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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
間 話  軍神編・後日談
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第三百七十五話 パーティー

戦いが終わってからひと月後、アガルタの都にある迎賓館では、スタッフたちが忙しく動き回っていた。この日は、ここでパーティーが行われるのだ。ちなみに、アガルタの迎賓館での手際の良さは、世界一だ。これは、支配人のミンシの差配が優れていることもあるが、何より、そこで働いているサイリュースとドワーフたちの連携が見事なのだ。


基本的に会場の設営において、重いテーブルなどを運ぶのはドワーフたちの仕事だ。彼女らは女性とはいえ、子供の頃から金槌を使って鉄を鍛えている者が多く、その腕力は人間の男性をはるかに凌駕する。その自慢の力を生かして彼女らは、瞬く間に設営を完了させる。


それが済んだところから、サイリュースたちが登場する。彼女らは背中の羽を使って部屋の中を飛び回りながら、テーブルクロスなどをテキパキと飾り付けていく。そんな全く無駄のない連携のお陰で、突発的なパーティーでも、ここ迎賓館では難なく開催できてしまうのだ。


今回はアガルタ王・リノスの主催とあって、ミンシ以下、気合を入れて会場の準備を行っていた。基本的に内々のパーティーであり、ごくごく簡素にとリノスからはお達しがあったが、来客にはヒーデータ帝国の皇帝を始め、ラマロン皇国のカリエス将軍、サンダンジ国のニケ王など、先日の大戦で参加した錚々たる面々が参加することになっているのだ。スタッフたちの気合が入ってしまうのは、自然のことと言えた。


パーティーの前に、一足先に会場入りしたリノスとリコは、扉を開けた瞬間、固まってしまった。まるで王族の結婚式であるかのような、荘厳で豪華な会場設営が行われていたからだ。


その様子を見てリノスは、ガリガリと頭を掻きながら、あれほど簡素にと言ったのに……と半ば照れるような様子で独り言を呟いている。一方のリコは、その様子に目を輝かせ、傍にいたミンシに、設営のデザインについて細かい指示を出していた。そして、パンと手を合わせると、気合を入れて準備をすると言って、リノスの腕を掴んで部屋を後にしていった。



開催されたパーティーは豪華の一言に尽きた。リノスが普段着でと、敢えてドレスコードを指定していなかったにもかかわらず、招待された面々は正装をして現れた。彼としては、先の戦いの慰労会としてパーティーの開催を考えていたため、普段着でダラダラと飲んだり食べたりすればいいだろうと考えていたのだが、その思惑は完全に外れた形となった。


まず、会場に現れたのは、ラマロン皇国からカリエス将軍と宰相のマドリン、そして、司令官の代表として招かれたアーモンドだった。その彼らとタイミングを合わせるようにして到着したのは、サンダンジ国のニケと息子のシンだった。会場には既に、ラファイエンスとクノゲン、そして着飾ったルファナ王女が出迎える準備を整えていた。彼らは笑顔で先の戦いを労い合っている。するとそこに、ミーダイ国の帝様と皇后さまが到着する。二人は会場に入るとすぐに彼らの所に向かい、タナ国との戦いに勝利した祝いを述べた。オワラ衆のイッカクらの姿が見えないが……おそらくこの部屋のどこかに潜んでいて、二人を警備しているはずだ。


その後、ニザからはシディーの兄であるガルトーとユーリー宰相が到着し、ポーセハイのチワン、ローニ、ドーキらがやって来た。さらには、ルファナ王女の母であるサルファーテ女王が娘たちに介添えされて現れた。彼女らは、どこからかパーティーの話を聞きつけて、何としても国を奪った憎きタナ国に勝利してくれた礼を述べたいと言って聞かず、仕方なく参加を許したのだ。


パーティーが始まる直前に会場に入ってきたのは、ヒーデータ帝国の陛下とグレモント宰相、ヴァイラス公爵だ。彼らは今回の戦いには参加していないが、ニケやカリエスから可能であれば、陛下と今後のことについて話をしたいと言われたために、俺が招待したのだ。


陛下もその点について、何か思うところがあったのだろう。俺の申し出をすぐに受け入れてくれた。


そんなことをしていると、パーティーの開始時間になる。俺はリコたちを伴って皆の前に出る。きちんと正装をしているために歩きにくい。俺たちが会場入りすると、声にならない声が漏れているのが分かる。それはそうだろう。髪を結い上げ、全力でおめかしをしたリコ、薄化粧で、ちょっと地味な白い衣装に身を包んでいるが、隠しても隠しきれぬ聡明さと優しさが溢れだしているメイ、そして、何ともかわいらしく、気品のある様子のシディーが並んでいるのだ。まさに、眼福の光景と言えるだろう。


残念ながら今回は、ソレイユとマトカルは欠席だ。二人とも出産の準備で、ソレイユはサイリュースの里から動くことができず、マトカルは未だ入院中なのだ。俺としては、この二人が全力でおめかしをした姿を見たかったのだが……残念なことだ。


居並ぶ人々を前に俺は、手短に挨拶を述べ、乾杯の音頭を取る。そのとき、招待していたにもかかわらず、到着していなかったヴィエイユが現れた。髪の毛をスッキリとまとめ、純白の衣装に身を包み、その頭には細いティアラを載せている。さすがに教皇の孫だけあって、気品と上品さは辺りを憚るものがあった。ヴィエイユ大好きっ子であるシン君に目を向けてみたが、彼は目を見開いたまま微動だにせず、遠目から見てもヴィエイユに心奪われているのがよくわかった。


そんなこんなで始まったパーティーだが、皆、思い思いに楽しんでいるようだ。当初は、腹の探り合いなどがあって盛り上がらないかと思ったが、意外にも皆、砕けた表情で楽しんでいるようだった。


そんな中、ニケはシンを伴って俺とメイの前にやって来て、息子のことをよしなに頼むと言って頭を下げた。ちなみにシンは、留学することをまったく知らされておらず、思いっきり驚いていた。しかも、それは今日から始まるのだと聞いて、彼は二度驚いていた。てっきり俺たちはシンに納得させているものと思っていたのだが、まさかの展開に俺もメイも戸惑いを隠せなかった。ニケ曰く、事前に話をしてしまうと、最悪の場合、国外に逃亡する恐れもあったとかで、この親子関係が今後、どのようになるのか、一抹の不安が頭をよぎった。


その後ニケは、何かに解放されたかのように、出されている料理を片っ端から食べていった。パーティーはバイキング形式にしていたのだが、一応、小さなバーベキュー台も準備して、希望があれば肉などを焼けるようにはしておいたのだが、彼は早々にそこを占領して、色んなものを焼き始めた。それが珍しかったのか、バーベキュー台にはミーダイ国の帝様夫婦とヒーデータの陛下が居座り、いつしかそこで色々な話が交わされていた。


俺はカリエス将軍とアーモンドらと話をしていたのだが、ふと気が付くと、ヴィエイユがいつの間にかヴァイラス公爵と話をしていることに気が付いた。リコに視線を向けると、彼女がツカツカと弟の所に歩いていた。直感的にこれはいけないと感じた俺は、思わず声を上げる。


「皆さんに発表があります! ハイ、俺に注目~! テストに出ますよ~!」


皆、キョトンとした表情を浮かべている。俺はコホンと咳払いをして、大きく息を吸い込む。


「この度、我がアガルタでは、軍の最高司令官であったラファイエンス将軍の引退に伴いまして、後任として、クノゲンをその任に任じることになりました。皆さん、今後とも、アガルタを、クノゲンをよろしくお願いします!」


突然のことでクノゲンは驚いた表情を浮かべていたが、やがて、はにかむような笑みを浮かべる。その直後、彼に注目が集まり、いつしか会場内は大きな拍手に包まれた。


「リノス様に申し上げます!」


突然、クノゲンから声が上がる。俺は驚いた表情で彼に視線を向ける。


「この度のこと、心から感謝いたします。総司令官の任官に当たりまして、一つ、お願いしたいことがあります!」


「お願い!? ……何だい?」


「ハイ。私とルファナ王女との結婚をお認めいただきたく、お願い申し上げます」


「ウエッ!? 君たち……付き合っていたの!?」


思わず俺はルファナ王女に視線を向ける。彼女は驚いた表情を浮かべながら、キョロキョロと周囲を見廻している。その彼女の前に、クノゲンはスッと近づいていく。


「ルファナ様、私と結婚していただけませんか? サルファーテ女王陛下、大事の姫様を、私に下さいませんか?」


彼の声を受けたサルファーテ女王が、オロオロと周囲を見廻しながら、戸惑った様子で口を開く。


「そっ……そのような……。だが……アガルタ王の側近くに仕える方……。何の、異存が、あろうか。不肖なる娘ではあるが、よろしく頼みたい」


「女王様のお許しも出ました! ルファナ様、私と、結婚していただきたい!」


会場内の全員の視線がルファナ王女に向けられる。彼女は戸惑っていたが、やがて、顔を真っ赤にして、俯きながら、小さな声で「ハイ」と答えた。それから数秒の静寂の後、会場内は大きな拍手で包まれた。


「この場であのようなことを言われては、女性としては受けるしか選択肢はない。クノゲンめ、うまいことをやりおるわ」


いつしかラファイエンスが俺の傍に寄って来て、そんなことを呟きながらほくそ笑んでいる。その様子を見ながら俺はリコと顔を見合わせながら、苦笑いを浮かべるのだった。


ちなみに、クノゲンのこのプロポーズは、いつしか王都民の知るところとなり、数年後にはそれが舞台化されて大ヒットすることになるのだが……。それはまた、別のお話。

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