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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第二章 ヒーデータ帝国編
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第五十二話  坊やいらっしゃい、お姉さんが遊んでア・ゲ・ル

メイリアスを伴って家に帰ると、ゴンが出迎えてくれた。


「おや?その方は・・・随分高いスキルをお持ちでありますなー。うん?「自己韜晦」?吾輩も初めて見る称号でありますなー」


まあ、立ち話も何なので、屋敷の中に入る。メイリアスはおどおどしながら、俺に命じられる通りダイニングの椅子に腰を掛ける。


「さっきも言ったけど、メイリアスは奴隷の身分からは解放してあげたいんだ。ちょっと時間がかかりそうだから、しばらくはこの屋敷にいてもらうことになると思うが、遠慮なく使ってくれ。部屋はペーリスと一緒に使ってもらおうか」


「あの・・・私を解放とおっしゃいましたが、どうして私をお求めになられたのですか?」


「うーん、強いて言えば、何となくかな?深い理由はないよ。ただ、奴隷の身分のままだと不安だろ?俺も奴隷だったから、その気持ちはよくわかるんだ。メイリアスがどうして犯罪奴隷になったのかの訳は聞かせてもらうけど、大きな問題がなければ、解放したいんだよ」


「私は・・・多くの人を殺しました。死んだ人たちのために、私は死ななくてはなりません」


強い意志を持った瞳で、俺を見据えてくる。どうやらあまり多くは語ってくれそうにはなさそうだ。仕方がないので、俺はメイリアスの過去を覗く。


メイリアスは、羊獣人の母親とドワーフの父親の間に生まれた。母親は腕のいい薬師であり、父親もまた、腕のいい鍛冶師だった。頑固一徹な父親と優しい母親の一身の愛情を受けて彼女は育った。幼いころより両親の仕事に興味を持ち、二人の手ほどきを受けながら日々を過ごしていた。


もともと才能が豊かだったメイリアスであったため、両親の仕事は順調にマスターしていくことができた。夢は両親の仕事を受け継いで、両親を楽にしてやることだった。


そんな彼女に転機が訪れたのは、10歳の頃であった。国全体に疫病が蔓延した。突然高熱を出し、数日のうちに死に至るという恐ろしい病である。特に多くの子供がその被害にあった。国王は全国に触れを出し、特効薬の開発を命じた。当然その命令は、メイリアス一家にも届いた。一家は全力で薬の開発を行った。そして、特効薬の開発に至った。喜んだ王は、この一家に褒美を約束するとともに、全国民に向けて、この薬を無料で配布した。


そこで、悲劇が起こった。


特効薬を服用した子供たちの多くが命を落としたのである。すぐさま薬の服用は停止され、その原因が調査された。出された結論は、使用されている魔草にあるとされた。一定量を超えると毒となる魔草。その配合を間違えたために悲劇が起こった、そう結論付けられた。


その責を問われ、メイリアスの両親は処刑された。魔草を採取していた父、それを使用して薬を作った母、双方が罪に問われたのである。


本来ならばメイリアスも死罪となる予定であった。しかし、まだ幼いという理由で、メイリアスはある宮廷魔術師にその身を預けられた。そこで、命じられるまま様々な薬、魔道具の製作や錬成などを行った。こうした作業はMPを消耗する。毎日、気を失うまで続けられるこの作業は、メイリアスの身体に多大な負担をかけた。しかし、国民の生活を改善させる作業と言われていたこの作業はメイリアスにとっての贖罪であり、体をボロボロにしながら耐え続けた。


16歳になった頃、命じられる作業のことごとくが全く出来なくなった。どれだけ工夫を凝らしてもできない。己の力の限界を感じつつも、メイリアスは懸命に頑張った。しかしついに雇い主である魔術師から見放され、無情にも犯罪奴隷として売り飛ばされたのであった。


「いろいろな作業をしていたみたいだけど、専門的でよくわからないな。わかりやすく教えてもらえないかな?」


「!?どうしてそれを!?」


「ああ、俺には何となくその人のこれまでがわかるんだよ」


「・・・主に三つです。硬度と切れ味を最大限に高める刃物と、全ての魔法を無効化する材質、そして不老不死の薬を作ることです」


「随分と高度な作業をしていたんだな。それは成功したの?」


「ある程度の目星はつきましたが、実現には至りませんでした」


「逆に成功したものは?」


「人の力を最大限に活かす薬です。痛みも疲れも感じず、フルパワーで動き続けることができる薬です」


「それって副作用とかはないのか?」


「薬が切れると、数日間は動けなくなります。最悪の場合は死ぬこともあります」


・・・失敗作じゃねぇか。なるほど、いいように利用されていたのね。おそらく両親の死も、企てられているような気がする。メイリアスに関しては、特に邪念などはなさそうだ。


「よし、取りあえず、呪いを解除してもよさそうだな。ゴン、お願いできるか?」


「あなた様でも解除できるのでありますがー」


「そ、そうか?」


ゴンに促される形で、俺が呪いを解除することにする。メイリアスに意識を集中し、呪いの解除をイメージする。頭の中に呪いLV3が表示される。そこにMPをつぎ込んでいく。しばらくすると、呪いLVが2に下がり、そして呪いは消え去った。


「ふぅ。呪いは解除したよ。ステータスがまだ犯罪奴隷だな。やっぱり神官の所に行かないとダメみたいだ」


しかし、称号の「自己韜晦」が消えない。


「この称号はどうやって消すんだ?」


「吾輩は消したことがないので、わからないでありますなー。こういうことは、おひいさまが詳しいでありますー」


「またじゃあ、おひいさまに聞きに行くか」


そんな話をしていると、俺のマップに反応があった。かなり高速でこちらに向かって移動している。色は赤。確実に俺たちに対して敵意を抱いている。


俺は全員を促して外に出る。そして、それと同様にソイツは姿を現した。


「全く、余計なことをしてくれるわね。おかげで私が始末をつけなきゃいけなくなったじゃない」


現れたのは、禍々しい妖気をまとった、黒いウサギの獣人女だった。


「ポーセハイでありますかー。厄介でありますー」


ゴンが思わずつぶやく。


「ポーセハイは、幻術を操ることに長けた獣人族でありますー。こいつらは基本的に群れで行動するため、敵対すると群れで襲ってくるので、対応が大変なのでありますー」


「アーラ、今回は私一人だから安心していいわよー。アタシが用があるのは、その羊娘。その子を殺さないと、後が面倒くさいのよー。悪く思わないでね?」


「お前らがメイリアスとその両親を罠にはめて操っていたんだな?」


「あら、そこまでしゃべっちゃったの?ダメねぇ口の軽い女は。悪いけどあんたも死んでもらわなければならないわね。でも、ちょっと若くてカワイイじゃない?殺しちゃう前に、ちょっと遊んであげようかしら?」


「その前にちょっと確認させてくれ。このメイリアスは見たところかなりスキルが高そうなんだが、これはお前らが薬か何かでスキルを上げているのか?」


「勘のいいボウヤね。いいえ、犯罪をやらせたせいよ」


「犯罪?」


「同族を殺せば殺すだけ、人を寄せ付けない雰囲気を纏うけれど、その分技術の習得が早まるのよ。この子には多くの人の命を奪うことをさせたのよ。それは、この子が作った薬を使ってね」


「お前らの望みは世界を手に入れることか?それとも単なる殺人を楽しんでいるだけか?」


「その両方ね。どんな強敵の攻撃からも身を守る優れた武器と、不老不死の薬を作らせようと思ったけど、さすがにそれは無理だったのよね。まあ、ほぼ不死の兵士が作れそうにはなっているから、全く役立たずというわけではないけど、これ以上の成長が見込めないのは、生かしていても無駄だからねー。犯罪奴隷になればすぐ殺してくれるかと思ってたんだけど、まさかと思って来てみたら、全部しゃべっちゃってたとは予想外だわ」


「最後の確認だ。自己韜晦って何だ?」


「ジコトウカイ?何それ?」


「なるほど、バカなんだな。あ、そうそう、最後に確認させてくれ。お前は女か?それとも女装か?」


「・・・遊んでやろうと思ったけど、やっぱりあなたは殺すことにするわ」


「わかった。おいペーリス」


傍にいたペーリスが無言で俺を見る。


「悪いけど、先に帰って晩飯作っておいてくれ。コイツを片付け次第、すぐメシにしよう。美味いもん作ってくれよ」


畏まりましたーと言ってペーリスは屋敷に帰って行った。俺はメイリアスに向き直り、


「ゴメン、メイリアス。お前の服を買うのを忘れてたな。明日また、帝都に行って買いに行こう。悪いけど今夜は俺の服を着てくれ」


「なに余裕を見せているのかしら?私を油断させようとしているのかしら?フフフフフ」


ポーセハイの体から殺気と妖気が放たれる。俺は悪魔のような笑みをたたえて、ソイツと対峙する。


「俺は可愛げのない女はキライだ。俺に嫌われた時点で、お前の人生は終わってるぞ。今から死ぬ以上の苦しみを味わわせてやる。さて、どんな風にしてイジメちゃおっかなー」

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