第三十一話 小旅行
「よーし!朝飯できたぞー」
まだ寝ぼけ眼のゴンとラースを起こす。イリモは早くに起きてきたので、早めに水と人参を食べさせる。持っていくと、顔を俺にすりつけてきた。何ともかわいい馬である。
朝は卵焼きと野菜、そして焼いたパン、時間があったので、ジャガイモをスライスして油揚げにしたフライドポテト、デザートには、これも合間を見て作った大学芋を提供した。何だか美しい朝日を見ると妙にヤル気がわいてしまったので、フライドポテトと大学芋は大量に作り、ぜんざいと共に無限収納に収納しておいた。
さて、そろそろ出発だ。気配探知にもマップにも人影は映っていないので、ラースは外に出していても大丈夫だろう。そして俺は、マップを使い、ラースの一族と思われる、「クルルカン」を探す。注意深く見ていくと・・・いた。ジュカ山脈の中腹に数十頭の群れがいるようだ。
ここから森を抜け、ジュカ山脈まで至るのに約5日。そこから登山で1日の行程のようである。イリモの翼を使えば1日で行けるのだが、あいにくとイリモの飛行時間は2時間が限界であり、それでなくとも前日、バカどもを載せて俺の下に来たときは6時間も飛行させられたのだという。
本来ならとっくに気を失って不時着しているのだが、そこは妖狐が無理やり飛ばせたらしい。無理に無理を重ねているので、ここでさらに無理をさせる訳にはいかない。回復するまで待つかどうかを聞いてみたが、イリモはラースを送り届けるべきだと即答した。歩いていく分には全く問題ないという。そのお言葉に甘えはするが、イリモのことも考えて今回は、かなりゆっくり目の行程を組んでいる。
森の中は、順調に進むことが出来た。嬉しいことに、森の魔物が襲ってきてくれる。俺のスキルは、カンストしているものやLVの高いものは隠しているし、HPもMPも100と表示させている。まあ、見る人が見たら、何じゃコイツ?と訝しがられるだろうが、そこは魔物、割かし強いCランクからBランクの魔物が襲ってきてくれた。
当然、ほとんどは俺が瞬殺したが、たまにEランクの大ネズミなどが出ると、ラースがパタパタと飛んで行って狩ってくる。それを美味そうに食べながら自分のおやつにしていた。
ラースは、普段はパタパタと飛んで俺たちについて来ているが、何かの拍子にスッといなくなるので、最初はかなり驚いた。まあ、マップがあれば問題なく居場所は把握できるが、獲物を追いかけてかなり遠くに行ってしまい、気が付いたら誰もいませんでした状態になってしまい、オロオロするラースを救出したりした。
そんな気まぐれなヤツであるが、疲れると俺の下にパタパタと寄って来て「抱っこ」をせがみ、抱っこをした俺の腕の中でスヤスヤと昼寝をする。そんなちょっと微笑ましい一面も見ることが出来た。
幸いだったのは、森に入って二日目の朝に、久々にカースシャロレーが複数現れたことだ。朝飯を食おうとしていた時に、森の中50メートル先にそいつらはいた。俺が捕らえようと思っていたのだが、突然イリモがカースシャロレーに向かって突進していく。巨牛の方もイリモに向かって突進する。まさしく、ユニコーンペガサスとカースシャロレー、馬対牛の一騎打ちが見られることになった。結果はイリモの圧勝で、彼女の角に眉間を貫かれた巨牛は、あえなくその命を散らせた。残りは3頭いたのだが、そのうちの2頭はイリモの角の餌食となった。そして残りの一頭はその光景を見て、脱兎のごとく逃げ出したのだ。
あとでゴンに聞くと、あのイリモが倒したカースシャロレーは全員雄であり、逃がしたのはメス牛だったらしい。どうやら雄3匹がメスを取り合いしていたようで、しかもその雌は既にお腹に子供を宿していたらしい。牛の世界にもバカはいるもので、要は牛の恋路を邪魔した牛が、馬に貫かれて死んだということである。
「惜しかったでありますなー。カースシャロレーは雌が美味でありますのにー」
ゴン一人だけが悔しがっていた。
巨牛はなんと、ゴンが見事に解体してくれた。人化し、俺から借りた鉄の剣を器用に使って見事にバラバラにしてしまった。何でも狐時代、肉屋の軒下で暮らしていたことがあり、肉を解体し、さばいていく場面を毎日見ていたそうである。ちなみに食い気のあるゴンは、肉屋だけでなく魚屋にも居候していたことがあり、肉も魚もおろせる腕を持っているらしい。今度はオークの肉を捌いてもらおう!意外なところで頼もしいヤツである。
ただ、狐の顔をした人間が全裸で淡々と牛を解体する場面は、かなり不気味である。夜中に見るとまず、トラウマになること間違いなしなので、ゴンの肉の解体は日中のみというルールができた。
二日目の昼以降は、肉料理が増えた。雄とはいえ、カースシャロレーである。美味しさは半端じゃなかった。昼がバーベキュー、夜が焼き肉という生活が三日も続くことになる。さすがに肉はもう、しばらくはいいだろう。
夜は俺の結界内で就寝である。気温も湿度もちょうどいい感じに設定していたので、全員熟睡であった。やはり、ラースは腕枕がお気に入りのようで、毎晩それを求めてきた。一度断ったが、泣いて怒っていた。しかたなく腕枕をして寝たが、本当に泣き虫なドラゴンである。今後が大丈夫だろうか。
そして森に入ってちょうど5日目、少し日が傾きかけた頃、ようやく俺たちは森を抜けた。いよいよ、ドラゴンの領域に入る。