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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十四章 エルフ族編
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第四百話     私も行く!

「なんじゃこりゃぁ~~!!」


絶叫とともにその声が周囲に響き渡り、まるでハウリングを起こしているかのような状態になる。俺は思わず耳を塞いだ。


……見渡す限り、一面が氷の世界だった。しかも、地面の氷は、磨き抜かれたかのような輝きを放っていると同時に、太陽の光に照らされて、氷の下の地面までが見えていたのだ。


「……一体、どうすればこんなことになるのでしょう」


メイが目をカッと見開きながら、氷の上に這いつくばっている。彼女の目が真ん中に寄っている。どうやら、この現象はメイの研究者として琴線に触れたようだ。


彼女は氷を叩いたり引っ掻いたりしながら、その様子を調べている。俺はメイから目を離して、はるか遠くを眺める。すると、雲と雲の間から、巨大な壁がそびえ立っているのが見えた。どうやらあれが、フィルコン山脈のようだ。


前に見たムロック山脈とは異なり、フィルコン山脈は、黒い山だった。まるで、天に向かって伸びているような断崖絶壁の山で、その雰囲気は、やってくる者を断固として拒否しているかのようにも見える。この氷の山を越えた後、あの断崖絶壁の巨大な山を登るのか……。そう考えると、俺の心は少し折れそうになった。


実際、ここまでたどり着くまでが困難だった。ムロック山脈の地下に穴を掘ったまではいいが、地上に出るためには、上の氷をどうにかしないといけなかった。俺はこのときとばかりに、これまで練習していた火魔法を凝縮するやり方を試してみたのだ。


結果的には上手くいった。ただ、氷の中に火を通すとどうなるか。当然、氷は解ける。氷が解けるとどうなるか。水になる。こんな小学生でも知っている理屈を、俺は完全に忘れていた。練習のときに気が付かなかったのかと言われてしまうだろうが、気が付かなかった。あのときは、すぐに蒸発していったのだ。だから、今回も同じように行くと考えていたのだが、甘かった。


凝縮した火魔法……。それこそ、かなりの温度に上がった火の玉が氷の中に入っていくと、ものすごい水蒸気が上がった。しばらくすると、そこから大量の水が噴き出してきた。俺もメイもシディーも水をかぶってしまったが、あらかじめ結界を張っていたために、ずぶ濡れになることはなかったが、これにはかなり焦った。


結局、トンネルの下に大きな穴を掘ることで、流れ出てくる水の問題を解決することができたが、どの位置に穴を掘るのかというところでも、メイとシディーは入念に調査を行い、トンネルの強度に影響を与えないようにしてくれたのだ。


そして、穴を徐々に広げていきつつ、ようやく俺たちは地上に出ることができた。


『長いトンネルを抜けると雪国であった』。そんな小説の一ページを思い起こさせるような景色だった。雪国というより、氷の世界なのだが、それほど俺たちが見てきた世界とは別世界の景色だったのだ。俺は思わず呆然となってしまった。


美しい景色ではあるものの、足元がツルツルと滑る。ここを越えるのには、かなりの労力を必要とするようだ。


「う~ん」


腕組みをしながら考えていると、メイとシディーが寄ってきた。


「ご主人様、どうされました?」


「うん、この山を越えるのは、かなり骨だと思ってね」


「いいえ、訳ないですよ?」


シディーが事も無げに言う。


「もしかしてリノス様は、歩いてこの氷の山を越えようと考えておいでですか?」


「あっ……ああ」


「その必要はありません」


「どういうこと?」


「ジェネハちゃんなら越えられます」


「え? マジで?」


聞けばジェネハは、3000メートル級の山ならば、楽々越えられるのだという。しかも、彼女の翼は寒さにも強く、凍るようなことはない。寒い冬山を越えるのには、持って来いだというのだ。


早速俺は帝都の屋敷に帰り、ジェネハに相談する。彼女は快く引き受けてくれたが、一つだけ条件があるのだという。


「妾が運べるのは、二人までじゃ。それ以上は無理じゃな」


これにはシディーが困った。必然的に、ジェネハに乗れるのは俺とミーク姫ということになるからだ。


「ちょっと待ってください。行けないわけはないと思います。私の直感では行けるはずなんです!」


そう言って彼女は食い下がるが、ジェネハは頑として首を縦に振らない。これでは埒が明かないと、彼女を連れて屋敷に入るが、シディーは悔しそうな表情を浮かべたまま、自室に帰ってしまった。


その日、シディーは食事も摂らずに部屋にこもり続けた。ピアトリスのこともあり、俺たちは心配したが、部屋の中から聞こえてくるシディーの返事はとても元気であり、リコとメイの様子を見ましょうという一言で、俺たちは彼女を見守ることにしたのだった。


◆ ◆ ◆


「リノス様! リノス様!」


朝、俺を起こす声で目が覚める。てっきり隣に寝ているメイの声かと思ったが、彼女も目を擦りながら目覚めている。一体どうしたことかと思っていると、俺の目の前にはシディーが仁王立ちしていた。


「どうしたんだ一体」


「リノス様、行けますよ。私も行けます!」


そう言って彼女は俺の目の前に一枚の紙を差し出す。


「……何じゃこりゃ?」


そこには数学だろうか。複雑な計算式が書かれてあり、俺の頭では全く理解することができなかった。俺は隣で寝ているメイにメモを渡す。彼女は眠そうな目でじっとそれを見ていたが、徐々にその目が開かれていく。


「すごい! 完璧じゃないですかシディーちゃん!」


そう言うとメイはベッドからガバッと起き上がり、そこから飛び降りるようにしてシディーの許に行って、彼女の両手を握った。


「ちょ……メイちゃん、裸……」


「あっ」


シディーが顔を真っ赤にして顔を背けている。あれ? メイの裸を見たことがなかったのかしら? その様子を見て、メイも恥ずかしそうにベッドに戻ってきて、シーツでその美しい体を隠した。


「あの……説明していただいても?」


「すみません……」


メイがシーツから顔だけを出しながら、俺に説明を始める。どうやら、ジェネハが運べる重さの限界を割り出し、それをどうやったら彼女に負担をかけずに運べるのかを計算しているのだという。


つまり、言ってみれば、彼女の両足で俺とシディーを運び、その背中にミークを乗せれば、ジェネハにかかる負担は最小限に抑えられるというわけだ。


「……と、いうわけで、私も行けます」


俺たちから顔を背けながら、しかし、顔を真っ赤にしながらシディーは嬉しそうな声で話している。


「まあ、この計算式の意味は俺にはわからないが、取りあえずジェネハに相談してみようか。何となく、彼女もイヤとは言わない気がするな」


「……すみませんが、服を着てください」


「何を言っているんだ、まだ起きる時間じゃないだろう。俺はもう少し寝るよ。シディーも寝ていないだろう? 少し休め」


「え? 私も一緒にそこで?? ……イヤです、絶対にイヤです!」


「いや、そうじゃなくて……」


「……リノス様、一瞬だけ、卑猥なことを考えていましたね?」


「そっ、そっ、そんなことは、ない」


全く油断も隙もないと思いながら俺は、オホンと咳払いをする。


「ただシディー、たとえ1時間でもいいから寝てくれ。あまり無理をしないでくれ」


「……わかりました」


「ピアはリコと一緒に寝ているはずだよ。あとで迎えに行ってやるといい」


「はい。あとでリコ様にはお礼を言っておきます」


そう言って彼女は、顔を真っ赤にしながら寝室を後にしていった。俺は再びベッドに入ると、メイと向かい合うようにして体を横たえる。


「……目が冴えちゃった。眠れるかな?」


「……実は、私も目が冴えてしまいました」


「……じゃあ、もう起きるか?」


「はい」


俺のその声に、メイは優しく微笑んだ。

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