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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十一章 釣り狐編
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第三百十四話  化けの皮が剝がれるとき

「こっ、これは……。ハハッ!」


レアルは思わず片膝をついて頭を垂れた。何と視線の先には丸いテーブルがあり、そこにはアガルタ王・リノスと、その隣には皇后であるリコレットが座り、その周囲には王族のような衣装を身に着けた者たちが居並んでいる。


「そこでは話が遠い、近くに寄ってくれ」


リノスの声が響き渡る。彼は驚いたように顔を上げ、じっとテーブルに付いている者たちを凝視する。彼らは視線を外すことなく、ニヤリとした笑みを浮かべながら、ゆっくりと頷いている。レアルはキョロキョロと辺りを憚るようにしていたが、やがてスッと立ち上がり、ゆっくりとテーブルの前に進み、そして再び膝をつき、リノスに向かって頭を垂れた。


「突然のことで驚きました。一体、何のおつもりですか、アガルタ王様」


レアルはゆっくりと頭を上げ、上目遣いにリノスを見た。彼はじっとレアルを見つめたまま微動だにしない。背筋をピンと伸ばし、まるで皇后のリコレットの侍従のような緊張した姿勢だ。しばらくの間、沈黙が流れる。一体、何がどうなっているのかと戸惑っていると、不意にリノスの声が響き渡った。


「何も……ないな」


慌てて顔を上げ、リノスに視線を向ける。彼もまた自分に視線を向け続けている。レアルは一瞬、リノスの言葉の意味をわかりかねたが、すぐに言葉の意図を汲み取った。彼はフッと息を吐き、意を決して口を開く。


「恐れながら申し上げます。このようなことを申し上げるのは、甚だ不躾ではございますが、我がサルファーテ国女王陛下の第四王女、サルファーテ・ルファナ様のご様子が……。私の知るルファナ様ではございません!」


一気にまくしたてて、再び顔を上げてリノスを見るが、彼は鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべている。レアルは再び頭を下げて、言葉を続ける。


「ルファナ様は、第四王女とはいえ、母君であられます女王陛下とは疎遠でございました。それが、あの、タナ王国との戦い以降、人が変わったように陛下に忠勤をあそばすようになりました。それまでは……お話にすらなられなかったお二人であられますのに……。ハッ、そう言えば先程、ルファナ様は女王陛下を手伝うと仰せになられて、ご一緒に浴室にお入りになりました。誠に恐れ入りますが、私に浴室の入室をお許しください! さもなければ、どなたか人をやり、部屋の中をお検めください! 何卒、伏して、伏してお願い申し上げます!」


レアルの話があまりに予想外のものであったためか、部屋の中には静寂が訪れている。だが、そのすぐ後にリノスの声が響き渡った。


「一つ、聞きたいことがある」


「何なりと」


「あなたの名前を伺っても?」


「は?」


レアルは一瞬、キョトンとした表情を浮かべる。だがすぐに彼は姿勢を正し、声を絞り出すようにして、その質問に答える。


「サルファーテ国女王陛下の侍従武官長を勤めます、レアル・ステイトです」


リノスはその言葉に大きく頷く。


「なるほど、レアル・ステイトさんね。アガルタ国国王、バーサーム・ダーケ・リノスです。初めまして」


「え?」


レアルの目が見開かれる。リノスはその様子に気を使うことなく、さらに言葉を続ける。


「本当に、何もない。ここまでくると清々しささえ感じるな。大抵人間というのは、多かれ少なかれ邪念を持っているものだが、お前は、そういうものを全く感じないな。今までいろいろな人間を見てきたが、初めてのことだよ」


リノスは笑みを讃えているが、その目は全く笑っておらず、その不気味さは増し続けている。


「上手く存在を消していたが、あまりにも完璧すぎたな……。だが、そんなお前にしては、初歩的なミスを犯すんだな。会ったこともない人に、アガルタ王様なんてな……レアル。いや、妖狐・へイズ。俺たちがサルファーテ女王の部屋に向かうその隙を狙って、リコを攫う……そんな作戦だったのか? このためだけに、サルファーテ国を滅ぼし、女王の側に付いてひたすら追い込み続けていたのか? やることが壮大すぎて驚くが……その行動力を他に活かせなかったのかね?」


「ア……アガルタ王様、一体何を仰います……。ヘイズなどという名前には、記憶にございません。他人の空似と世間では申します。よく似た者もおりますれば、お人違い下さいますな」


「フッ、いかにシラを切ろうとも、逃れぬ証拠はそこにある。その、左の頬に一つのホクロだ」


リノスがレアルを指さすと、彼の左の頬に薄黒いシミが浮かび上がる。


「マトカルに化けたとき、身体検査をすると見せかけて、魔力で目印を付けておいたのだ。これも上手に消していたな。だが、完璧に消すまでには至らなかったな。今、お前の顔に浮き上がったホクロが何よりの証拠だ。……もう、逃げられんぞ? 妖狐・ヘイズ!」


リノスの言葉が言い終わると同時に、突然、前触れもなく、部屋が光に包まれる。その瞬間、リコが座っていた席から、何かがはじける音が鳴り響いた。


「くっ!?」


光がおさまると、そこには驚きの声を上げているサツキの姿があった。彼女はリコのすぐ前で何かを投げきったような態勢で固まっていて、その顔は、歯を食いしばりながらゆがみ切っていた。リノスはそんな彼女には目もくれず、ホーリーソードを抜いて、目の前のレアルに対峙する。


「やめぇぇぇぇい!」


突然、リノスの隣に控えていた兵士が絶叫している。彼の視線の先を見ると、ヘイズの背後……それも、部屋の隅にオージンと思われる少女が、目をカッと見開くと同時に、口も大きく開けていた。しかもその体は徐々に赤みを増している。


「コォォォォォッ!」


「やめんかぁ!」


控えていた兵士がものすごい速さで少女に突撃していく。見る間に彼は、まるでウエスタンラリア―トをするかのように組み付き、オージンを引き倒した。その瞬間、兵士の姿が変わる。そこにいたのは、何とサンディーユだった。


「南無!」


ドン! という音と共に、そこから白い煙が立ち上る。同時に、目の前のヘイズの姿が消えた。


「ふんっ!」


リノスは体の体勢を全く変えず、剣だけを振るう。


「くっ……」


何かに弾かれるようにして、男の姿が現れた。彼は飛び跳ねるようにして後退し、蹲っているサツキと背中合わせになった。それが合図であるかのように、リコが素早く彼らから距離を取る。よく見ると、男の顔は、妖狐・ヘイズのそれに変わっていた。彼は右肩を押さえ、その手からは血がしたたり落ちていた。


「ヘイズ、覚悟!」


リコの前に控えていた兵士が、ヘイズに向けて手をかざしている。よく見るとその兵士も徐々に姿を変えつつあり、やがてすぐに玉ノ井の姿に変わる。その瞬間、彼女の両手から無数の糸が飛び出し、みるみるうちに二人の体に巻き付いた。


「ガアッ!」


突然、玉ノ井が叫び声を上げて片膝をつく。気が付くと、ヘイズとサツキはリコの側に移動しており、しかも、ヘイズはその腕で、リコの首を背後から締め上げていた。


「二度も同じ手が通用するとは思わないことだ! サツキ!」


「ハイ!」


ヘイズの言葉にサツキが彼にピタリと寄り添う。そして、それと同時に、彼らの体が光り出す。


女神リコレットはもらった!」


その言葉と共に、光はさらに輝きを増していき、やがて眼を開けているのも困難なほどのまぶしさを放った。


「……どういうことだ!?」


光が収まる。何とそこには、先程と同じ態勢のまま立ち尽くす三人の姿があった。ヘイズは目を見開いて驚いている。


「すみません、遅くなりまして」


声のする方に目を向けると、そこには、はあはあと息を切らせ、肩で息をするソレイユの姿があった。そして、その傍らには、神龍様の姿があった。


「おーう、言っておった通り、そやつの体の自由を奪っておいたのらー」


ヘイズの表情に変化はない。神龍様の力で体は動かないはずなのにもかかわらず、なぜ、そんなに余裕を持っていられるのだ? まだ何か策があるのか? そんなことを思いながらゆっくりリノスは三人に近づいていく。そのとき、彼の耳に、奇妙な音が聞こえてきた。


ミシ……ミシ……ギギギギギ……ギギギギギギギギギーーーーーーー。


見ると、ヘイズの右手の薬指に嵌められた指輪が青白く光っている。そして、そこに何かが吸い寄せられるように、白い煙のようなものが渦を巻いていた。


「ぬあぁぁっ!」


何かを振り払うかのように、ヘイズの右腕が振るわれる。そしてその手に持った杖が再び光を発する。だが、その光は途中でしぼむようにして消え失せる。ヘイズの顔色が変わる。


「何だ! 何が起こったんだ! どうして転移しない! 何故だ! 何故だ!」


「オクタ様!」


ヘイズとサツキの絶叫にも似た声が響き渡る。


「ふぅぅぅぅ~~~~」


まるで二人の狼狽ぶりには一切、関心がないとばかりに、リコが大きなため息をついていた。あまりの予想外の行動に、ヘイズとサツキは、思わずリコに視線を向けた……。

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