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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十二章 軍神編
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第三百二十八話 呪いがもたらせたもの

結果を先に言ってしまうと、俺は、暴風雨のような衝動に陥ることはなく、いつもの状態に戻っていた。それに一番ホッとしていたのが意外にもソレイユだった。


「正直、リノス様が以前のままでしたら、今夜は勘弁してくださいと言おうと思っていました……」


聞けば彼女は、俺にエロブーストがかかっていた最初の頃はうれしくて仕方がなかったそうで、持てる全てのテクニックを駆使して俺に対峙していたのだそうだ。だが、全く衰えぬ俺のペースに、基本的に体力がなかったソレイユは、自分もヘロヘロになりながら朝を迎えていたのだという。てっきり大喜びで俺との時間を過ごしていたのだろうと思っていたが、どちらかというと、明け方近くの時間は、サイリュースのプライドにかけて必死で頑張っていたのだそうだ。


「そう言えば、最後の方はずっとイヤイヤって言っていた気がするな。ソレイユはいつもイヤイヤっていうけれど、あれは本当に嫌だったのか?」


「イヤではありませんでしたが……その……無意識に……」


ソレイユは申し訳なさそうな表情を浮かべながら、あんな激しい夜はキライではないが、毎回というのはさすがにキツく、できれば半月に一度くらいにして欲しいと言っていた。そして、母親のヴィヴァルにはこのことは絶対に秘密にして欲しいとお願いされた。男を虜にすることに絶対の自信を持つサイリュースが、体力不足で負けたということが知られれば、母からどんなお叱りを受けるかがわからないと、目に涙を溜めながら訴えていた。いつもの妖艶なソレイユとは別の顔が見られたために、俺にとっては新鮮だったが、彼女はマジでビビっていた。母としてのヴィヴァルはとても怖い人であるらしい。


そのせいもあってか、その夜のソレイユは、いつになくおしとやかだった。


次の日はマトカルだったが、こちらも、以前のような状態にはならず、俺は冷静に彼女と応対することができた。話をしていて、こちらも意外だったのだが、彼女はソレイユとは逆に、俺のエロブーストについては、ほとんど問題なかったのだという。軍隊で鍛えていることもあるのだろう、体力が人並み以上にあるために、過酷と思われる夜も、問題なく過ごすことができたようだ。


「でも、次の日は軍の勤務があっただろう? 兵の訓練とか……大丈夫だったのか?」


「問題ない。ラマロンにいた頃は、重装備で夜間を行軍し、短い仮眠をとってすぐに一日行軍するといった訓練も受けてきた。それに比べれば、全く問題なく耐えられる」


「でも、訓練は少なからず休憩があっただろう? 俺の場合は、休憩はほぼなかったと思うんだが……」


「そうだな。リノス様は肉体強化のスキルがあるから、体力が落ちてくると、自然にそのスキルが補ってくれる。そのために朝までぶっ通しだったが、訓練とは違い、常に心地いい状態だったので、精神的にはとても楽だった」


「心地いい状態って……マト……」


「あ、う、そ、そういう意味ではない」


顔を赤らめながらアタフタとするマトカルは、とてもかわいらしかった。そんな様子を見られるのが恥ずかしいのか、彼女は真顔に戻って、さらに話を続ける。


「それに……夜明けまでの少しの間は眠ることができたので、体力的には問題はないのだ」


「少しの間って……1時間もなかっただろう?」


「1時間もあれば十分だ。長い時間眠るのも悪くはないが、短い時間で熟睡しても、体力は回復するし、逆に頭は冴えるものなのだ。それが一ヶ月間続くとなれば話は別だが、ラマロンでは短時間睡眠のスキルを身に付けることは、司令官となる者にとって必須スキルとされていたので、一週間程度であれば、全く問題はないのだ。むしろリノス様も短時間で熟睡するスキルを身に付けた方がいい。これから大きな戦いが起こる可能性があるのだろう? 戦場に出ては、眠れぬこともあるだろうからな」


「いや……それは……」


苦笑いする俺に、マトカルは真剣な表情を浮かべている。


「戦場においては大事なスキルだ。丸一日槍や剣、魔法を使い続けるとクタクタになるが、夜は夜で夜襲に備えねばならないこともある。そんなときに眠っていて敵に侵入を許してしまっては、目も当てられない。短い時間で熟睡して体力を回復し、敵の襲撃に備えられる準備をした方がいい。特にリノス様は軍の最高司令官になる。常に冷静な判断が行えるようにしておかねば。睡魔に襲われて判断力が低下していては、勝てる戦いにも敗北してしまう」


「……そ、そうだな。マトの言うことも一理ある。回復魔法は肉体の傷は治癒してくれるが、精神的な疲れは取ってはくれないからな。あ、いや、精神魔法があるか? あれは……使ったことはないが、あれなら眠気を飛ばしてくれるんじゃないか? 一度、試してみるか」


俺のその言葉に、マトカルは無言で視線を向け続けている。


「わ……わかった。短時間睡眠のスキルは、あらためてどこかで訓練しようか。前のように、明け方近くまでブッ通し……というのはマトにも負担をかけるし、俺自身も難しいからな」


「まあ、私は別に構わないのだが……」


「え?」


「何でもない……」


その夜のマトカルは、恥ずかしさも手伝ってか、いつもとは違って久しぶりに、ずっと目を閉じたままだった。



二人と過ごした次の日の夜、俺は眠ることなく、寝室のベッドに横になりながら、リコを待っていた。


彼女はイデアを抱っこしながら寝室に入ってきた。ここ最近の彼はいつもにも増してお母さん子になっている。リコが抱っこしないと眠らない。それどころか、リコが屋敷にいる間は、ベッタリとくっついていて離れようとしない。リコは甘えて困ると言うが、俺はそうは思わない。男の子なのだ。遠からず母親が部屋に入っただけで激怒する時期がやって来る。ママ、ママと甘えてくれるのは今のうちだ。そうしたこともあって俺は、彼がママの側に居ようとするのを止める気はないのだ。


リコはベッドの横に置かれている子供用のベッドに、注意深くイデアを寝かせる。眠りが浅い状態で寝かせると起きてしまい、泣いてさらに寝かせるのが大変なのだ。


「……寝ましたわね」


リコはゆっくりと息を吐きながら、イデアから目を離すことなく俺の寝ているベッドに近づいて来る。


「本当に、甘えん坊で困りますわ」


「男の子はそんなものだよ。ママって言われる時期は、意外と短いものだよ。今の時期が一番楽しい時期かもしれないよ」


「それでも……」


困った表情を浮かべながら、リコはベッドに入ってきた。俺はいつものとおり、彼女に腕枕をする。リコは再びゆっくりと息を吐きながら口を開く。


「やっぱり、リノスの腕枕が一番安心しますわ」


笑顔を浮かべながらリコは俺に体をピタリと寄せ付ける。


「きっと、イデアはリコに似たんだろうな」


「何故です? 私はリノスに似ていると思いますわ」


「顔は俺に似ているかもしれないけれど、中身はリコだよ」


「そうでしょうか?」


「だって、一人では寝られないじゃないか」


リコは恥ずかしそうに顔を俺の胸に埋めながら、拳でトントンと俺の胸を小突くようにして叩いてくる。そして、しばらくしてゆっくりと顔を上げ、嬉しそうな表情を浮かべた。


「やっと……いつものリノスが戻ってきてくれましたわ。……お帰りなさいませ」


「心配かけたね。ごめんな、リコ」


「いいえ、ただ、私は、リノスが心配だっただけですわ」


リコがものすごくかわいらしい笑顔で俺を見ている。俺たちはお互いに手を握り合う。


「ありがとう。やっぱり、リコが大好きだ」


「私もですわ」


その夜、俺とリコは、いつも以上にゆっくりと眠ることができた。

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