第三十四話 帝都からの招待
「待たせたな。帝都から使者が来た。ちょっと時間をもらっていいか?」
ようやく来たか。と俺はベッドから降りて司令官についていく。当初は三日と聞いていたが、実際にかかった時間は一週間である。お陰で実にのんびりとした時間を過ごさせてもらった。メシは三食きちんと運ばれてくるし、兵士も必要以上に話しかけてこようとはしない。司令官も忙しいのか、ほとんど姿を見かけることがない。俺がやることと言えば、イリモに餌をやるくらいのものだ。そのイリモも、のんびり寛いでいるようだ。
そろそろ暇を持て余しつつあったところに、この報告である。なかなかいいタイミングだ。
「ヒーデータ帝国騎士団のセオーノと申します」
黒髪で、かなりガッシリした体格を持っている。物腰は柔らかいが、精悍さが目立つ風貌だ。
「リノス殿、我が帝国宰相であります、グレモント様が貴殿に直接会って話がしたいと申しております。お手数ながら我々と帝都に同行いただきたい」
俺は自分の身分を執事代理と名乗っていたのだが、そんな人間に対しても、丁寧な対応をしているところを見ると、俺を丁重に案内せよとの厳命を受けているのだろう。
俺はその提案を承諾し、ゴンを背中に乗せ、イリモに乗って帝都に向かった。セオーノ率いる帝国騎士の護衛は完璧で、実に訓練がよく行き届いていた。
クシャナから帝都までは馬で1日の距離だ。途中小休止を取る。護衛の一人が鑑定スキルを持っているようで、「結界師と聞いていたが結界スキルが見えない」と言っていた。彼の鑑定スキルはLV1のため修練が足りないと同僚に怒られていた。一応、結界スキルはLV2を表示させるようにしよう。
そうした小休止は何度かあったが、基本的には、ほぼ丸1日走りっぱなしである。休養十分のイリモは問題ないとしても、長時間の馬での移動に慣れていなかった俺は、結構疲れた。
日が傾き、夜の帳が降りる頃に帝都に到着した。帝都には城壁はなく、山の上にあった。ジグザグの山道を登り、登りきり、森を抜けたところに都があるのである。言ってみれば山頂を削り取り、そこに都を作っているような感じだ。
城門をくぐり、帝都に入る。しばらく街を進むと、大きな建物にぶつかる。そこで馬を降りて建物の中に案内される。
そこはジュカ王国の王宮を思わせるような豪華な作りだった。てっきり城の一部かと思ったが、何とそこはホテルだった。俺と同じ執事服を着た紳士が恭しく俺たちを出迎え、俺を部屋まで案内する。部屋はとても広く、まさにVIP待遇であった。
「明日の朝、迎えに参ります。それまでゆっくりとお休みください」
セオーノは俺に一礼をして、その場を後にする。その後、ホテルから食事を提供されたが、何とローストビーフであった。バーサーム家を思い出す。その他、出されたパンやスープも美味しいもので、俺は大いに堪能した。
「かなり我々を警戒しているのでありましょうなー」
食事が終わり、デザートを食べ終わり、まったりした時間を過ごしていると、ゴンが小声でつぶやく。
さすがに料理に毒を入れてはいなかったが、わからないように俺たちには監視が付けられている。この部屋の両隣に二人ずついる。その上、天井にも二人いる。忍者みたいだ。護衛なのかもしれないが、帝国はかなり俺たちに気を使っているのだろう。
ヒーデータに入ってからは結界を一度も解除していない。このまま解除する気もないが、しばらくはこのままでいよう。
驚くことにこの部屋にはシャワーがあった。どういう仕掛けをしているのかは知らないが、この世界に来て初めて見た。ベッドもフカフカでよく寝ることができた。
朝、セオーノが迎えに来る。外に出て見ると遥か先に宮城が見える。ジュカ王国と比べると規模が小さいが、基本的に宮城は皇帝が住む場所であり、外交や食料などの行政機関は宮城の周りにあるらしい。
てっきり行政機関のどこかに案内されるのかと思いきや、宮城に案内されてしまった。どうりで道が広いわけだ。山の上とは思えないほど、整備された広い道である。
宮城の門をくぐると、セオーノはここで待つという。代わりに中から執事然とした紳士が現れ、俺を案内した。宮城内はまるで迷路のようになっており、「マップ」がなければ間違いなく迷子になっているだろう。
応接室のような部屋に通されてしばし待つ。この部屋も数名の者が監視している。天井にもいる。ご丁寧なことだ。
そんなことを思っていると扉が開き、頭が禿げ、口ひげを蓄えた老人と、ローブで頭を隠した魔法使いらしい男が入ってきた。老人が俺の前に立ち、
「貴殿がリノス殿か。私はこの国の宰相を務めている、グレモントという。遠路よくおいでくだされた。ささ、まずはお掛け下さい」
グレモントの後ろに控えた魔術師が、何やら耳打ちをする。
「ほう、その年で結界LV2をお持ちか。教養スキルも高い。どうやら本物のバーサーム殿のお方のようだな」
魔術師が俺を鑑定したらしい。やはりダミーのスキルに引っかかってくれたようだ。
「左様でございます。バーサーム侯爵家で執事代理をしております、リノスでございます。宰相閣下、そのようなお言葉ではなく、どうぞ、お呼び捨てください」
「いや、そうはいかぬ。奴隷の身分でありながら、バーサーム殿が養子にしようとまでされた人物だ。あのお方には世話になったのでな。そんなお方の身内を無下にはできないだろう」
俺が奴隷だということも把握している。情報収集能力が優れているのか、と思いつつ俺は、恐れいります、と頭を下げておく。
「さて・・・貴殿からの報告は聞いた。ジュカ王国の王都は本当に壊滅したのだな?生存者は?・・・なるほど、現在は無人の都か。国王陛下は?侯爵殿は?・・・そうか、皆、亡くなられたのだな」
「左様でございます。従って現在は空白地帯のようになっておりますが・・・。帝国はジュカ王国に侵攻されますか?」
「いや、そうもいくまい。仮にも大魔王が降臨して、大規模な王都一つを壊滅させたのだ。寧ろその大魔王の行方を追うのが先決であろう」
「では、帝国は王国に手は出さない、と?」
「バーサーム殿とカルギ将軍が消えたのだ。遠からず王国は内戦状態になるだろう。それに巻き込まれるのがイヤで、貴殿は帝国に来たのであろう?まあ、その件は良い。しかし、惜しい人物を亡くした」
「我が主、バーサーム侯爵でしょうか?」
「いや、公とカルギ将軍の二人だ。王国はあの二人が支えていると言って過言ではなかった。カルギ将軍の率いる部隊に帝国軍は一度も勝てなかった。その将軍を侯爵殿は上手く抑えながら国内外の均衡を絶妙に保っていた。今後、あのような天才的軍人と政治家は出ないであろうよ」
「私は詳しいことは存じませんが、国王陛下は我が主とカルギ将軍閣下に、大きな信頼を置いておられたと聞いております」
「あの国王陛下は房事にかまけて政務を顧みなかった。隠さずともよい。皆が知っていることだ。しかし、あの国にはそれが逆によかったのだ。下手に国王が政治と軍事に手を出していれば、とっくにあの国は蹂躙されていた。帝国がやらずとも、周辺国がやっただろう。天才二人に全てを委ねたのが、あの国をここまでにしたのだ」
あんなブタ国王にそんないいところがあったとは・・・見方が変ると違うものだ。
「しかし、侯爵殿の死去は惜しいな。あのお方が生きておれば、あの国は立ち直れただろうに。何せ3日間寝ずに働く方だからな。部下を採用する時に「72時間戦えますか?」と真顔で聞いていたそうだからな」
クックックツと笑う宰相。なるほど、だからあまり屋敷に帰ってこなかったのか。ある意味、侯爵も化け物だったのだ。
「それにしても、貴殿のような人も珍しい。王族でもないのに、成人前の子供にわざわざ使者を遣わして帝都に招待するなど、ない、とは言わんが、かなり珍しい珍事だな」
「私は14歳になります。既に成人しておりますが・・・」
「12歳で成人としているのは、ジュカ王国くらいのものだ。帝国をはじめ、近隣諸国はどこも15歳で成人なのだ。あの王国には成年前の女性を後宮に入れてはならぬ、という初代国王の遺言があってな。もっともそれは、年端もいかぬ子供を人質に取るなという意味なのだが、先々王がどうしても若い子女を側室にと望まれたのだが、その遺言のため後宮に入れることができなかったのだ。そこで、成人を12歳として思い人を後宮に入れたのだ。先王の時に改めればよかったのだが、先王は自分の体に鞭打つことがお好きな王でな。それがために早くにお亡くなりになり、現王になったのだが・・・。王はお爺様の血を継がれていたらしいな」
ジュカ王国の国王は、ロリコン⇒変態⇒ロリコンの系統のようだ。全くロクでもない国王らである。




