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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十二章 軍神編
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第三百二十五話 茶番会議

フラディメ国で行われた学会は、大盛況のうちに幕を閉じた。メイと大上王が発表した内容は、世紀の大発見として集まった学者たちから喝采を受け、メイの名声はさらに高まっていた。それと同時に、リボーン大上王の計らいで、参加した学者たちは知識交流を大いに楽しむことができ、彼らは今後さらに、新しい研究に力を注いでいくことを約束し合ったのだった。


その学会が終了して二週間。クリミアーナ教国の首都、アフロディーテでは、教皇、ジュヴァンセル・セインが、呆然とした表情を浮かべつつ、手に持った書簡に目を通している。


「教皇聖下、失礼いたします」


若い司教が恭しく一礼をして入室してくる。彼は目だけを向け、ゆっくりと頷く。


「申し上げます。タナ王国国王、ヴィル様がお見えになりました」


「わかりました。カッセルと他の枢機卿も呼んでください」


司教は一礼をして部屋を後にする。彼はやれやれといった表情を浮かべながら、大儀そうに椅子から立ち上がる。



「……お召しにより参りました。教皇聖下におかれましては、ご機嫌麗しく、何よりとお慶び申し上げます」


タナ王国国王、ヴィルは顔に微笑を浮かべながら恭しく頭を下げる。その様子を教皇は満足げな表情で見ながら、入室してくる。その彼の後を追うように、8人の枢機卿が続き、そして最後に、カッセルが入室してきた。


カッセルが教皇の隣に来ると、それが合図であったかのようにヴィルは頭を上げる。そして、教皇に促される形で、目の前に備えられた椅子に座る。彼が着席すると同時に、教皇たちも席に着いた。


「さて、皆さんをお呼び立てしたのは他でもありません」


教皇がゆっくりと口を開く。それに合わせて、全員が姿勢を正して、彼に注目する。その様子をゆっくりと見廻しながら、さらに言葉が続けられる。


「先だって、フラディメ国において世界医療研究学会と題される催しが開催されました。こちらについては、皆さんもすでにご存じの通り、私からその開催を中止、もしくは延期するよう求めていたのですが……」


「至急討伐すべしです!」


「天道に背く国には死を!」


教皇の言葉を遮るようにして、数名の枢機卿が鼻息荒く物騒な言葉を吐いている。教皇はその意見を手で制す。


「お気持ちはわかりますが、私は事を荒立てたくはありません。いえ、あの研究会には、我が国の医療研究所の者が参加することができませんでした。世界医療研究学会とあるのですから、当然我が国も参加しなければなりません。だが、フラディメ国は我が国の参加を待たずに学会を開催し、あまつさえ、自国の発表が世紀の大発見であると発表してしまいました。私も拝読しましたが、あれは素晴らしい発見です。魔力総量が少なければ少ないほど、その回復力を発揮する石……。まだLVの低い魔法使はほぼ、魔力切れの心配をすることがなくなる。素晴らしいです……。ええ、素晴らしい発見であったと思います」


教皇はそこで言葉を一旦切り、ゆっくりと息を吐く。そして、全員に視線を向けながら、さらに言葉を続ける。


「ですが、これはあくまでフラディメ国とアガルタ国が独自で行った研究であって、他の研究機関で実験がなされ、その有効性を証明されているわけではありません。数年前、我が国の、キリスレイ、ガイッシャ、ルロワンスにおける特効薬開発において、実験は何度も繰り返すべきであって、偶然の産物でないことを証明せねばならないと仰られたアガルタ王妃が、まさかこのようなことをなさるとは……非常に残念です」


「教皇聖下、我がクリミアーナ教国の名において、全世界にこの横暴を訴えかけましょう!」


枢機卿の言葉に、教皇は満足げな表情を浮かべながら頷く。


「ええ、本来はそうすべきなのでしょう。ですが、それは効果がありませんね」


教皇の言葉に、集まった枢機卿が不思議そうな表情を浮かべる。


「フラディメ国で開催された学会、あそこには約50か国に及ぶ国々が参加しているようです。つまりこれは、私の要請を受け入れていただけなかった国が50か国にも及ぶということになります。もしかすると、アガルタとの付き合い上、仕方なく……という国もあるでしょうが、それにしても多いですね。これは偏に、私の能力不足ですね。耄碌したのでしょう……」


教皇は目を閉じて、ゆっくりと天を仰ぐ。その様子に枢機卿たちが、そんなことはありません! と宥めている。そんな中、タナ王国国王のヴィルが教皇の側に控えているカッセルに目配せをする。それを受けてカッセルは、小さく頷いた。


「教皇聖下に申し上げます」


「何でしょうか、カッセル?」


「フラディメ国で開催された学会……。それはつまり、天道に反する行為。天道に反する者は排除するというのが、我が教国の姿勢でございました。今、ここにきて、その姿勢を曲げるべきではないと存じます」


「カッセルは、学会に参加した50か国を討て、そう言うのですか?」


「御意」


「恐れながら」


ヴィルが二人の会話に割って入る。教皇以下、全員の視線が注がれる中、彼はゆっくりと口を開く。


「50か国すべてを討つ必要はありますまい。核となる国を討ちさえすれば、あとは放っておいても自滅します。この私にお任せいただきたく、お願い申し上げます」


「ほう、それは頼もしいですね。その……タナ国王様が、天道に反する国々の、その核となると思われる国をお伺いしても?」


「サンダンジ国とアガルタ国です」


その言葉に、枢機卿たちの声にならない声が部屋の中に広がっていく。教皇は大きく頷きながら、優しい口調でさらに言葉を続ける。


「サンダンジ国とアガルタ国……確かに、天道に従う姿勢が見えませんね。ただ……両国とも、討伐は難しいのではありませんか?」


「問題ございません」


すかさずカッセルが口を挟む。


「タナ王国国王陛下は、軍神であらせられます。先だっても、教国に従わぬサルファーテ国を瞬く間に壊滅せしめたお方です。サンダンジもアガルタも、この軍神によって間違いなく鉄槌を下されることと存じます」


「恐れながら、我が国の総兵力はすでに10万を超えます。南のサンダンジとフラディメを併呑すれば、その兵力は優に20万を超えることになりましょう。私が住む大陸から、アガルタまでは遮るもののない一本道……。それだけの兵力と、我が国が作り上げた武器・防具をもってすれば、アガルタを討伐するのは容易いことです。これらの国が滅べば、自ずと世界中の国々が、主神様の前に膝を折ることになりましょう。全ての作戦はこの私にお任せください。すでに、いくつかの策は考えております。この世界に主神様の教えを行き渡らせるのがわが使命と心得ます。何卒、伏してお願い申し上げます」


ヴィルの言葉に、教皇は満足そうに頷いている。


「よくぞ申してくれました。さすがに軍神と言われるお方だけありますね。よろしい。あなたにすべてをお任せいたしましょう。存分に采配をお振るいください。我が教国も、支援は惜しみません。何かあれば何なりとご相談ください。カッセル、あなたを私の名代に任じます。くれぐれも頼みましたよ」


「ハハッ、不肖の身ではありますが、我が身命を賭して……」


恭しく頭を下げるカッセルを、にこやかな笑みで眺めながら教皇は、ゆっくりと席を立つ。


「年老いた私にできることなどありませんが……できるだけ、あなた方の作戦が計画通りに進むよう、手助けしていくことに致しましょう」


そんな言葉を残して、教皇は枢機卿たちを伴って部屋を後にしていった。


「……ふぅー。やれやれ」


教皇を見送った後、カッセルはさも疲れたといわんばかりの表情を浮かべながら、席にドカッと座る。その様子をヴィルは、口元だけをゆがめた表情で眺めている。


「いつもながら回りくどいことです。教皇聖下は、こういう重大なことに関しては基本的に、ご自身の考えを仰らない。いつも枢機卿の誰かが気を利かして今後の展開を述べなきゃいけない。茶番劇ですが、これがなかなか疲れるのですよ」


「ですが、カッセル殿のお話は、どうやら教皇聖下の思惑と一致していたようですね」


「まあ……ね」


カッセルは意地悪そうな笑みを一瞬浮かべたが、すぐに元の表情に戻って椅子に座り直し、姿勢を正して再びヴィルに話しかける。


「ところで、作戦の方は、順調なのですか?」


「ええ、それはもう。すでに準備は整っております。他にもいくつかの作戦が進行中です。問題はありません」


「そうですか。それでは、教皇聖下の許に参ります。できるだけ、あのお方の力を利用しなくては……。労力は、最小限にしたいですからね」


「同感です」


二人は顔を見合わせながら、クスクスと笑い合った。この二日後、クリミアーナ教国の首都、アフロディーテから一人の使者が送られ、同時にその裏で、ある作戦が実行された。その内容と意図をリノスたちは知る由もなかった……。

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