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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十二章 軍神編
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第三百二十二話 大上王の要請とメイの大ボケ

ポカンと口を開けて呆れている俺の姿が意外だったのか、逆にメインティア王が不思議そうな顔をしている。


「どうしたんだい?」


「いっ……いえ、その……正気ですか?」


「一体何を言っているのだい、君は?」


メインティア王はますますわからないといった表情を浮かべている。俺からしてみれば、この男自体がよくわからない。なんと彼は、ウチのピアトリスをオンサールの嫁に迎えたいと言い出したのだ。青天の霹靂とはこのことだ。


「王族たる者は、子供が生まれれば早めにどの国と婚姻を交わすのかを決めるものだ。まあ、私の場合は子供が多いから、そうそう輿入れ先もないために、我が国の貴族たちに輿入れせざるを得ないのだけれどね。オンサールとピアトリス殿は年も同じ、しかも、ここアガルタで育った幼馴染だ。ピアトリス殿にしても、全く知らない家に嫁ぐよりはいいと思うけれど? それとも、既にピアトリス殿には許嫁がいるのかな?」


「いえ……俺は、娘には自由に恋愛させて、自分で自分の伴侶を見つけて欲しいと思っています」


そこまで言うと、メインティア王の声色が変わる。低い、ドスの効いた声だ。


「ほう、それでは、エリル殿とヒーデータ帝国の皇太子と婚約しているというのは、あれは単なるうわさかな?」


「あーあれはですね……」


「いや、皆まで言う必要はない。私も国と国の話だ、そこに立ち入る気持ちはない。ただ、この話はアガルタにとって悪い話ではないと思うよ? いや、聞き給え。ピアトリス殿がオンサールに輿入れすると、我が国の情報は、アガルタに筒抜けになるのだ。……わからないかな? まさか、ピアトリス殿一人で輿入れさせるわけはないだろう? 当然そこには侍女たちもついて来る。その者たちを傍においてくれと言われれば、私は拒否できない。従って、アガルタの人間が我がアリスン城の奥深くに入り込むことができる。意味は分かるね?」


「何でそこまでするのです?」


「決まっているじゃないか! アガルタと誼を通じたいからだ! 今はオンサールを人質として預けているが、その彼にアガルタ王の娘を娶らすと、我がフラディメ国は盤石になる。そう思わないかい?」


「はあ……」


「ともかくだ、この話は一度、考えてみて欲しい。ダメならダメで、そのときは私が息子に女の惚れさせ方を徹底的に伝授するつもりだ。そして、ピアトリス殿の心を掴ませるよ。逆に、そちらの方が、アガルタ王にとってはいいかもしれないね?」


彼はニコニコと機嫌のよさそうな笑みを浮かべている。俺は、その様子を見ながら、深いため息をつく。


「娘には、護身術を徹底的に身に付けさせましょう」


「うん? どういう意味だい?」


「どうせ、腕づくでベッドに引きずり込むのでしょう? で、あれば、そうならないように、どんな男に襲われても太刀打ちできる護身術を身に付けさせます。今から修行すれば、相当な腕になるでしょうね」


「ハッハッハ! これは参ったね! 今回は私が負けたよ。だが、今すぐでなくてもいいが、一度、オンサールとの婚儀を考えてもらえると、うれしいな」


その言葉に俺は、静かに首を振るのだった。



それから一ヶ月後、大上王から正式に学会を開催する旨の書状と、その招待状が俺たちの許に届いた。開催日は4月14日と定められていて、俺は書状を持ってきた大上王の家来に、喜んで参加すると伝えた。


「あの……誠に、誠に、恐れながら申し上げます」


使者の男が、この寒い中、額にうっすら汗を浮かべながら俺に話しかけてくる。彼は一度深呼吸をして、さらに言葉を続ける。


「わ……我らが大上王様におかせられては、事前に、メイリアス様に我が国にお越しいただきたいと希望されております」


彼が言うには、フラディメ側の発表について、大上王はアガルタとの共同研究として発表したいと考えており、その準備をメイたちと一緒に行いたいと希望しているのだという。つまりは、学会の開催まで二ヶ月あるが、メイに一ヶ月早くフラディメに入ってもらい、発表の準備を一緒にしたいという意向だ。


「無理を申し上げているのは重々承知の上でございます。ただ、我が大上王の知的好奇心は留まるところを知りませず……。あくまで、あくまで、大上王様はただただ、学問の質の向上のみを願っているだけでございまして……」


「わかっている。そちらのメインティア王とは違う、といいたいんだな? 大上王には俺も会ったことはあるので、その人物は知っているつもりだ。ただ、それについては妻の予定もある。ちょっと時間をもらってもいいか? 今日はもう夜だ。返事は明日でいいか?」


「結構でございます。ありがとうございます」


彼は恭しく頭を下げた。


俺はその後、屋敷に帰り、夕食を食べた。子供たちを風呂に入れ、寝室に入るとメイがいた。今日はメイの日なのだ。


「アリリアはいつものソレイユと……か?」


「はい」


アリリアは気まぐれな子で、メイと一緒に寝たいといったかと思えば、次の日はソレイユの部屋で寝たりする。逆に、エリルはマトカルにベッタリだ。マトカルの日でも俺の寝室で一緒に寝たいと言い出す始末だ。だが、アリリアは俺と一緒に寝たいとは言わない。俺としてはそれがちょっと寂しいのだが。


「アリリアは、子守唄がないと眠れませんから」


彼女はいつもメイかソレイユの子守歌がお気に入りなのだ。特にソレイユの歌は効果抜群で、すぐに眠りに落ちる。だが、俺やリコの歌では彼女は眠らない。リコはリコでかなりきれいな声で歌うのだが、どうもダメらしい。海の神に歌と踊りを捧げる巫女であるルアラにも何度か歌わせてみたが、これはダメだった。赤ん坊の頃などは火が付いたように泣き出したし、今でも彼女の歌を聞くと、途端に大人しくなる。今では悪いことをしたお仕置きとして重宝しているが、ルアラはルアラでその立ち位置に、少々傷ついているのだ。実際、ルアラの演歌は上手い。こぶし廻しが抜群に上手くなっているのだ。お蔭で、海の女王であるトリちゃんの機嫌はすこぶるいい状態で、ルアラは彼女にとって精神安定上なくてはならない存在になっている。


「まあ、子守唄で眠るという時期も、もうすぐ終わるだろう。今しかない時期だから、これはこれで貴重なのかもしれないな。もう少し大きくなったらきっと、一人で寝るようになるんだろうしな」


「そうですね」


そんなことを言いながら俺たちは笑顔を交わし合う。そんな中、俺は先ほど迎賓館で聞いた大上王の意向を伝える。彼女は少し何かを考えていたが、やがて、ゆっくりと口を開いた。


「今回のフラディメ国の発表は、フラディメ国が発見したということで、よいと思います」


「うん? 何でだ? 元々、オージンのゲロ……吐瀉物を調べたのは、メイたちだろう?」


「ですが……その効果を発見したのは、大上王様ですし……」


「メイにしては珍しいな。そういう共同研究は大好きじゃないのか?」


「いえ……その……ひと月も行きっぱなしというのは……」


「アリリアのことが気になるのか?」


「……」


メイはじっと俺を見つめている。そしてゆっくりと俺から視線を外し、恥ずかしそうに口を開く。


「ひと月も……ご主人様の側に……居られないのは……」


「え? 何で? 帰ってくればいいよ」


「え?」


「ローニを連れて行くんだろ? 夜になったら一緒に帰ってくればいいよ」


「あ……」


メイは顔を真っ赤にしている。こんな表情を見るのは久しぶりだ。何とかわいいことか。


「ハッハッハ! メイにしては珍しい大ボケだな」


「……すみません。お側に居られないと思うと、不安で」


「いいよ、ありがとう、メイ。じゃあ、大上王には返事をしておいていいな? 細かい調整については、メイに任せるから、よろしく頼むな」


「わかりました」


メイは耳まで真っ赤にして、恥ずかしそうに俯いた。俺はその表情を心から可愛らしいと思いつつ、優しく彼女を抱きしめた。


その夜、メイはいつになく目が冴えて、夜遅くまで俺を眠らせてくれなかった。

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