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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十八章 友好の花編
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第五百五十二話 到着

目の前の男は、微動だにしない。だが、何とかして体を動かそうとしているのがよくわかる。だが、俺はこの男を自由にする気はない。


二度寝をしようと、すこしまどろんだそのとき、寝室の窓がノックされた。どうやらサダキチが来たようだ。何事かと窓を開けると、ボンイサオ男爵が怪しい動きをしていると報告があった。何でも、男爵の領地から早馬が出たのだという。しかもそれは、結界村で停まっていると報告してきた。


同時にシディーが起きてきて、その小さな手で俺の腕を掴んだ。ふと顔を見ると、何も言わず無言のまま頷いた。これは何とかせねばならない。着替える間もなく俺は、結界村に転移したのだった。


村に着くと同時に、「火事だ!」という声を聞いた。目つきの良くない男が、結界を叩きながらこちらに向かって来る。確かに、遠くでは炎らしきものが見える。男の声で人々が結界の中から出てきていた。


ふと、男の動きが止まった。ヤツは腰に着けていた剣を抜いたかと思うと、それを素早く振り上げた。その瞬間、俺は男に結界を張り、自由を奪った。


男の足元に金髪の女性が顔を出していた。頭だけしか見えないので、顔はわからないが、男はこの女性に明確な殺意を覚えていた。俺は男の襟首を掴むと、すぐさま都に転移したのだった。


着いたのは、アガルタ軍の司令部の中庭だった。中庭といっても石畳が敷き詰められていて、主に出陣式などの儀式のときに使われることが多い場所だ。そこに、男を転がす。


うつ伏せにされたまま、男は小刻みに頭を震わせている。どうやら、周囲の状況を確認しようとしているようだが、全く体が動かないために、相当焦っているようだ。


色々と聞きたいこともあったが、面倒くさいので鑑定スキルを発動させて、この男の過去を覗き見た。


……一言で言って、凄まじい人生だった。人生のすべてをヴィエイユに捧げたような男だった。


あくまで、ヴィエイユを神と崇め、彼女の命令を達成することを生きがいとしてきた。先のラッカーといい、この男といい、ヴィエイユに人生を狂わされた男は、相当の数に上るのだろう。


この男は多くの人間を殺めてきている。お陰で、「呪い」LV3が付いている。なかなかの殺人鬼ぶりだ。そのために、普段の人交わりが困難になってしまっている。元々はヴィエイユの傍に仕えて汚れ仕事をしていたが、この男がいるだけで、周囲の雰囲気がギスギスしたものになる。結局、ヴィエイユからアガルタに潜伏するよう命じられて、数年のときを過ごしていたようだ。


おそらく、ヴィエイユはこの男の能力を高く買っていたのだろう。それはそうだ。命令を下す前に、あの娘の心を察知して邪魔な存在を消してくれるのだから。あの娘としては、傍に置いておきたいだろう。とはいえ、この男を傍に置いておくと、己の気品と美しさを損なう恐れがある。そこで命じたのがアガルタへの潜伏だ。この男ならば、アガルタの情報をつぶさに調べるだろうし、最悪の場合、俺への鉄砲玉としても使える。男の過去からは、ヴィエイユのそんな意図も読み取れた。


さらに鑑定を進めると、この男は、つい数時間前に、クリミアーナから緊急信号を受け取っていた。ボンイサオ男爵の許に向かったドラゴンから受け取った書状を、男爵自らがこの男の許に届けていたのが、それだ。これは、教国が存亡の危機に瀕した際に送られるもののようで、受け取った者は、万難を排してミッションを達成しなければならないもののようだ。


クリミアーナからのミッションは、一人の女性の命を奪えというものだった。どうやらこれが、シディーが感じた邪悪な気配であるようだ。俺はため息をつきながら、鑑定を終了させる。


男はすでにすべてをあきらめたのか、まるで死んだように微動だにしないでいる。俺は男に声をかけずにその場を後にする。しばらく歩くと、歩哨に立っている兵士たちを見つけた。彼らは俺を見つけて怪訝な表情を浮かべていたが、やがてリノスだと気付くと、見事な挙手の礼を取った。


「すぐそこに一人の男が倒れている。いや、いわゆる殺し屋だ。今は俺の結界を張っているので身動きが取れない状態だ。しばらく、牢屋に閉じ込めておいてくれ。あ、自決する可能性もなくはないから、十分注意してな」


俺の言葉に、兵士たちは再び見事な挙手の礼を取り、足早に男の許に駆けていった。その様子を見ながら俺は天を仰ぐ。


「さて、あの男、どうするかな? 愛するヴィエイユの許に帰してやったほうがいいのかね? ただ、そうなるとヴィエイユが彼を始末しちゃうかな。腕は立つから、呪いを解除してどこかで働くか? ……まあ、クノゲンやマトと相談しなきゃいけないな」


そんなことをひとり呟きながら、俺は転移結界を発動させた。すでに日が昇り始めていた。


◆ ◆ ◆


セルロイトを乗せた馬車は、昼過ぎになってアガルタの都に到着した。馬車は都を進み、洗練された大きな建物の前で停まった。彼女は迎えに出た兵士に、大公からの親書を手渡して、自らが使者であることを告げ、懐からもう一通の書簡を取り出した。兵士はそれを受け取ると、中を検めた。


「ハッ、承知いたしました。遠路はるばる、お疲れ様でございました。我が王に取り次ぎます故、どうぞ、中でお休みください」


兵士は一旦詰め所に戻り、しばらくして戻ってくると、馭者の男に指示を与える。程なくして馬車は動きだし、建物の中に入っていった。


「いらっしゃいませ。お部屋までご案内いたします」


馬車から降りると、見目麗しい美女が出迎えていた。そのあまりの美しさに、セルロイトは思わず目を逸らせた。女性は笑みを浮かべながらセルロイトを案内する。その背中には羽が生えていた。


案内された部屋は、シンプルだが居心地のいい空間となっていた。セルロイトは呆然と部屋を眺めていると、案内の美女と入れ替わるように、緑色の髪を持った小柄な女性が現れた。


「迎賓館の館長を勤めますミンシと申します。この度は遠路はるばるお疲れ様でございました。どうぞ、こちらでゆるりとご休息くださいませ」


彼女はゆっくりと頭を下げる。優雅な所作が見事だった。おそらく、どこかの王に仕えていた方だろうか。そんなことを考えているセルロイトに、ミンシは、昼食は摂ったかと聞き、そして、この部屋の使い方や迎賓館のルールなどをテキパキと説明した。


「それでは、昼食をお持ちしますので、しばらくお待ちください」


ポツンと一人残されたセルロイトは、部屋に設えられた一人用のソファーに腰を下ろす。これから自分はどうなるのだろう。一体、どんなことがこの先、待ち受けているのだろうか……そんな考えが湧き上がってくる。だが、不思議なことに、強い不安感は湧き上がってこなかった。むしろ、何となく、ではあるが、この国では楽しいことが起こりそうな予感すらしていたのだった。


「やっぱり、国が変わったからかしら。それとも、旅の疲れのためかしら」


セルロイトは誰に言うともなく呟く。シックで落ち着いた部屋の中で、彼女はゆっくりと目を閉じた。こんなとき、マタカ様がいらしたら、彼は何と声をかけてくれるだろうか。きっと、すべてを私に任せておけ、お前は何も心配することはないのだと言って、抱きしめてくれたに違いない。そして、強く抱きしめた後、せわしげに自分の体を求めてきたに違いない。


彼との交わりは、すべての不安から彼女を解放してくれた。だが、そのマタカはここにはいない。そんなことはわかっているが、それでも、セルロイトは、マタカとの思い出に浸り続けるのだった……。

コミカライズ15話が公開されました。8/4 12:00まで無料公開中です。ゴンとおひいさまが登場! 是非、チェックしてみてください!(https://comic-boost.com/series?category=14)

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― 新着の感想 ―
[一言] そうが!零シリーズ全部4回やりな、書くスキルあかるよ
[気になる点] セルロイトはもうマタカに汚されとんか… [一言] コミカライズ読みました、おひいさま思ったよりデカかったw
[一言] 更新有り難う御座います。 ……ヴェイユ関連の男の病み方が半端ない……。
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