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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十三章 軍神対決編
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第三百七十一話 訪問者

いよいよ10/31に『結界師への転生④』が発売されます(Amazonや一部書店では本日より購入可です。またKindle本は本日から購入可能です)。第四章の一部と第五章を収録しつつ書籍版限定のエピソードも収録して、読みやすい内容となりました。何より雫綺一生先生の挿絵が素晴らしいです。是非、お手に取ってご覧ください!

彼女は、俺とメイを見て、スッと頭を下げた。そして、伝令の兵士にチラリと視線を向ける。その意図を察した兵士は、一礼をして去っていった。


「ヴィエイユ、どうした? タナに向かったんじゃなかったのか?」


「ええ。我が軍はヴィル様らと共に、タナに向かっております。私はその途中で引き返して参りました」


「……一人で、か?」


「ええ。一人で参りました」


……どうもヴィエイユの話が俺の腑に落ちない。彼女は、サダキチに見張れと命じているのだ。フェアリードラゴンの目を掻い潜ったと言うのだろうか。彼女にそんなスキルがあるようには思えない。俺は舐めるように、彼女の頭の先からつま先までを観察する。


「恐れ入りますが、お人払いをお願いいたしたく存じます」


「うん? メイがいては、悪いのか?」


「はい。アガルタ王様に内々のお願いがございまして」


「メイがいて不都合だという理由がわからんが?」


ヴィエイユは俺の言葉に、薄笑いを浮かべた。そして、何かを決意したように、肩をピクンと動かした。


「では、申し上げます。私は、クリミアーナ教国の国主にして、その教皇であります祖父、ジュヴァンセル・セインをこの世から抹殺したく存じます。そのご助力をお願いしに上がったのです」


「それは以前、聞いたような気がするが? 助力……とは、具体的にはどういうことかな?」


彼女はフッと柔和な笑みを浮かべる。


「特に援軍は必要ございません。武器などの類も、必要ないと思っております」


「では、何を助ければいい?」


「二つございます。一つ目が、アガルタ王様の転移術、これをお借りしたく思います」


「……アフロディーテだっけ? クリミアーナの都に軍を一気に送るつもりか?」


「はい。今のところはそれが一番効果的な作戦であると考えますので。時期が参りましたら、是非、ご助力をお願いいたします」


「……で、助力の二つ目とは?」


「静観していただきたいのでございます」


「静観? お前がクリミアーナを滅ぼすのを黙って見ておけというのか?」


「いいえ。正直申し上げて、クリミアーナの駆逐は簡単に済むと考えております。問題は、その後でございます」


「どういうことだ?」


「近い将来、我々は、アフロディーテを占領いたします。その後、クリミアーナ教を信仰する国々との戦いが始まることでしょう。我々は、その国々を一つずつ占領して参ります。そして、我々に敵対する国々をすべて占領し終えましたら……」


「なるほど、お前は世界一の大国の主となるな」


ヴィエイユは微笑みを湛えたまま、ゆっくりと首を振る。俺はその意味が分からず、怪訝な表情を浮かべる。


「ここサンダンジ国を、私共の国に併呑いたします。それを、静観していただきたいのです」


「何?」


俺は目の前に「マップ」を展開する。そして、それをじっと見つめる。


「……なるほど。サンダンジを併呑すれば、アフロディーテの防御態勢は盤石になる……か?」


「さすがでございます。その通りでございます。私は、アフロディーテを奪還した後、そこに新しい国を建国いたします。新しき国の都は、やはりアフロディーテに置きたいと考えてございます。このサンダンジ国からアフロディーテまでは船で一日の距離……。しかも、遮るもののない一本道でございます。従って、サンダンジは戦略上、何としても我が国に属してもらわねばならないのです」


「このサンダンジがお前の国になれば、俺たちアガルタや他の国々からは、アフロディーテで行われていることが見えなくなる。その狙いもあるな? と、いうよりそれがお前の狙いか?」


俺の指摘に、ヴィエイユの体が一瞬動いた。どうやら図星を突いたようだ。


「……今はそこまでの戦略は考えておりません」


「そうか。だがなヴィエイユ、サンダンジにはニケさんがいる。あの人は相当手ごわいぞ? お前の思い通りにいくかな?」


「ええ。問題ございませんわ」


「ほう、強気だな」


「おそらく、私共がこの国を併呑するのは、十数年後でございます。そのとき、このサンダンジ国はおそらく、シン様が王位に就いておられるはずです」


「なぜ、そう言い切れる」


「それは、秘密です」


ヴィエイユはクスリと笑う。その笑顔は邪念のない、天使のような笑顔だった。


「シン君か……。今はお前に気があるようだが、人は変わる。数十年後までお前に惚れているとは限らないだろう」


「いいえ。きっとあの方は、死ぬまで私の虜でございますわ」


「何?」


「お聞き遊ばしましたでしょ? あのお方は、私に向かって、確かにこう仰いました。『サンダンジ・クエア・シン、鶴首してお待ち申し上げる』と」


「……」


「あのお方は、真名ハートネームを明かしておられました。それが全てでございます」


「……すまん、よくわからん」


「ご主人様……」


メイが小声で俺を呼び、ヒソヒソと耳打ちしてきた。聞けばこのサンダンジ国の王族では、真名ハートネームと呼ばれる名前を持っていて、それは家族だけの秘密にしているそうなのだ。それを他人に明かすことは、家族と認めると同じ行為になるそうで、そうしたことは、一生に一度あるかないかのことなのだと言う。つまりシンは、ヴィエイユを家族の一員と認めたことになり、言い換えれば、彼はヴィエイユにプロポーズをしたと同じことになるのだそうだ。


さらにメイの説明では、おそらくシンの妻や側室たちも、彼の真名ハートネームを知らないだろうとのことで、それだけ彼は、ヴィエイユに心奪われていることになるのだそうだ。だが一方で、ヴィエイユ以外の者にも真名ハートネームを漏らしているシンは、かなり浅はかな振る舞いだとも教えてくれた。


そう考えると、ニケはいつも俺に送ってくる書簡に、『サンダンジ・ウルハ・ニケ』と署名をしている。これは相当俺を信頼しているのだろうと思って一瞬、胸が熱くなったが、「ウルハ」というのはサンダンジ国で国王を表す言葉であって真名ハートネームではないと、後でメイが優しく教えてくれた。



「……おそらく、数十年後には、世界の勢力図は一変しております。おそらくアガルタ王様の許には、ラマロン、ニザ、フラディメを始めとして、ヒーデータあたりからも色々と協力を求められるかと思いますが、それらをすべて無視し、静観していただきたいのです」


俺はゆっくりと息を吐いた。この娘はいつ、このようなことを考えていたのだろうか。驚きを通り越して、呆れ果ててしまう。だが、彼女の言っていることは、単に妄想の域にとどまらず、かなり現実的ではある。俺はゆっくりと目を閉じた。


「アガルタ王様」


まるで、自分へ意識を向け続けろと言わんばかりに、ヴィエイユがすかさず声をかけてくる。思わず目を開いた俺に、彼女は真剣な眼差しを俺に向ける。


「むろん、アガルタ王様には、それなりの見返りを用意いたします」


「見返り?」


訝る俺の目を、彼女はじっと見ていたが、やがて、これまで見たこともないような真剣な表情を浮かべ、口を開いた。


「私の体を差し上げます。どの殿方にも、指一本触れさせたことのないこの体を、アガルタ王様のお望みのままにして下さいませ。このジュヴァンセル・ヴィエイユ、どんな姿態も厭うものではございませんわ」


「……」


ヴィエイユの顔が真っ赤になっている。そして、その目が潤みを増していく。何とも色気のある姿だ。


「アガルタ王様には、リコレット様を始めとして、メイリアス様、コンシディー様、ソレイユ様、マトカル様と、いずれ劣らぬお妃さまがおいでになります。その中の一人に私をお加え下さいとは申しません。ですが、私は何としてもアガルタ王様と体の関係を結びたいのです。これは、私の望みでもありますが、このアガルタのため、ひいては世界のためでもあるのです」


「俺とお前が男と女の関係になるのが、世界のためというのが、よくわからんが……?」


「そ……それは、その……」


ヴィエイユの顔にどんどん赤みが増していく。そして、耳まで真っ赤にした彼女は、両手を胸の前で組み、恥ずかしそうに俯く。その姿はまるで、好きな男子に愛を告げようとする少女のような趣があった……。

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