表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第二章 ヒーデータ帝国編
51/1097

第五十一話  新しき仲間

「まったくロクなことしないね、アイツらは!ありゃ、リコレット皇女の兵士だよ。本当にもう、何なんだろうね!」


遊郭・ミラヤの女将、アキマさんはプリプリと怒っている。兵士たちはずかずかとステージ前まで進み、そこで関係者と何やら話をしている。残っている客は少なかったが、完全に場がシラけてしまった。アキマはもう帰るという。俺も一緒に帰ることにし、ペーリスを伴って部屋の外に向かう。


「ご主人様、今のは何をしていたのです?」


「ああ、ペーリスにはわからないかもね。奴隷の売買だよ」


「ドレイ?」


「お金で人間を買うんだよ。買われた人間は買った人間の言うことを聞かなければいけないんだよ」


「商品ですね?買った商品は自由にしていいのだと思います」


「ほー、いいこと言うね。この子の言葉、ウチの娘たちに聞かせてやりたいよ!」


アキマはそう言ってカラカラと笑う。部屋の外に出ると、奴隷市の関係者と思われる男が、俺に近寄ってきた。


「先ほどは失礼いたしました。お客様、ご購入の奴隷をお引き渡し致します」


どうやら今度奴隷市を帝都内で開催した場合は罰するが、今回に関してはお咎めなしらしい。俺はアキマと別れ、ペーリスと共にその男の後ろについていった。そして、ホテルの一室に通された。


しばらくすると、奴隷商と思われる小ぎれいな格好をした、恰幅のいい男が部屋に入ってきた。


「いやーこの度はありがとうございます。早速ですが、売買に入らせていただきたいと思います。お代金は・・・はい、これで結構でございます。それでは、奴隷契約に移ります。おい、連れてこい!」


羊の獣人が連れてこられる。先ほどステージとは異なり、ワンピースのような服を着ている。先ほどのは、体のラインをよく見せるために、あえて薄着にしていたのか。しかし、目の前で見ると本当に美しい。


「それでは恐れ入りますが、貴方様の血を一滴いただけますでしょうか?」


うん?血液?俺がエルザ様に買われたときはそんなことしていなかったが?


「奴隷契約は呪文でするのではないのか?」


「犯罪奴隷の場合は、購入者様の血液を頂戴して、血の盟約を結ぶことになっております。血の盟約を結びますと、奴隷は主人に対して一切の抵抗が出来なくなります。主人が犯罪奴隷に背かれることはあってはなりませんからな。法でも定められておりますので、何卒ご了承くださいませ」


犯罪奴隷の扱いはなかなか厳しいんだな。


「血液につきましては、その魔道具をご利用ください。その先を指先に付けていただくと、ひとりでに血を吸い取ります。痛みもございませんし、傷も残りません」


渡されたガラス棒の先端を指先に当てる。棒はすぐさま俺の血を吸い取った。それを受け取った奴隷商は、何やら呪文を唱えつつ、俺の血を羊の獣人の掌に垂らした。獣人の掌が光る。


「これで奴隷契約は完了しました」


「契約の解除はどうすればいい?俺が死んだらこの奴隷はどうなる?」


「血の盟約を交わした奴隷ですので、持ち主が死ぬと奴隷も死にます。お気に召さない場合は、近くの奴隷商であれば契約の解除はできるかと思います。その際は是非、私共にお声がけください」


「わかった。あと、奴隷の解放というのがあるだろう。それはどうすればいい?」


「犯罪奴隷を解放するなどあまり聞きませんが、その場合は、神官様の許可が必要になります。


「神官?」


「左様です。神官様がその奴隷の贖罪を認めた場合のみ、犯罪奴隷の解放が可能でございます。ただし、それには途方もない金額が必要になりますし、何より、神官様に認められるような贖罪を行わねばなりませんので、かなり難しいと言わざるを得ませんな」


つまり、犯罪奴隷に落ちたら、ほぼ解放は無理だと。この獣人は一体何をやったんだ?


「その獣人は毒をこしらえて、多くの村人を殺したと聞いております。このふてぶてしい態度をご覧になれば、どういう者であるかはお分かりかと思います。どうぞ、取り扱いには十分ご注意くださいませ」


そう言い残して、奴隷商は足早に部屋を出ていった。残された羊娘は俺の目の前にやってきて跪く。


「ご購入をいただき、ありがとうございます。この後は懸命にお仕えさせていただきます。どうぞ何なりとお命じ下さいませ」


「う~ん、とりあえずここを出ようか?俺はリノスという。ところで、君の名前は何ていうの?」


「・・・ございません。ご主人様にお付けいただければうれしゅございます」


「いや、今まで名乗っていた名前があるだろう?その名前は何だい?」


「・・・メイリアスです」


「じゃあ、メイリアスと呼ばせてもらうけど、いいかな?」


「ありがとうございます」


「じゃあメイリアス、早速だけど、俺たちは腹が減っている。お昼まだなんだ。あ、この子はペーリス。ウチの料理長だ。メイリアスはお昼は食べたのかい?」


「・・・いえ、まだです」


「よし、じゃあメシ食いに行こう。ビーフシチュー食べに行くか?」


「行きたいです!」


「よーし決まりー!」


俺とペーリスの後に続いてメイリアスが付いてくる。外に出ると、先ほどの兵士がウロウロしている。ご苦労なことだと思っていると、思いがけなく声をかけられた。


「リノス殿、あなたも奴隷をお求めになりますのね」


馬車の窓からリコレット皇女が顔を出している。


「先ほどの奴隷市に兵士が入ってきましたが、あれはあなたの御命令ですか?」


「ええ。獣人とはいえ、年端も行かぬ者を金で売買するなど、するべきではありませんわ」


「同感です。皆が自主的に、人が人を金で買うことを辞めるようになればいいのですが」


「どの口が仰るのかしら?その後ろにいる獣人はあなたが購入されたのではなくて?年端も行かぬ者をお金で買って慰み者にしている貴方に、今の言葉はいう資格はなくてよ?」


「そうかもしれません。いや、本当は解放してあげたいのですが、犯罪奴隷でしてね。なかなか解放するのが難しいみたいなのですよ」


「犯罪奴隷を解放する?よくもそのようなことをぬけぬけと・・・」


「リコレット様の仰ることは、俺も賛成です。奴隷になるとものすごく不安ですから。そんな思いを、子供たちに味わわせるべきではありません。俺に言う資格はないかもしれませんが、本当にそう思いますよ」


「一体あなたは・・・」


「俺も元は奴隷ですから」


リコレット皇女は一瞬ギョッとした顔をした。言うべきことではなかったのかもしれない。まあ、何か事が起こったら、その時はその時だ。俺は二人を連れてその場を離れ、移動する。ほどなく俺たちはビーフシチューの美味しいホテルに到着し、レストランに入る。


「これはリノス様、ようこそおいで下さいました」


「今日はウチの料理長と新人を連れてきました」


「これはこれはペーリス様、ようこそおいで下さいました。新人様は・・・ッ!リノス様、そちらのお方は・・・」


「ウチに新しく入った人です」


「さ、左様でございますか。どうぞこちらへ・・・」


いつも丁寧な対応をしてくれるボーイがやけに落ち着きがない。ああ、メイリアスの呪いのせいか。取りあえずメイリアスに呪いの影響がでないように結界を張っておくか。


席に案内される。しかし、メイリアスは座らず、俺の後ろに立ったままだ。


「メイリアスも座ったら?好きなものを頼んでいいよ。ここのビーフシチューは絶品だよ!」


「ごっご主人様と同じテーブルで食事をいただくなど、とんでもないです!」


「いいよ。そこに立たれると何か落ち着かないな。取りあえず座ってくれ。これは、命令だ。あと、何か食べたいものはあるかい?嫌いなものは?ない?俺と同じものでいいな?じゃあビーフシチューを三つとサラダ、そしてオムレツを三つください」


ほどなく、注文した料理が運ばれてくる。


「さあ、食べよう。ペーリス、この味をぜひ盗んでくれ」


「任せてください!」


ペーリスはモリモリ食べながら、フーン、あ、トマトだ、などとブツブツ言いながら食べている。メイリアスも食べながら思わず「あ、美味しい」とつぶやいている。気に入ってくれたみたいだ。


「さて、メイリアス。本当は君を奴隷から解放するつもりだったけど、なかなか手間がかかりそうなので、しばらくはウチにいてもらうことになるだろう。君のことは追い追い聞いていくけれど、まずは俺とこれだけは約束してほしい」


ハイ!と食べるのをやめ、飛ぶようにしてメイリアスは立ち上がる。


「いや、座ったままでいいよ。食べながら聞いてくれ。そんなに難しいことじゃない。まず一つは、俺に嘘はつかないこと。辛かったら辛い、嫌なら嫌と言ってほしい。二つ目は俺が秘密と言ったことは秘密にすること。これは奴隷契約があるから大丈夫か。でも、奴隷契約が解除されても、それは守ってほしい。そして最後の三つめは、元気でいてくれ。悲しい顔をされたままだと俺も悲しくなる。だから極力明るくいてほしいんだ。できる範囲で構わないから」


ハイ・・・と鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてメイリアスは頷いた。


ビーフシチューと料理を堪能して、俺たちはホテルを出てダーケ商会に向かう。そこにつないであったイリモと合流する。


「イリモ、今日から新しく仲間になったメイリアスだ。よろしくな。この馬はイリモだ。よろしく頼むな」


よ、よろしくお願いします。とおずおずとメイリアスは挨拶をする。街を出るまでしばらく歩き、誰も居なくなったのを確認して


「メイリアス、まずは俺たちの秘密を明かそう。決して言ってはいけないよ」


そう言って俺はメイリアスにペーリスとイリモの姿が見えるようにする。


「ベッ!ベリアル!?それに、ユニコーンペガサス!?」


「ペーリスは飛んで帰れるな?メイリアスはイリモに乗れ。俺の後ろにしがみついていろ」


目をキョロキョロさせているメイリアスを無理やり乗せ、イリモは空を駆けた。後ろのメイリアスの胸が俺の背中に当り、ドキドキしながら家に帰ったのは、ナイショの話である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ