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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十三章 軍神対決編
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第三百五十三話 大魔王のお仕置き

俺は小さなため息をついていた。たった今、念話でおひいさまと連絡を取ったのだ。


彼女は、ヘイズを生きたまま連れてこいとは言わなかった。その首だけを持って来てくれればよいと言ったのだ。


ヘイズは顔をゆがませながらも、笑みを浮かべているように見える。すでに覚悟を決めたのか、それとも、自分は殺されない絶対の自信があるのか、ヤツの心の中は読めない。だが、これだけは言えるが、この妖狐は生かしておけば、未来永劫、リコのことを狙い続けるだろう。下手をすると、リコ以外の、メイやシディー、ソレイユにも手を出しかねない。


一瞬だけ、この男の矯正も考えてはみたが、すぐにそれは諦めた。コイツはすでにおひいさまに一度、命を助けられている。自分の振る舞いが原因で命が危機にさらされる経験も何度もあっただろう。にもかかわらず、その考えは全く変わらなかったし、自分の欲望の赴くままに行動してきている。詳しく鑑定していないので全てはわからないが、おそらくかなり多くの人々を不幸にしてきたことは、容易に想像がつく。


「……なあ、一つ、僕と取引をしないか?」


不意にヘイズが話しかけてくる。先ほどの強気の姿勢とは打って変わって、弱気な姿勢を見せている。


「どうした? 今になって、命乞いか?」


「ああ。やっぱり、命が惜しくなった。どうだろう? 僕を助けてくれたら、君の望むものを何でも与えようじゃないか。金でも、女でも、地位でも……。僕の力は知っているだろう? どうだ?」


「あいにくと、そのどれもに興味はないな」


「そうか。だが、これだけは約束しよう。もう二度と君の家族は襲わない。二度と他の女性にも手を出さない。僕はミークと二人、人知れずひっそりと生きていくことにする。僕の持っているアイテムはすべて君にあげよう。僕はこの裸のまま、ミークと共に、ここを出ようじゃないか。行先は君が決めてもらって構わない。どうだ?」


「あの、エルフの姫がどうやらお気に入りのようだな」


「もちろんさ。あれは僕が心から愛した女だ。僕の好みに育てた女だ。手放したくはない」


「そんな愛する女がいて、どうしてリコに手を出そうとしたんだ?」


「ミークは僕の好みに育てていく楽しみがいのある女だった。だが、リコレットは、僕の理想とする女だったのだ。あの髪の色、顔立ち、体つき、声……どれもが僕の好みだったのだ」


「何だ、外見だけか?」


「中身など、関係ないだろう。僕のモノにしてしまえば、女などどれも同じだ。僕の好むように変えていくだけさ。愛なんてものは、そのうち生まれるんだ。それに、人妻というのがよかった……。夫から無理やり奪い取って、その心と体を蹂躙する……。あと一歩だった……あと一歩……」


「……大馬鹿野郎が」


俺はヘドを吐きたくなる感情を胸に秘めながら、ゆっくりと部屋を見廻す。すると、ロフトのようになったところで、長い耳をした、エルフの少女がぐったりとしている姿が目に入った。


「……よっと」


俺はその少女を抱えて、ヘイズがいるベッドの傍の椅子に座らせる。そして、彼女に結界を張って自由を奪い、それから、彼女を覚醒させる。


「なっ、何じゃぁぁ! 体が動かん! 体が動かんではないかぁぁぁ! うぎゃぁ~!」


およそ姫とは思えない振る舞いで、彼女は奇声を上げながら、動かない体を動かそうとして、じたばたと暴れている。その様子を見ながら俺は、呆れたような口調でヘイズに話しかけた。


「まるで、獣のようだ」


「なっ、何をする気だ?」


ヘイズは顔を歪めながら、俺を凝視している。そんなヤツに俺はさらに言葉を続ける。


「ひとつ、賭けをしよう」


「賭け?」


「お前、このエルフの姫に愛されている自信はあるのか?」


「もちろんだ。ミークは僕のためなら、喜んで死ぬだろう」


「わかった。では、お前がこの姫に愛されていると証明されれば、お前の望み通り、二人で余生を送ることを許そうじゃないか」


その言葉を聞いたヘイズの顔が、イヤらしく歪み、下卑た笑みを浮かべている。どうやら、自分はエルフの姫に愛されているという絶対の自信があるようだ。


俺はゆっくりと、叫び続け、暴れ続けているミークの前に立ち、その頭に掌を載せた。


「ううっ……はぁぁっ……うわぁぁぁっ……はぁぁぁぁ……」


しばらくすると、これまで暴れていた表情とは打って変わって、ミークは恍惚の表情を浮かべる。目がトロンとなり、口が半開きになっている。その表情を見たヘイズは、驚きの声を上げる。


「なっ……何をしているんだ!」


「精神魔法で、この子の精神を操っているのだ。今、この子に極上の快楽を与えているところだ」


「何だと?」


「俺は、お前とこの姫が、愛情でつながっているとは到底、思えないのだ。お前たちが繋がっているのは、快楽だ。愛情で繋がっているのならば、引き裂くことは難しいが、快楽とならば話は別だ。それまで以上の快楽を与えてやればいい。俺が賭けをしようと言ったのは、この点だ。お前が本当にこの姫に愛されているのならば、お前は生き残ることができるはずだ。……我ながら残酷なお仕置きを考えたものだと思うよ。本来は、こんなことを考える男ではないのだけれどな? まあ、一応、その昔に大魔王だった時期もあったから、それが今でも影響しているのかもしれないな?」


「大魔王!? 貴様、まさか……」


「黙って見ていろ」


俺はヘイズの問いかけには答えず、ゆっくりとミークから手を離す。しばらくすると、彼女は狼狽えたような表情になり、必死で俺に懇願する。


「やっ、何で止めるのじゃ? やめないで欲しいのじゃ。もっと、もっと欲しいのじゃ。お願いじゃ。さっきのをもっと……もっとなのじゃ」


「そうか、いいぞ」


「はっ、早くするのじゃ。早くゥ、早くゥ」


「もう一度して欲しいのならば、あの男を、殺せ」


俺は彼女の結界を解除してやり、懐からロープを取り出して、その小さな手に渡す。彼女は脱兎の如くヘイズのベッドに向かって走っていく。そして、四つん這いになっている彼の背に跨り、ロープを首に巻き付けた。それを見た俺は、ヘイズの首のまわりの結界を解除する。


「ぐっ……ぐあぁぁ……や……止めろ……ミーク……ミーク……」


ミークは一切の迷いを見せず、容赦なくロープを全力で引いて、ヘイズの首を絞め続けている。徐々にヘイズが目をでろんと剥き、それと同時に口が開かれて、舌がベロリと垂れてくる。


「どうやらお前は賭けに負けたみたいだな。そんなことで、お前がしてきた罪は許されることはないだろうが、まずは眠れ、妖狐・ヘイズ。最愛の女性ひとに命を奪われる……。散々女性を泣かせてきたお前にとって、最もふさわしい最期だ」


俺の言葉が言い終わった直後、ヘイズの瞳から光が消えた。ミークはなおも全力でヘイズの首を絞め続けている。その姿はあまりにも猟奇的だった。


俺は彼女にゆっくりと近づき、もう止めろと声をかける。


「よいのか? よいのか? もう死んだのか? ならば早く、さっきのやつじゃ。さっきのやつを、早く、早く」


瞳を潤ませ、舌で唇を嘗め回しながら、ミークは俺の懇願してくる。俺はよかろうと呟いて、再び頭に掌を当て、そのまま彼女を眠らせた。


「……これまで、大変だったね。これからは、本当に君が愛し、愛してくれる人と人生を送るといい。しばらくは、ゆっくりと休みな」


俺は彼女を抱えると、転移結界を発動して、その場から姿を消した。そこには、これまで浮名を流してきた色男の面影を全く残さない、醜く、歪み切った表情を浮かべた屍があるのみだった。


妖狐・ヘイズは、こうして生涯を閉じた。

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