きの結果を生み出していた。何と、醤油を作り上げたのだ。俺の作る豆腐に合う醤油である。当然、我が家の料理のレパートリーは激増した。当然リコも、抱きしめまくった。


そしていよいよ先帝の喪が明け、ヒート殿下の戴冠式が行われることになった。俺たちも親族の一人として列席を許され、またしても着慣れない礼服に身を包み、リコと共に出席をする運びとなった。


着飾ったリコは実に美しかった。何せ、すれ違う貴族たちが振り返るのだ。「あのお方は誰だ?」「リコレット様だ」「ええっ!?」という会話があちこちで聞こえ、その旦那たる俺はちょっと鼻が高かった。


皇女として長い間宮城きゅうじょう にいたリコであるが、自分の身の回りのことは驚くほどよくできた。てっきりお姫様育ちで、箸より重いものを持ったことはないのだろうと思っていたが、自分のドレスは見事に着付けることが出来るし、裁縫も得意だ。これは、亡き家庭教師のクルムファル夫人の影響で、何でも一人でできるように教育されたのだそうだ。彼女の自立心は、こういうところから養われたようだ。


華々しい戴冠式が終わると俺たちは、新皇帝陛下から呼び出された。


「まずは、大儀であったの」


「さすが、帝国の戴冠式ともなると、すばらしい豪華さですね」


「まあ、見栄も多分にあるのでな。致し方あるまいよ」


「そんなものですか?」


「それにしてもリコレットは変わったな。何やら以前の刺々しさがなくなった気がするの」


「結婚したから・・・でございましょうか」


「うむ。そうじゃろうな。そなたの結婚は間違っておらなかったようじゃな。余の慧眼に感謝せよ?」


「そうでございますわね」


二人して、笑い合う。しばらくすると、皇帝陛下が真面目な顔つきになり、


「さて、こうして呼び出したのは他でもない。リコレットの家来たちのことじゃ」


昨年の反乱騒動以来、リコの家臣とお付きの女官たちは遠ざけられている。その上、反乱に関わった者は言うに及ばず、関わる可能性があるとみなされたものは全員、牢に繋がれるか、自宅で軟禁生活を送っているのだ。


「まだ宰相には相談しておらぬが、昨年の反乱騒動に関わった者どもを余は、全員恩赦を与えようかと思うのじゃ」


「兄上・・・よろしいのでしょうか?」


「既に反乱を企てたクルムファル伯爵は誅されておる。それに加担した者どもも伯爵と共に斬られておる。これ以上血を流すことは余も望まぬし、また余の即位直後に血を流せば、後の聞こえも悪い。捕らわれている者たちは身分は低いが、有能な者たちが多いと聞く。リコレットは帝国は有能な人材を活かしきれておらぬと申しておったのを思い出してな。その有能な者どもを斬るよりは役立てたいと思っておるのだ」


「しかし陛下、その方々は釈放されたところで、何か仕事はあるのですか?」


「そのことじゃよ。リノス殿には亡きクルムファル領を任せたいと思っておるのだ」


「それは・・・無理があるのでは?俺はジュカ王国の人間ですし」


「いや、表向きは我が弟、ヴァイラスに統治させることにする。リノス殿とリコレットは、恩赦を受けた者どもをクルムファル領に送りこみ、そこで活躍の場を与えて欲しいのだ。もともとあの領土は旨味が少ない。魔物の出る森もあるからの。まあ、海があるので、そこから採れる塩が旨味と言えば旨味であるがの」


「そのクルムファル領というのはどちらに」


「帝都の北東、カサーム湖を越えたところじゃ」


「私たちの館からは、森伝いに東に進めば、クルムファル領につきますわ」


「どのくらいの距離になる?」


「帝都からでしたら、馬で飛ばせば一日。私たちの館からでしたら、長くて二日、馬で飛ばせば一日半というところでしょうか?」


「うーん、俺は領主とかそういう面倒ごとはあまり好きじゃないんだけどな」


「リノス、お願い。今捕らわれている者たちは、幼いころから私と共にあった同志のようなものです。彼らを救ってあげてやってくださいませ」


「とりあえず、面倒ごとは宰相に任せておけばよい。今は皇室家の領地じゃ。好きにやるがよい。そこで成果が上がり、皇室に献上できるものが出来ればよし、できなければそれでもよし。ただし、民衆の心が離れたり、反乱を起こすようなことをしてもらっては困る。まあ、リノス殿に限ってそれはないだろうが」


「それはわかりませんが」


「いや、我が妹リコレットをそこまで手懐けておるのだ。民衆を手懐ける程度、リノス殿の手腕をもってすれば、たやすいことであるよ」


「そんなもんですかねー」


「まあ、恩赦を出すのはもう少し後のことになる。おそらく、夏ごろになるかの。それまでリノス殿はゆるりと考えてくれればよい」


やんわりと言ってきているが、一応皇帝陛下直々のお話なのである。これが宰相閣下に相談されるということは、すなわち命令として発せられるということになる。一応、名誉侯爵となっている俺は、その命令には逆らえない立場にあるのだ。


とりあえず、陛下の下を辞した俺たちは宰相閣下の部屋に伺い、ことの顛末を述べた。宰相閣下は頭を抱えながら


「また儂の仕事が増えるのか・・・」


といって嘆いておられた。俺は断ってもいいのだが、そうなるとその仕事が丸ごと宰相閣下の下に飛んでくるため、それだけはやめてくれと半泣きで懇願された。


帝都内の高級ホテルで一泊した後、俺たちは屋敷に帰った。その道すがら、上空を翔るイリモの上を、何か黒い物体が通り過ぎた。マップには特に何も表示されていないため、敵ではなさそうだ。


俺は気付かなかったが、その黒い影は俺たちの姿を見ながら呟いていた。


「うふふ、やっと、やっと見つけたわ・・・」


赤く光る瞳が、上空の俺たちを捉えていた。

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