第四十二話 おひいさま
「よーし、行くか!」
「ううう~行きたくないのでありますー」
嫌がるゴンを無理やり引きずりだして、俺は裏庭の祠の前に来ている。白狐たちの三年に一度の評価大会。行かねばゴンの能力がなくなってしまう。それだけは避けねばならない。
ゴンについての申し開きは、俺も全力を尽くすつもりだ。おひいさまがどういう態度に出るのかはわからないが、最悪、狐神と一戦も辞さない覚悟だ。
とはいえ、むやみにケンカを売る気もない。できるだけ穏便に済ませたいので、その対策も打ってある。おひいさまもお付きの女官も、女性だという。と、いうことは、やはり「お土産作戦」が有効だろう。前世では「お局」に対処するために、いろいろとスィーツなどを持って行って難を逃れたものだ。
そこで前日から俺は、必死でおはぎと油揚げを作った。この間、俺が祠にお供えしたおはぎと油揚げは見事に消えていた。おそらく、気に入ってもらえたと信じて、この二つを大量に作った。気に入らなければ、俺とハーピーたちと食べればいいだけだ。
二人して祠の前に立つ。一瞬、目の前が真っ白になる。気が付けば俺たちは、大きな屋敷の門の前に立っていた。
音もなく門が開く。中に入ると、日本家屋風の建物と玄関が見える。その玄関には、お雛様の三人官女のような恰好をした狐が座っている。俺たちが近づくと、
「お待ち申しておりました」
と丁寧に頭を下げ、しずしずと俺たちを案内する。ゴンは完全にブルッているが、そんな俺たちには一切気を使うこともなく、官女は俺たちを案内する。驚くべきことにここは俺のマップは反応しない。結界が張られているのだろうか。
ほどなく、大広間に案内された。部屋の奥は大きな御簾で覆われ、その前に、二人の官女が控えていた。俺たちは部屋に入り、官女の前に座る。
「おおおお、ジュカ王国に遣わした者が戻ってきおったわ」
「よくもまあ、戻ってこられたものじゃ。首は洗ってきたのかぇ?」
ホホホと笑いあう女官たち。いきなり先制パンチが飛ぶ。ゴンは完全に平伏してしまっている。かなりのトラウマがあるようだ。
「何やら、伴の者を連れておるな?作法も知らぬであろうが、名乗ることを許す。どうぞ、お名乗りあそばせ」
俺はハッ、と平伏し、口上を述べる。参考にしたのは歌舞伎の口上だ。
「一座、高ぅはござりまするが、不調法なる口上の以て申し上げ奉りまする。まずもって、いずれも様には麗しきご尊顔を拝し、恐悦至極に存じ上げ奉ります。か様に候者は、ヒーデータ帝国に住まい致します、リノスにて候。本日は、これに控えおります白狐の伴をして参っております。口不調法者のため、不躾にもかかわらず参ってございます。お目まだるいことも多くあろうかと存じますが、なにとぞ宜しくお引き立てのほどを、お願い申し上げ奉ります」
「・・・ほう。これはまたご丁寧な。取りあえず、行儀作法は身に付けてきたようじゃな」
よし、第一関門クリア!ここで俺は畳みかける。
「手前ども、口不調法でございますため、不躾ながら我らで作りだしました食べ物を持ってまいりました。下衆・下民が口に致すもので恐縮でございますが、ご笑納くだされば、ありがたく存じます」
無限収納から大量のおはぎと油揚げを出す。官女たちから、おおと嘆息が聞こえる。
「先ごろお供えにあったものであるのぅ。あれは美味であった。それをこのように大量に・・・。うむうむ愛い奴よのう。うむうむ、我らに任せておれ。早速、おひいさまに取り次いでやるほどに」
驚くほどチョロい官女たちだ。御簾の前にいた官女たちは、御簾の方に向き直り、おひいさまおいであそばされましょうと、平伏した。スルスルと御簾が上がる。
・・・ドでかい狐がそこにいた。本当に九本のしっぽがあり、渦を巻いている。白というより銀色の毛色。神々しい雰囲気を醸し出している。ゴンはうへへへーと頭を床に擦り付けている。俺も思わず平伏する。
「ううむ。ジュカに遣わした者か・・・。仔細は聞いておるぞよ。本来であればそなたなぞ、妾の眷属には値せぬが・・・。それに控えるものに免じ、この度は許して遣わす。今後は励め」
ヘヘヘヘーとさらに恐れ入るゴン。もう、小物臭が全開である。何とか許されたとホッとしていると、何やら官女たちがおひいさまに向かって頷いている。
「人払いじゃ。ここでは話がしにくい。両名の者は奥に参りゃ」
スルスルと御簾が下がっていく。別室に呼ばれるようだ。再び別の官女が現れて、俺たちを案内する。渡り廊下のところまで来ると
「私がご案内できますのは、ここまででございます。奥のお部屋は、この廊下を渡った突き当りにございます。お二人でおいで下さいまし」
と言ってスッと消えた。俺たちはしずしずと廊下を渡り、奥の部屋に向かう。
「いやー。官女たちにイヤミを言われなくてよかったでありますー」
「何とか乗り切ったな。お土産作戦も成功の一因だな」
「助かったでありますー。それにしても、おひいさまはいつ見てもお美しい。吾輩もあんなお姫様を女房に持ちたいでありますー。いいでありますなー。せめて三日でもいい・・・」
「なに言ってやがる。お前は眷属だろ。おひいさまを女房になんて聞いてあきれるわ。うちへ帰って淫売でも買え!」
そんなバカな話をしていると、奥の部屋についた。恐る恐る障子を開けると、座布団が二つ敷いてある。そこに座ると、音もなく襖が開いた。奥にはおひいさまが鎮座していた。
「その方らを呼んだのは他でもない。実は一つ、頼みがあるのじゃ」
何か厄介ごとのにおいがする。
「先ごろお供えをしておった、「おはぎ」と「あぶらあげ」な。あれを・・・毎日、とは言わん。一週間に一度、妾にお供えをしてくれぬかぇ?むろん、タダでとは言わん。それなりの礼はするぞよ?」
「それはお安い御用ですが、取りあえずこのゴンは本当にお許しいただけるのですか?」
「うむ。そなたらのこれまでは全て見させてもらった。そなたも、八万もの人間を殺しては大魔王になろうというもの。同族とはいえ人間を殺せば経験値が上がる。八万もの人間を殺せば、その経験値は恐ろしいことになる。そなたのスキルが過剰に上がったのも、そのせいじゃ」
ほほう。なるほど。
「その大魔王を調伏したのは、その狐ではなく、そなた自身の心によるもの。それよりも妾は、妖狐・ピャオランを追い詰めたことに満足しておる。あの、クソッタレ外道のションベンタレは、妾を冒涜しおった。それだけでなく、妾の眷属を数匹討ちおった。そのピャオランが滅したのは、痛快じゃった」
なるほど。うん?今、ものすごい言葉が出なかったか?
「それゆえ、その者は許して遣わす。それよりも、おはぎじゃ!あぶらあげじゃ!あれは、一万年を超えて生きる妾でも、初めて味わう美味じゃ。あれを女官どもに渡すのは勿体ない。妾に直接、持ってくるのじゃ」
えらく食い気のあるお姫様だな。そのくらいなら全然オッケーですよ?
「おお!引き受けてくれるか。重畳重畳。これだけのものをもらうのじゃ、妾からはそなたに、「加護」を授けよう。ついでに、教養も上げてやろうぞ。うん?えらく称号が多いの。ちょっとこれは難しいが・・・これを・・・」
おひいさまの体が光る。そして俺に、「加護LV5」と「教養LV5」が付いた。
「加護は、他の者に自身のスキルを与え、奪い取ることができる。基本的に自分のLVよりも低いスキルしか与え、奪うことは出来ぬが、LV4から自分の同レベルのスキルを奪い、与えることができる。「教養」はレベルが上がると、他の種族と対話できるようになる。いろいろな種族と交流があるのじゃろう?持っておくと便利じゃ」
おお!なんと大盤振る舞い!
「LV5になると称号が付くが、そなたはいろいろなスキルが神級に達しておるから、それらが合わさって、独特のスキルがついておるのう。お陰で妾がスキルを与えるのも苦労したぞよ。おそらくもう、お主のスキルは妾では変えられぬであろうな。」
ほほう、称号にはそんな特性があったのか。うん?ゴンは称号は付いていないが・・・。
「この者は妾の眷属じゃによって、称号は付けておらぬのじゃよ」
なるほど。そういうわけですか。
「この者にスキルを付けたおかげで、妾のMPが随分と減ってしもうた。ああ、人にスキルを付けたり奪ったりするのは、かなりのMPを消費するから気を付けての。久しぶりに大量のMPを消費したので、疲れたわぇ。この度のスキルの付与はこれまでとする。千枝・左枝、他の者が来ても、そのまま追い返すのじゃ」
かしこまりました、と女官たちの声がする。いいのか、そんなことをして?
「ところでそなたたち、先ほどこの部屋に参る時、妙な言葉を口にしておったの。「いんばいかえ」とは、どういう意味か?」
これは・・・答えに困る。
「わっ、我々下々の者は、家に帰りまして、ゆるりと休息いたしますことを、「いんばいかえ」と申します」
「おお、左様か」
何とかうまくごまかした。そして、そのまま俺たちは屋敷に戻った。すぐにおはぎと油揚げを作らないと。
・・・あくる日、おひいさまの下に、一人の来客があった。サンディーユという老狐である。
齢6000歳を超える、おひいさまに次ぐ年齢を重ねた狐であり、その慇懃な姿勢と、学者然とした態度は、女官でさえ一目を置かれている。
おひいさまはこの、サンディーユが苦手であった。やれ、姿勢が悪いだの、言葉遣いが汚いだの、勉強が足りぬなど、折に触れて小言を言ってくる。いつの日にか、この老狐に妾の有能ぶりを思い知らせたいと常々思っているのであった。
「姫君には麗しきご尊顔を拝し、サンディーユ、恐悦申し上げます」
「老体の身の上、日日の出仕大儀であるのぅ。苦しゅうない、次へ下がって淫売買え」
その後、サンディーユは一週間寝込んだ。おひいさまは理由はわからないが、ふってわいた自由な時間を、しばし謳歌したのであった。
おひいさま(狐神・10112歳)LV97
HP:13579
MP:18745
鑑定魔法 LV5
気配探知 LV5
魔力探知 LV5
教養 LV5
加護 LV5
結界魔法 LV3
空間魔法 LV4
回避 LV5
回復魔法 LV4
博学才穎、聡明英知、生殺与奪、名伯楽
博学才穎:教養LV5
聡明英知:鑑定魔法LV5
生殺与奪:加護LV5
名伯楽:気配探知LV5、魔力探知LV5、回避LV5
リノス(結界師・15歳)LV∞
HP:49859
MP:62874
結界魔法 LV5
火魔法 LV5
水魔法 LV5
風魔法 LV5
雷魔法 LV5
土魔法 LV4
回復魔法 LV5
生活魔法 LV2
詠唱 LV5
鑑定魔法 LV5
剣術 LV5
MP回復 LV5
気配探知 LV5
魔力探知 LV5
魔力吸収 LV5
肉体強化 LV5
回避 LV5
行儀作法 LV3(UP)
教養 LV5(UP)
麻痺耐性 LV5
毒耐性 LV5
精神耐性 LV5
黒魔術 LV5
加護 LV5(NEW!)
軍神、知神、大魔神、鉄人、鉄腕、結界神、闘将、智将、名伯楽、生殺与奪、博学才穎
軍神:剣術LV5 雷魔法LV5 風魔法LV5
知神:鑑定魔法LV5 回復魔法LV5
大魔神:黒魔術LV5
鉄人:精神耐性LV5 毒耐性LV5 麻痺耐性LV5
鉄腕:肉体強化LV5
結界神:結界魔法LV5
闘将:火魔法LV5 水魔法LV5
智将:詠唱LV5 MP回復LV5 魔力吸収LV5
名伯楽:気配探知LV5 魔力探知LV5 回避LV5
生殺与奪:加護LV5
博学才穎:教養LV5




