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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十六章 黒龍編 激闘編
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第四百九十三話 不満

「なるほどの。我が国だけか……」


俺の報告を聞いた陛下は、ゆっくりと息を吐きながら天を仰いだ。その様子からは、予想通りという雰囲気を感じ取ったが、一方で、これから先のことをどうするのか、今のところ打つ手がないと言った感情も見て取れた。


「後のことは、宰相らとともに考えるとしよう。すまぬがまた、手助けを頼むこともあるやもしれぬ。そのときは、よしなに頼む」


そう言って陛下は笑みを浮かべた。俺は無言のまま頭を下げた。


その後すぐに帝都の屋敷に帰ると、何やら騒がしい雰囲気になっていた。見てみると、リコが困った表情を浮かべていた。


「ねえ、ちょっとくらいいいでしょ?」


「いけません」


「だからどうして?」


「シディー母さんがいいというまで、いけませんわ」


「窓を開けるくらいいいじゃない」


「いけませんわ」


リコとアリリアがそんな会話をしている。二人は俺に気が付くと、スッと話をするのをやめた。


「どうしたんだ?」


「アリリアが外で遊びたいと言ってきかないのですわ」


「うん?」


窓の外を見ると、雪がかなりの高さまで降り積もっている。アリリアに視線を向けると、彼女は口を真一文字に結んで、ふてくされている。


「マミーはどこに行ったんだい?」


「知らない」


そう言って彼女はプイっとそっぽを向いた。聞けば、リコたちがアガルタから帰って来てからは、子供たちを外出させないようにしているとのことだった。この時間帯は、子供たちは外で遊んでいる時間だ。しかも、これだけ雪が積もっているのだ。雪合戦や雪だるまなどを作って遊びたいというアリリアの気持ちもわからなくはない。


ちなみに、ソレイユは離れに行っているのだという。息子のセイサムに授乳するのと同時に、シディーの様子も見てくれているのだという。


「そうか。アリリア、外は危ないから、今日のところはお家の中で遊んでおくれ」


だが、アリリアはスネたまま何もしゃべらない。そんな彼女の傍にはフェアリが寄り添っているが、彼女はそのフェアリにも背を向けたままだ。


ふと視線を移すと、エリルとシャリオが心配そうに俺たちの様子を見ている。


「あれ? ファルコとイデア、そして……ピアは?」


「ファルコはペーリスがオムツを替えていますわ。もうすぐ戻ってきますわ。イデアとピアは、シディーがアガルタのドワーフ工房に連れて行くようにと言っていましたので、リノスのところに行く前に、連れて行ったのですわ」


「はああ」


どうやら、アリリアは弟と妹だけが外に出ることができて、自分だけが外出できないのが納得できないようだ。


「アリリア、今日はとうたんはお休みだから、一緒に遊ぼう。おままごとでもしようか?」


「……」


完全にアリリアはスネてしまっている。ふとリコを見てみるが、彼女は放っておけという表情を浮かべている。とはいえ、このままでは……。


俺はしばらく考えてみるが、彼女の機嫌を直す方法が思い浮かばない。そのときふと、一つの考えが頭をよぎったが、それはよろしくないことなので、いかんいかんと頭を振った。


「どうしたのです?」


リコが怪訝な表情を浮かべている。俺は思わず苦笑いを浮かべた。


「いや、どうしたらアリリアの機嫌が直るかなと思って考えていたんだが……ちょっと、イヤなアイデアを思いついてしまった。いかんいかん」


「イヤなアイデア?」


「ああ、アリリアの機嫌は直ると思うが、どうもな」


「まあ、言ってみてくださいな」


リコが真面目な表情で尋ねてくる。その雰囲気に何だか圧倒されてしまう。


「まあ、その、何だ。龍王が来れば……」


「えっ? りゅーおーくん? りゅーおーくんに会いたい!」


アリリアの顔が見る間に笑顔になる。俺は目を閉じて、ゆっくりと首を振る。どうして、あんな動物のことを思い出してしまったのだろう。俺としたことが……。


フッとリコを見ると、彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべながら、アリリアと俺を交互に眺めている。


「龍王様には申し訳ないのですが……。今回ばかりは、お出まし願いましょうか……」


……反対しないんだな、リコ。もしかして、俺の知らないところで、アリリアと龍王が仲良くするのを応援していたりするんじゃないのか? 挙句の果てに、彼はいい人だから……なんて言い出すんじゃないか。そんなことを考えていると、何だか、涙が出てきた。いやいや、今は不穏な状況だ。一人でも戦力になる者をと考えてくれているに違いない。龍王は……外で待機させるか……。


「じゃあ、りゅーおーくんを呼ぶね?」


アリリアはそう言って歌い始めた。そのとき、張っている結界に反応があった。


ただならぬ雰囲気を出してしまったのか。アリリアの声が止んで、ダイニングは静寂に包まれている。結界は破られてはいない。だが、確かに、何者かがこの屋敷の周囲に張っている結界に入り込んでいるのがわかった。


邪念は感じなかった。だが、何とも言えぬ違和感がある。まるで、少し大きめの固形物を飲み込んでしまって、喉に閊える……そんな感覚だ。


「……リノス?」


話しかけてくるリコの話を、右手で遮りながら、俺は目を閉じて、その違和感の正体を解明しようと、精神を集中させた。


「……あれ?」


そのときアリリアは、庭先に黒い物体が落ちていることに気が付いた。庭一面が雪に覆われた白銀の世界。その真ん中に、まるでシミのように映る黒い物体……。それは小刻みに震えているように見えた。その瞬間、黒い物体が、ゆっくりと立ち上がった。


それは小さな子供だった。黒いコートのような服を着て、肌は浅黒い。一体、どうして子供がこんなところに……? アリリアは直感的に、この子供は森の中で迷子になり、この屋敷の庭に迷い出て来たのだと解釈した。


突然降ったこの大雪だ……。この子は親にはぐれてしまったのだろうか。きっと困っているに違いない。困っている人がいたら助けてあげる……それが、母・メイリアスとリコレットの教えだった。彼女は思わず外に飛び出して行った。


「大丈夫?」


子供はアリリアの問いに答えず、ただじっと、彼女を見据えている。その双眸は青色で、爛々と輝いていた。


「……お前が、龍王を操る女か」


「え?」


予想もしていなかった言葉に、アリリアは思わず固まる。そのとき、目の前の子供が、ピョンと飛び跳ねるように横に動いた。


「アリリア、離れろ!」


背後から父・リノスの声がした。反射的に彼女は後ろを振り返る。その直後、彼女の背中越しに一匹の黒龍の姿が浮かんできていた。


「ゴゥアァァァァァァァァァァ~~~~!!」


耳をつんざくほどの咆哮が周囲に響き渡る。その直後、黒龍は一旦空に向かって飛び上がったが、やがてその巨体を急降下させ、大きな口を開けて、まっすぐにアリリアに向かってきた。黒龍が発する禍々しい気配……彼女は恐怖のあまり、その場から動くことができなくなった。


「アリリア!」

「アリリア!!」


複数の男女の声がした。ふと見ると、離れの屋敷の勝手口からソレイユが、母屋からはリコレットと父・リノスが飛び出してきているのが見えた。


「ゴアァァァァッ!」


黒龍はアリリアの頭上を通り過ぎて、ソレイユの方向に向かった。


「キャッ!!」


ソレイユの絶叫が響き渡る。その瞬間、彼女の体は黒龍に飲み込まれていた。


「ソレイユぅ!!」


今まで聞いたことのない怒気とも憎悪ともつかないリノスの声が響き渡る。黒龍は突然方向を変えて、天高く上昇していく。


「ぬあぁぁぁぁっ!」


リノスは素早く上空の黒龍に向かって掌をかざす。その瞬間、邪悪な気配を感じて、彼は瞬間的にその場を飛びのく。


「ちぃっ!」


彼の居た位置に、何か細い、鋭いものが伸びていた。視線を移すと、そこには子供が手をかざしていて、その指先から細く、鋭いものが伸びてきていた。リノスは無限収納から素早くホーリーソードを取り出す。


ふと見ると、子供のもう片方の手がアリリアの方向に延びていた。


「リコ、アリリアぁ! 離れろぉ!」


リノスの声が響き渡る。その瞬間、上空にいた黒龍が突然急降下を始めた。その視線の先には、アリリアの姿があった……。

Comicブースト様の「ここから始める異世界村2019ベスト5」(https://comic-boost.com/features/43)にて、拙作が第4位にランクインしました。これも偏に、読者の皆様のおかげと、厚く御礼申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次話がきになる [気になる点] メインキャラ死亡ですか? [一言] 竜王はどこに行ってしまったのか。
[一言] 明けましておめでとう御座います。 更新有り難う御座います。 こ、これは! ……リノスだけでなくりゅーおー君も激怒の予感!?
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