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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十四章 エルフ族編
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第四百二十三話 名探偵再び

「オルトーさん、あなたが先ほど使われた魔法……あれは、火魔法。それもかなり高位の魔法ですね?」


「…………」


オルトーは無言のまま俺たちを睨みつけている。怖い顔だ。狂気を感じるほどの表情だ。


「リノス様、あの火魔法のLVはどのくらいでしょうか?」


「……LV4というところかな」


オルトーの目が少し開かれた。どうやら図星のようだ。火魔法のLV4とLV5の大きな違いは、魔力を圧縮できるかどうかだ。オルトーは超高温の炎を生み出していたが、その威力を全てコントロールすることはできていなかった。もし俺がやるのであれば、圧縮した小さな超高温の炎を出して攻撃するだろう。そうしないと、エルフ王を巻き込む危険性があるからだ。王が高い結界LVをもっているのであれば、話は別だが。


「LV4ということは、かなりの高温ですね?」


「そうだな。水なら一瞬で蒸発させられるな」


「いい答えです」


シディーは我が意を得たと言わんばかりに、大きく頷いた。そして、再びオルトーに向き直る。それと同時に、彼がクルリと背を向けた。そして、周囲にいた兵士たちが動き出そうとして……止まる。一体何事かと思っていると、彼ら全員の視線がある一点を見つめている。そこに視線を移すと、エルフ王が右手を挙げて、何かを止めるポーズを取っている。


彼はその体勢のまま、スッと俺たちに視線を向け、コクリと頷いた。どうやら、話を続けるよう促しているようだ。彼から発せられる雰囲気が、怒りを帯びているように感じる。己の部下が同胞を殺したかもしれないという事実に、戸惑いと怒りを覚えているようだ。


オルトーは歯を食いしばっているような表情を浮かべながら、右手をギュッと握り締めている。魔力を溜めているのだろうか……。魔力探知が働かないので、その様子を知ることができない。だが、おそらくヤツの魔法はLV4が最高なのだろう。と考えれば、俺の結界を破ることはできない。魔法で攻撃することはできない。そう考えると、少し心が楽になった。


「人族の分際で何を言うか! どこまで私を冒とくすれば気が済むのだ! 一体、何をもって私がレイラを殺したというのだ!」


オルトーの言葉が雑になっている。表情が完全に歪み切っている。もう、犯人は私ですと言っているようなものだ。


「あなたは、レイラさんが横腹を一突きにされて殺されたと言っておいででした。まさに犯人しか知りえないことです。それを知っているあなたは……」


「ええい!」


彼はそう叫ぶと、腰に付けている剣を掴み、それを高く掲げた。


「疑うならば、私の剣を調べてみるといい! この剣にレイラの血がついているか! 忌まわしき血の臭いがするか! 調べてみるといい!」


「必要ありません」


「何っ!」


「頭のいい、そして用心深いあなたのことです。その剣は使ってはいないでしょ?」


「な……」


「剣を使って斬れば、血は飛び散るし、あなたも返り血を浴びることになります。あ、やり方によっては、そうならない方法もありますか? しかし、剣を使えば、どうしたって刃こぼれができますし、血の臭いが付いてしまいますから、隠し切れませんよね。そこまで考えたあなたは、剣を使わずにレイラさんを殺す方法を考えた、違いますか?」


「…………」


「あなた、尖らせた氷を使いましたね?」


オルトーの体がビクッと震える。


「氷の凶器でレイラさんを殺し、そしてすぐにその氷をあなたの火魔法で溶かした。凶器の隠滅にはこれで成功しますよね?」


「な……ち……ちが……」


「よく考えましたね。この里で最も証拠を隠滅しやすいもの……。氷ならば、あなたの手にかかれば、わずか数秒で跡形もなく消すことができます。問題は、どうやってそれを作ったかですが……。まあ、エルフの中には水魔法を操ることのできる人が沢山いるでしょう。その方に作ってもらうといきたいところですが……。あなたのことです。他人に頼めば、裏切られる可能性がある。だから、自分で氷の凶器を調達するでしょう。まあ、私だったら……ツララを使います」


オルトーの目がピクピクと動いている。先程から彼は完全に固まってしまっている。そんな様子を、シディーは冷たい微笑みを浮かべながら眺めている。


「図星でしょうか? どうやらそのようですね」


そう言うと彼女はエルフ王に向き直り、スッと腰を折る。


「エルフ王様にお願いがございます。私の推理は以上になります。こちらに控えておられるオルトー様。彼が、レイラさんを殺した犯人である可能性が極めて高いと存じます。彼女を殺すに至った凶器は、おそらく隠滅されていますので、証明することは難しいでしょう……。ですが、ツララを使ったのであれば、この里に張られている結界、それをお調べください。結界の外には、いくつかツララができているはずです。その中の一本に、人為的に切り取られた跡があるかと思います。レイラさんが殺されて数時間……。極寒の地とはいえ、すぐに切り取られた跡が消えることはないかと存じます」


エルフ王はシディーの話を静かに聞いていた。そして、それを聞き終わると、ゆっくりと息を吐いた。


「重ねて申し上げます。これは、誠に言いにくいことですが……。我が夫は、とても優秀な鑑定スキルがございます。おそらく、ではありますが、この里においでのエルフの皆様が、夫の魔力を封じるために結界を張っておいでかと存じます。恐れ入りますが、それを解除していただけませんか。そうすれば、夫の能力で真犯人を突き止めることができるかと存じます」


「…………!?」


「…………!?」


突然、部屋が騒がしくなった。ふと見ると、数十名の武装した兵士たちが、部屋に乱入してきていた。そして、その最後に、煌びやかな衣装を身に着けたエルフが登場した。この人は確か、エルフ王のお妃さまだ。彼女は俺たちをキッと睨むと、クイッと顎をしゃくった。それを合図に、兵士たちが俺たちに向かってきた……と思ったが、止まった。横を見ると、エルフ王が兵士たちを止めるポーズを取っている。彼は一点を見つめたまま、微動だにしない。


「……母上が、我らを殺せと言っておいでじゃ」


ミークが小さな声で呟く。彼女は自らを殺そうとしている母親に真っすぐに視線を向けている。


「このようなことが起こったのは、妾たちがこの里に来たからじゃ。妾たちがいなくなれば、全てが元のままになると言っておいでじゃ」


……何ちゅう理屈だ。無茶苦茶にも程がある。そんな下らない考えのために、あのレイラという女性は殺されたのか? 冗談じゃない。俺たちを殺そうとしている段階で、完全に気が狂れているが……。善意でやったことが、ここまで裏目に出るものなのだろうか。


「……父上は、そなたたちは、妾を助けた恩人である。その恩人の命を奪おうとするのは許さんと言っておいでじゃ」


……エルフ王はまともだ。普通、そう考えるよね?


「……母上は、心底我らのことが憎いようじゃな」


ミークが寂しそうに俯く。それにしても、実の娘をそこまで憎むこともないだろうに……。


「継母ですよ」


シディーが小さな声で呟く。どういうことだ?


「あの方は、ミークさんの産みの母ではありませんね」


「なぜ、そう言い切れる? 直感か?」


「我が子を憎む親など、おりません」


シディーが寂しそうな表情で呟く。それはそうだ。我が子はかわいい。俺も、エリルやアリリア、イデアたち我が子は目に入れたら痛いとは思うが、宝だ。たとえどんなことがあったとしても、俺は子供たちの味方でいてやりたいと思うし、ましてや、子供の命を奪おうなどとは考えもしないし、考えたくもないことだ。そう考えると、鋭い目で俺たちを睨みつけているあのお妃が継母だというのも頷ける。


「……母上は、他種族と関わるから不幸が起こる。他種族を早く排除するべきじゃと言っておいでじゃ」


「その考えは、間違っている」


思わず声が出てしまった。……あれ? やけに静かになったな? ……って、全員が俺に注目している!? えっと、俺は、どうしたらいい??

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