表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第二章 ヒーデータ帝国編
40/1106

第四十話   大魔王降臨

十五歳になった。二回目の成人だ。


特に誰にも誕生日を教えていなかったので、お祝いというのはなかった。例外的に、帝都で買い物をしている時、遊郭「ミラヤ」の女将さんであるアキマに出会い、いつでも遊びに来ていいんだよ!と催促されたくらいである。あそこまで手放しで勧誘されると、逆に行きにくいものだ。


そしてもう一つ、うれしいことがあった。俺が一度食べてやみつきになった、あのホテルのビーフシチューが作れることになったのだ。


かなりのハイペースで食べに行っていたため、シェフに顔を覚えてもらい、色々と話をするようになった。このビーフシチューを褒めまくったら、レシピとデミグラスソースを分けてくれたのだ。レトルト食品がない世界である。あのホテルの味をわが家で楽しめる・・・プライスレス!


仕事を終え、早速帰宅し、大鍋を出して材料とソース、そしてカースシャロレーの肉をふんだんに入れて作ってみる。何とホテルでは12時間もかけて煮詰めているのだとか。俺もそれに倣ってじっくりコトコトじっくりコトコト煮込んでいく。


本当に12時間煮込んだ。火魔法で調整しつつ、朝までかかってようやくあの、シチューが出来上がりつつあった。


事件はその時起こった。


ゴンが腹が減ったと言い出した。俺は、完成したビーフシチューを朝食にするつもりでいたのだが、さすがに俺も腹が減った。取りあえず、お揚げさんでも食べようとダイニングに行っている隙だった。


「ドォン!ガッシャーン!!!」


あと一歩、あと一歩のところまで完成しかかっていたビーフシチューが、見るも無残にその中身をキッチンにぶちまけていた。俺の時が止まる。


「ギャー、キャァァァァー」


何とハーピーがキッチンに侵入しており、ビーフシチューを狙ったが重すぎて飛べず、そのまま鍋をひっくり返したのだ。ここ最近は全く魔物の襲撃はなかったので、家の中の結界は解除していた。マップにも反応はなかった。魔物が飛んでいることは把握していたが、敵意は感じられず、対応はしていなかった。さすがに俺たちの食料を狙う魔物まで意識していなかった。


ハーピーは俺をあざ笑うかのような顔をして外に逃げた。腕と足が鳥の姿であり、胴体と顔は人間の女性の姿であるため、表情がよく読み取れる。絶対バカにしている。俺の中で、何かがはじける。


「おンのれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!ぶっ殺してやる!!!!!!!!」


ビーフシチューの残骸を乗り越え、こん棒を掴んで表に出る。ハーピーは屋敷の周りを飛んでいたが、俺を敵と認識したのか、鋭い足の爪で俺に攻撃を仕掛けてきた。


「ガチィン!!」


結界を張る俺にハーピーの攻撃は一切通用しない。俺は攻撃してきた足を掴み、そのままヤツを地面に叩きつける。叩きつける。叩きつける。


「ピギャー!ピギャー!!ピギャー!!」


何とか翼で空に逃げようとするハーピー。しかし俺はこん棒でヤツの翼を叩き折る。


「ピィィィィィィィィーーーーー!!!」


絶叫を上げて地面に叩きつけられたハーピーを、こん棒でひたすらぶん殴る。


「一体どれだけ時間かけたと思ってるんだぁぁぁぁ!!じっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコト煮込んでたのにぃぃぃぃぃぃ!!!」


頭、顔、羽、体、ありとあらゆるところをブッ叩かれるハーピー。最後にこん棒で野球のごとく顔面をフルスイングされて、ヤツは吹っ飛んだ。


ハーピーはまだ生きているようだ。しぶとい。力なく鳴き続けるヤツの下に向かおうとすると、マップに反応があった。振り返ると、数十匹のハーピーが森の中から向かってきていた。コイツの仲間のようだ。


ブッ倒されている仲間を見て、即座に俺を敵と認識したハーピーは、俺に攻撃を仕掛けてきた。しかし、何匹来ようが俺には関係ない。先ほどのヤツ同様、こいつらもブッ叩く。ブッ叩く。ブッ叩く。


「ピッ・・・ピィィィィ・・・」


手と足があらぬ方向を向き、動くこともできずに倒れる数十匹のハーピー。まだまだ俺の怒りはこんなもんじゃ収まらない。さて、どうしてくれようかと考えていると、さらにハーピーの群れがこちらに向かっている。上等だ。いくらでも相手してやんよ!


現れたのは数十匹のハーピーとそれを従える巨大なハーピーだった。巨大ハーピーはこの惨状を目の当たりにして、ものすごい鳴き声を上げた。それを合図に、周囲にいた奴らが連携して俺に攻撃を仕掛けてくる。


かなり高位の魔法使いや騎士であっても、この攻撃から逃れるのは難しいだろう。しかし、俺には関係ない。全員の羽を折り、他のやつらと同じようにフルボッコにしてやった。ハーピーたちの陰にうまく隠れるようにして巨大ハーピーは、風魔法を駆使して俺に攻撃をしてきた。上手な戦い方である。しかし、完全に俺に躱されて、足を掴まれる。


「ピィィィィィ!!」


残った足で俺を蹴りまくるが、俺の結界に傷一つ付けることは出来ない。俺は足を掴んだまま、この巨大ハーピーを地面にたたきつけ、羽を折り、足を折り、最後に顔面にフルスイングを叩き込んだ。


辺りには百羽近くに及ぶハーピーの倒れる姿があった。俺はこいつらを結界内に閉じ込める。そして、全員に治療魔法をかける。そしてゴンを呼び、俺の言葉を通訳させる。


「傷を負っていては話が出来んだろうからな!お前らの仲間のこととはいえ、人がじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコトじっくりコトコト煮込んでいたビーフシチューをメチャクチャにしやがって!どうするつもりだ!お前ら全員、ラクに死ねると思うなよ!!!」


気の強いハーピーが結界の中から俺に攻撃を仕掛けようと飛びかかってくる。俺はそいつを結界から引きずり出し、「鬼切」でそいつをブッた斬る。


「ピィィィィ!!!ピィギャァァァァァァl!!!!!」


凄まじい悲鳴を上げてのたうち回る。


「こんなのはまだ序の口だ。お前らはこれ以上の苦しみを与えて殺してやる!食い物の恨みは恐ろしいぞ!」


「ピッ、ピィィ・・・」


ハーピーたちが戦慄している。中には失禁してしまった個体もいるようだ。


「ピッ!ピピピピピ!」


巨大ハーピーが何か言っている。


「とにかく怒りを鎮めてほしいといっているでありますー」


「ああん?この怒りを鎮めろだと!?どの口がそれを言いやがんだ!」


「私は、ジェネラルハーピーで、この群れの長だ。家族が皆殺しにされるのはなんとしても避けたい。仲間の一人がかけた迷惑については詫びる。何でも言うことを聞くので、皆殺しだけは勘弁してもらいたい、と言っているでありますー」


「テメエらは何もできねぇだろ!ぬうううう、この怒りを鎮めるには、やはり貴様らの血だ!血で償うほかはない!!」


「いや、それよりも、ハーピーにこの森を警護させればいいのでありますー。ハーピーはBランクの魔物でありますし、数羽でAランクでありますー。これだけのハーピーですと、Sランクでありましょうし、森の中の魔物を狩らせると便利でありますー」


ほう、労せず魔物の肉が手に入る可能性があると。


「それに、ハーピーの卵は美味でありますー。卵を上納させるのもいいでありますー」


「よし、その条件であれば命を助ける。受け入れられないのであれば、全員結界内で餓死させると言え」


当然、ハーピーからは即答で受け入れると返答があった。俺はそれを受け入れ、「鬼切」で斬られて苦しんでいたヤツに治癒魔法をかけて正常に戻してやった。


ゴン曰く、ハーピーはとても仲間を大切にする種族らしい。特に、ジェネラルハーピーは種族の中で最上位に位置するらしく、コイツが率いる群れは、まず、どんな生物も勝てない。言わば、この森の食物連鎖の最上位に位置しているのだそうだ。


「勝てるとするのであれば、大魔王くらいでありましょうなー」


ってことは俺は、大魔王かい?


ハーピーとしても、勝利を確信しての攻撃であったのに、魔法一つ撃つわけでもなく、ただのこん棒でフルボッコにされた挙句、一家全員がボッコボコにされたのだ。それはそれはビビッたのである。


基本的にハーピーは大切に子育てを行うらしく、三年に一回、五個程度の卵を孵し、丁寧に育てていくのだという。その他は、卵を産むには産むが、別に産まなくとも何ともなく、俺に卵を上納する条件はすんなり受け入れられた。


一応人質として、ジェネラルハーピーは屋敷で軟禁生活を送ることになった。屋敷内の立ち入りは許可のある場合以外は不可。行動も範囲が限定されるという条件だったが、ジェネラルハーピー自身には全く問題がなかったようで、むしろ俺の出すエサが劇的に美味いと気に入ってしまい、挙句の果てにイリモと仲良くなり、今では馬小屋に住み、女同士仲良く暮らしている。


ちなみに、ハーピーの間では、「じっくりコトコト」という言葉は悪魔の言葉として認識され、俺がたまにこの言葉を使うと、ジェエネラルハーピーはもちろん、ハーピーたちも緊張して動きを止めるようになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「ここ最近は全く魔物の襲撃はなかったので、家の中の結界は解除していた。」 家の結界は以前解除したとありましたが、家に結界を張ることに何の負担もないのに、どうして敢えて結界を外したのかと思っ…
[一言] ハーピー憐れ(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ