第三十八話 平穏な日々
「・・・そっ、そんな太いものが俺の体に入るんですか?」
「大丈夫、お姉さんに任せて。さあ、力を抜いて・・・」
「くっ、あっ、入ってくる、入ってくる・・・」
「ほーら、奥まで全部入ったわよ?今日が初めてだからしばらくは動いちゃだめよ?」
「おっ、お姉さん、体がアツイです!」
「しばらくすれば慣れてくるからねー。慣れればヤミつきになるわよー。じゃ、そろそろ動かすよー」
「ふっ、くっ、くあぁぁぁぁ」
・・・俺は鍼灸院に来ていた。前世の頃から針は好きだったが、まさかあんな太い針を腹に刺されるとは思いもよらなかった。
引っ越しも終わり、明日からダーケ商会の業務が始まる。王国軍と貴族たちには案内がいっているらしい。店の場所は、俺の敷地内と帝都の境目にあるところだ。新居を物色している間に、ちょうど手ごろな空き店があったので、そこを買い取ってそのまま使うことにした。イリモでの通勤15分というなかなかいい感じの距離である。
開店準備も終わり、俺は身体のメンテナンスをするため、遊郭街の門の隣にある鍼灸院に来たというわけだ。たっぷりと施術を堪能した。なかなか礼儀正しいところもあり、鍼灸院を出る時には、施術をしてくれた女性がわざわざ外まで見送ってくれた。若い女性だが、なかなかいい腕をしている。体が軽くなった。思わず
「うわ~本当に気持ちよかったです~。すっきりしました!」
「たまに体が求めるのよね~。またいつでもいらしてください」
街ゆく人が苦笑いをしている。ここは遊郭街の門の外。なんか変な誤解をされたのかもしれない。
・・・実際、結界屋を始めてみると、大当たりだった。基本的に週休二日制、9時から17時ごろまでの営業で、お昼の1時間は休憩で閉店、店主の気まぐれで休日や営業時間は変動、というかなりの大名商売なのだが、一日平均10件くらいの注文を受ける。注文するのは軍人、貴族はもちろん、商人も意外に多い。遠くの国まで荷物を運ぶのだが、道中は物騒のため結界師を欲しがるのだ。
いくらなんでも全ての注文にこたえることは出来ず、最初は断っていたのだが、ある日うまい方法を考えついた。
川から石を大量に拾ってきて、それを「魔石」として売るのだ。俺の結界は遠隔操作が可能である。そこで、注文者の希望する結界の強度、持続時間を聞いて、それぞれに結界を張る。その際に石を「結界魔石」として持たせる。むろんただの石ころなのだが、客はそれを完全に信じた。まあ、LV2ということもあり、最大で3日。強度も剣で五回ほど切り付けられれば割れてしまう程度のものにしているが、それでも需要は多く、この「なんちゃって魔石」は飛ぶように売れた。お値段も大体100Gと、強気の価格設定をしているのだが、それでも売れている。原価はタダなので、売った分だけ儲けになる。あくどい商売と言うなかれ。
王族からの依頼は、意外と少ない。ヴァイラス殿下が宮城の外の行政府に顔を出すときに同行するくらいで、それもひと月に一回程度であるし、一番長くても、殿下の妹君が地方の町の行事に参加するために1日同行したくらいである。
お昼休みと業務終了後、休日は暇なので、絶賛帝都観光を楽しんだ。かなり広いので、なかなか全て回り切れない。いい武器屋と防具屋も見つけた。贔屓の八百屋などもできた。休日はホテルにランチに行くなど、なかなか優雅で贅沢な日々を送らせてもらっている。
引っ越し当初はかなり魔物がでたが、オークやゴブリンといった低ランクの魔物ばかりであり、難なく討伐した。現在は結界の影響もあり、魔物の姿は見なくなった。もう、家の結界は解除して、俺とゴン、イリモの結界だけでいいような気がしている。
料理のレパートリーも増えた。もち米を利用しておはぎを作ることに成功したのだ。ばあちゃんと同じとまではいかないが、かなり味的には近づけたと自負している。これはゴンが大喜びした。
米を炊いてご飯を食べるのはもちろん、それを利用してチャーハンを作ったり、焼きおにぎりを作るなどして、楽しんでいるし、たまには天ぷらやから揚げなど、揚げ物もどんどん挑戦している。こいつも、ゴンには好評だ。今、作っているのはプリンである。こだわりのカラメルソースを絶賛試作中である。
あの、遊郭街のお店にはまだ行っていない。さすがに恥ずかしいのと、夜は俺が家に帰ってしまうことが多いのだ。なぜなら、イリモが早く家に帰りたがるのだ。まあ、俺に変な虫が付かないよう配慮してくれているのと、屋敷の、かなり広い馬小屋が、快適に暮らしているイリモには恋しいのだろう。あと数頭はあそこに入れても全く問題がないので、イリモの代わりとして別の馬も買おうか思案中だ。やっぱり、イリモも休ませてあげないとね。
秋が終わり、冬が来て、ようやく春の息吹が感じられるようになった。商売の方は相変わらず順調で、注文が絶えない。石集めはゴンに任せているが、最近では石が少なくなっているとぼやいている。
そんなある日、地下に店を構える薬屋を発見した。人目につかない場所に店に構えているだけあって、物騒なものを売っていた。毒薬である。俺は、その中に意外なものを見つけた。「カッシュ」と名付けられたこの毒薬は、大量に飲むと心臓麻痺を起こす毒薬であると書かれていた。これを鑑定してみると、「塩化マグネシウム」と出ている。いわゆる「にがり」だ。
これを見つけた時はテンションが上がった。豆腐が作れるのである。前世の俺の実家は豆腐屋だった。豆腐屋の倅として、その作り方はじいちゃんと親父から叩き込まれてきた。それが嫌で俺は家を継がず、プログラマーなどという仕事をしていたのだが、じいちゃんや親父への恩返しのつもりで、俺はこの世界で豆腐を作ってみようと心に誓ったのだ。
また、この薬屋には、「媚薬」などというのもあった。自分の快感がそのまま相手に伝わって、双方気持ちよくなれる・・・というよくわからんものだったが、これに何故か、ゴンが反応した。
「淫売女を買って、その女に薬を与えて、モフモフをさせたいのでありますー。若くて、胸の大きい美女、白魚のような真っ白い、美しい指で吾輩をモフモフしながら、その淫売女も吾輩と一緒に快楽の頂点に達する・・・素晴らしいのでありますー。夢があるのでありますー。ウヘヘヘヘー」
薬については、効果などを調整することが可能であるらしい。ゴンはさらにスケベな顔になっている。取りあえず、この薬屋で購入するものは決まった。俺は店主に薬の注文を告げる。
「すみません。バカにつける薬を下さい」




