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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十二章 軍神編
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第三百二十七話 恐るべき呪い

リノスの執務室において、リコとメイ、そしてシディーの三人がリノスの前に座っていた。そして、リコの口から語られた名前に、リノスは頓狂な声を上げた。


「ポセラ・セイク?」


俺は初めて聞く名前に首をかしげる。だが、俺の目の前に座るリコ、メイ、シディーの表情は真剣そのものだ。その様子に俺は、背筋を伸ばして彼女たちの話に耳を傾ける。


ポセラ・セイクとは、いわゆる呪術の一種で、人を呪い殺すものなのだそうだ。聞けば、その呪いのかけ方が凄まじい。俺の呪いについてのイメージは、深夜に藁人形に釘を打ったり、火を焚いて寿限無寿限無と呪文を言いながら呪ったりする、というものだが、今回のものは、そんな生易しいものではなかった。一組の男女が裸で抱き合いながら交わり合うというもので、それが丸三日間、飲まず食わずのぶっ通しで行われるという、ファンキーを通り越して、もはや狂気としか言えないものだったのだ。


しかも、そのレイアウト自体も狂っている。男女の前には祭壇が設けられ、そこには若い魔法使い男女の生首が置かれ、さらに、その真ん中には、ドラゴンの骸骨が置かれるのだという。この骸骨は、高位のドラゴンであればあるほど効果を増すらしく、今回は何と、黒龍の骸骨が使われていたそうだ。ちなみに黒龍は、アガルタからはるか南にあるモハラという島にあるクレスソ山脈に住んでおり、ドラゴン族の中でも狡猾さにおいては随一と言われる種族なのだそうだ。今回使用されたのは、若いドラゴンだったようで、これが長老クラスであったら、果たしてどのような結果になっていたのかは、想像もできないのだという。この骸骨に特別な魔力を付与した紙を張り付け、そこに呪うべき相手の名前を記入する。そして、男女が交わった際の体液を塗り込めていく。その回数に比例して、呪うべき相手の性欲が極限まで高ぶり、際限なく女性を求め続けて、挙句には狂い死にするというグロテスクなものらしい。


なぜ、男女が交わり合うのかといえば、男性側が絶頂を迎えたときに、一種の「真っ白な状態」に陥る。そのとき、男の肉体は空白になっているそうで、そこに邪悪なる神を憑依させ、呪いをかけるのだという。ただし、男の意識はすぐに回復する。つまりは、男は絶頂の状態を繰り返すことで呪いの効果を発揮しており、その回数が多ければ多いほど、呪いの効果は高まる。この呪いは下手をすると、男性側もしくは女性側、あるいはその両方ともに死ぬこともあるのだという。リコの話では、それが実際に行われていたというのだから、恐ろしい話だ。


「で……リコ、それは一体どこで行われていたんだ?」


「驚かないで下さいませ。ヒーデータ帝国の帝都ですわ」


「はぁっ!?」


全く予期していなかった場所に、俺は再び頓狂な声を上げてしまった。そんな俺の様子に、リコたちは無表情のままで座り続けている。


「帝都には未だ、クリミアーナ教の教会があります。ポセラ・セイクはまさにそこで行われていたのですわ」


リコの表情が歪む。それはそうだ。自分が生まれ育った都で、そのようなおどろおどろしい儀式が行われていたのだ。リコにとっては、自分自身を汚されたように感じるだろう。


聞けば、帝都の兵士が教会に踏み込んだとき、そこではプレイの真っ最中だったらしい。しかも男はゲッソリとやつれ、蒼い顔をしたまま腰を振り続け、その下で女性は泡を吹いて気絶していたのだそうだ。あまりの光景に兵士たちは絶句し、しばらく何もできなかったのだという。


何とか気を取り直して二人を引き離すと、その直後、男は意識を失った。そして男は、手当の甲斐もなく、ほどなくして絶命したが、女性は数時間後に意識を取り戻した。とはいえ、体へのダメージは大きく、おそらくまともな生活には戻れないような体になってしまっているらしい。そんな中でも、彼女から話を聞き出すことに成功し、この女性は法外な金額で雇われたに過ぎない、一介の娼婦だったことがわかった。


女性からしてみれば、単に男と交わるだけの簡単な仕事であり、それだけで数年は暮らしていけるだけの金が手に入るとあって、喜んで引き受けたのだ。しかし、現れた相手役の男は疲れ知らずであり、彼女は何度も意識を失ったのだという。


「す……凄まじい話だな」


呆れる俺に、リコはさらに言葉を続ける。


「祭壇にはリノスの名前が書かれた呪符に加えて、マトとソレイユの名前が書かれた呪符もあったのですわ」


「え? ……ということは?」


「リノスだけが呪われていたのではなく、マトもソレイユも呪われていたことになりますわね」


「……」


なるほど、それで二人とも朝までずっと俺に付き合えたのだ、と妙に納得してしまう。これはメイの推察だが、おそらく俺の結界のお蔭で、呪いの効果は半減していたようだ。メイの調べでは、今回俺やマトカル、ソレイユにかけられた呪いは最強クラスだそうで、これにまともな人間がかかると、おそらく男も女も死ぬまで互いを求め続けるのだそうだ。それが一晩で、しかも、俺の体力が尽きて眠ってしまう……という程度で済んでいたのは、俺の結界が功を奏していたからなのだという。


「そうか……しかし、よくこの二日間で呪いがかけられていることと、その場所が特定できたな。一体、どうやって調べたんだ?」


「簡単ですわ。まず、シディーが直感で呪がかけられていると思いついて、それをメイが調べたのですわ。ポセラ・セイクに行き当たるのにはそう時間はかかりませんでしたし、最後は、シディーが帝都の教会を特定したのですわ」


「……さすが、だな。それにしてもシディー。どうして帝都だと思ったんだ?」


「呪いをかけるならば、絶対に邪魔をされてはいけません。狙いがリノス様であれば、リノス様が警戒しない場所……そう考えると、アガルタの都、帝都、私の故郷のニザというところになります。その中でクリミアーナと関係があるところと言えば……」


「ヒーデータ帝国というわけか」


シディーはコクリと頷く。相変わらず、素晴らしい洞察力だと感心する。


その後、ドラゴンの髑髏は粉々に砕かれ、さらには帝国の魔導士の火魔法によって焼かれた後、地中深く埋められたのだという。どこに埋められたのかは、敢えて聞かなかった。今回の件については、リコのお蔭もあるが、全面的に陛下が協力してくれたために、迅速な解決につながっていた。また一つ、陛下に借りが出来てしまった気もしないではない。まあ、それはそうとして今度一度、陛下にお礼を言いに行かねばならない。


そして、俺はというと、呪いは解けたと言うリコの指示のもと、マトカルとソレイユと一緒に寝てよいということになった。呪いがかかっていない状態を確かめるべきだというリコの意見に従って、早速、いつものローテーションを変更して、今夜と明日の夜は、それぞれ、ソレイユとマトカルと過ごすことになった。いつもながら、リコの心の広さには感心するが、間違いなく心中は寂しさを覚えているはずだ。リコにもお礼をしなければならない。


二人と過ごすにあたっては、未だに辛抱たまらん状態になるのであれば、すぐにリコに相談するということになり、さらには、メイが部屋で待機していて、俺に何かあればすぐに駆け付けられる体制を取るという厳戒態勢が敷かれることになったのだった。


俺は一抹の不安を抱えながらその夜、ソレイユが待つ寝室に向かう。そして、部屋の前で数回、深呼吸をして心を落ち着け、ゆっくりと扉を開けるのだった……。

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