第五十四話 ヤル気がないのに、ヤル気は出ません!
「おかえりなさいませ!夕食出来てますよ!今日はホリデードラゴンのお肉を使ったステーキです!」
ペーリスが元気に出迎えてくれた。ステーキを中心に、フライドポテト、サラダ、そしてスープも丁寧に作ってある。さらには、ガーリックライスまで。ペーリスの腕前が素晴らしい。
「ありがとうなペーリス!さあさあ、みんなで食べよう!」
「「「いただきまーす」」」
「い、いただきます・・・」
ほぼ無理やり座らされたメイリアスは、オドオドしている。
「メイリアスも食べろ。ペーリスの料理は本当においしいんだぞ」
メイリアスにサラダを取り分けてやり、ステーキの肉をだしてやる。最初こそ戸惑っていたメイリアスだが、少しずつ食べているようだ。俺もドラゴンのステーキを口に入れる。美味い!この肉のうまみが素晴らしい。みんなもガツガツ食べている。
ふとメイリアスを見ると、下を向いて震えている。
「どうした?食べられなければ無理しなくていいぞ?」
「グスッ。こんな奴隷の私に、こんなに美味しい食べ物を与えていただけるなんて・・・。なんだか申し訳ないです」
「お前はウチの仲間だ。奴隷というのはたまたまだ。気にしなくていい」
「この料理は全てご主人様が考えられたのですよー。今日は私が作りましたが、ご主人様が作ると、もっと美味しいですよ」
ペーリス、ハードルを上げるなよーと言いながらメイリアスを見る。申し訳ない、と言いながら彼女は出された料理を全て平らげた。
デザートのいちごを食べて満腹した俺たちは、しばしまったりとした時間を過ごす。その間にメイリアスをペーリスに部屋を案内させようとしたが、メイリアスがそれを断った。
「私は、ご主人様の奴隷です。ペーリス様のお部屋をお借りするのは申し訳ありません」
「でも、寝るところがないぞ?」
「廊下でも構いません」
「廊下って・・・。ペーリスもいいと言っているから、気にしないでいいぞ?」
メイリアスは黙って俯いている。
「折角でありますから、ご主人の部屋で寝かせてあげればいいのでありますよー」
ゴンが口を挟む。
「うーん、ちょっと待ってくれ。メイリアスには色々と作業をしてもらわなきゃならないこともある。だからしばらくはペーリスと同じ部屋を使ってもらえないか?用がある時は呼ぶから」
「メイリアスさん、ご主人様も仰っていますから。それとも、ベリアルと一緒に寝るのはイヤですか?」
とんでもないです!と首をブンブン振るメイリアス。どうやら何とか納得してくれたみたいだ。メイリアスが俺の隣に来られたら、間違いなく襲う。今ここでメイリアスを襲ってしまうのは・・・。ヘタレな男というなかれ。
その後は、ペーリスがメイリアスに屋敷を案内し、驚きっぱなしの姿が何とも面白かった。さすがに一般家庭の中で風呂があるのは珍しく、思わず「うぇぇぇぇぇぇー」と女子にあるまじき声を出してしまったのは、ナイショにしておこう。
次の日、店を早じまいし、メイリアスの衣服を買いに行った。店員に勧められるまま買ったが、かなりいいものを勧められたようで、かなりのお値段であった。まあ、金のことは心配いらないし、買った服がどれも似合っていて、とてもかわいらしかったのでよしとすることにする。
メイリアスについては、これまで行っていた研究を継続してもらおうと考えている。そのために必要な道具や材料も併せて買うことにしたが、かなりの規模になりそうだ。ペーリスの部屋自体もかなり広いが、それがまるまる潰れてしまいそうだ。さすがに道具の一部はあきらめてもらったが、ここは屋敷の増築も考えねばならないかもしれない。
無限収納に入れてあるホーリーソードについては、メイリアスが全力で鞘を作るということで、これまた専門的な店に連れていかれ(連れて行けと命じたのは俺なのだが)、専門的な材料を購入することになった。何でも、かなり神聖な鞘を作るらしい。完成が楽しみだ。
遠慮深いメイリアスだが、ペーリスとはかなりウマが合うようで、二人はすぐに仲良くなった。二人とも教養LV3なので、お互いに知的好奇心を刺激し合っているようだ。
そして、俺とゴンは再びおひいさまの屋敷の前にやってきた。スキルのことを聞こうと思ったら、「そういうことはおひいさまが一番詳しい」と言われてしまったからだ。ゴンが一緒であればいつでも行けるそうなので、行ってみることにしたのだ。さすがに手ぶらというわけにもいかず、俺は両手に持ちきれないほどの貢物を抱えて祠の前に立った。屋敷の門の前に立つと、静かに門が開く。意外と自動ドアなのかもしれない。
玄関でおひいさま付きの女官、千枝さんと左枝さんに迎えられ、そのままおひいさまの部屋に案内される。今日はこの二人の女官の他に、袴をはき、裃を付けた狐も同席していた。
「おひいさまには麗しき・・・」
「固っ苦しい挨拶は抜きにしようぞ。よいよい。楽にせよ楽にせよ」
「そう仰っていただくとありがたいです。今日はお土産を持ってきました。よければお納めください」
そう言って俺は、あぶらあげ、おはぎ、ぜんざい、稲荷ずし、大学芋を差し出す。
「同じような物ばかりで恐縮ですが・・・」
「よいよい。ほほぅ。ぜんざいとな?どれどれ・・・美味いっ!この甘み!豆の歯ごたえ!やはり歯ごたえのあるものがよいう」
「おひいさま!」
窘められているが、どうやら気に入ってくれたみたいだ。
「拙者はサンディーユと申す。いつもおひいさまへの貢物、大儀である。おひいさまも女官たちもことのほか甘味を好んでの。そなたの貢物を皆、楽しみにしておるのじゃ」
「ありがとうございます。それでしたら、あぶらあげを辞めて、ぜんざいをお供えしましょうか?」
「ふむ。そうじゃな、ぜん・・・」
「いや!あぶらあげはそのままでよい。あれは酒のあてにまことに結構であるに!」
サンディーユが食い気味に割り込んできた。おひいさま、睨まない睨まない。
「かしこまりました。あぶらあげは火を通してパリパリにするとおいしいですよ。あと、よければ稲荷ずしも是非、お召し上がりください」
「うむ。これは・・・なかなか・・・よい、よいぞよ。これもまた、その・・・お供えを」
「畏まりました」
どうやらお土産は好評のようだ。大学芋は女官たちが気に入っている。一度にお供えをするのは難しいので、ちょっとローテーションでやろう。
「さて、本日お伺いしましたのは他でもございません。お尋ねしたいことがございまして」
「何なりと申してみよ」
「まず、結界スキルなのですが、これは転移ができると聞きました。これはどのようにすれば・・・」
「おおそれは、特殊なものじゃによって、普通では発動せん。術を結ばねばならぬ」
「術を結ぶ?」
「そなたらの言う、呪文というやつじゃの。サンディーユが詳しく知っておる。教えてもらえばよい」
「おひいさま、早く貢物を食したいために、某にお任せになりましたな?」
「そ、そんなことは、だだだだだ断じてないのじゃ!ぶぶぶぶぶ無礼者め!」
ハッ、とサンディーユは畏まる。おひいさま、図星を突かれたのがバレバレですよ?
「あともう一つお尋ねしたいことがあります。私の仲間に「自己韜晦」の称号が付いている者がおります。これを解除したいのですが・・・」
「じことうかい?何じゃそれは?」
「オホン、おひいさま。500年ほど前に解除に失敗したあれ、でございます」
「・・・ああ、あれか。あれは失敗・・・。いや、ししししし失敗ではないのじゃ!妾に限って失敗などないのじゃ!あれは成功したではないか!!」
「・・・某がお助け申して、事なきを得ましたな」
「サンディーユ、無礼であるぞ!!ええい、下がりおれ!それらのことは、このサンディーユに教えてもらうのじゃ!大儀であった!下がってよいぞ!!」
部屋を追い出されてしまった。俺たちはサンディーユに別室に案内された。
「さてさて、まずは結界術の結び方じゃが、これは難しくない。転移したい場所に向かって、『おひいさまおひいさままいる』と唱えながら転移したい場所の名前を言いながら魔力を注ぐ。そうするとそこに転移点ができる。そこに足を踏み入れると転移できるようになる」
おお、早速やってみよう。
「続いて「自己韜晦」の解除であるが、これはかなり高度な呪いであってな。本人と術者が自身の能力の封印を願いながら自身の成長を抑制するものだ。術者と本人双方から呪いをかけておるので、解除が難しい。できぬことはないが、あまりやりすぎてしまうと、本人の脳が溶けてしまう。一番良いのは、本人が封印している成長を解除したいと思ったときに、加護スキルを発動するのが効果的じゃ」
「おひいさまが失敗したのは?」
「・・・無理やり解除しようとしたのじゃ。あと少しで取り返しがつかぬところであったわ。儂が、お助けしたのじゃ」
そのお助けの方法は最後まで教えてくれなかった。そんな話をしていると、部屋の外に女官の千枝がやってきた。
「リノス殿、おひいさまからのご命令じゃ。今後、お供えするおはぎは、豆の形があるものにすることと、あぶらあげは甘いやつだけでよい、との仰せじゃ」
「なっ!某の楽しみを奪いおって!某への当てつけか!」
怒るサンディーユを宥め、結局屋敷にサンディーユ用の祠が立つことになった。
メイリアスの称号解除は、彼女の意思次第・・・。さて、どうやっていこうか。そんなことを考えながら、俺はおひいさまの屋敷を後にした。




