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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第一章 ジュカ王国編
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第三十話   これからと深秋の夢

「うーん、このドラゴン一人で群れに帰るのは、無理でありますなー」


「そうだよな。まず、森を越えられないな。特に夜に森に入るのは、自殺行為だ」


俺とゴンの意見は一致していた。気持ちはわからんでもないが、今の彼のスキルと状況を考えると、無策で森を越えるのは不可能に近い。


子ドラゴンはグルルルルーと呻いている。何となく、自分でもわかっているのだろう。


「もう日も暮れた。これからのことは明日、考えよう。夕食にしよう。俺はリノス。結界師だ。よかったら君も来るかい?」


「グガガガ・・・ギャース」


「匿ってもらって申し訳ない。名前はラースだ、と言っているでありますー」


ラースを抱っこし、ゴンを背中に乗せて王国軍本部を後にする。そしてそのまま、バーサーム家に俺は向かう。


バーサーム家にかけた結界を解除し、ゴンとラースを中に入れる。イリモは遠慮して入ってこない。仕方がないので、土魔法で芝生の庭の上に簡単な馬小屋を作る。夕食の人参と水を出して与えると嬉しそうに嘶いた。とっても居心地がよさそうで安心する。


部屋に戻り、俺は厨房に向かう。ゴンとラースは何やら二人で話をしているようだ。


さて、何を作ろう?無限収納の中にはジャガイモが大量にある。今日は一つこいつを使って、コロッケを作ってみよう。


鍋にお湯を沸かして、ジャガイモを入れて、塩を一つまみ入れる。保存用にもほしいのでちょっと多めに作る。ジャガイモを湯がいている間に、玉ねぎをみじん切りにする。そして、フライパンで色が透き通るまで炒めていく。水分を飛ばしながら塩と胡椒で味付けして、中身の具はこれで完成。


ちょうどジャガイモがいい感じにゆであがってくる。火魔法で手の温度を上げる。こうすると火傷をせずにサクサクと皮がむける。そして大きなフォークで潰していき胡椒と塩を加えて混ぜ合わせる。


水魔法と風魔法を応用して、冷風を作ってさます。その間に油を火にかけて用意し、卵を割ってとき、タネを楕円形に作る。作る。作る。そして小麦をまぶしていき、パンでパン粉を作りながら、卵にタネを通して、パン粉を付ける。


そして油に通す。とても香ばしい匂いだ。コロッケを揚げながら、俺は野菜を出してサラダを作る。


しばらくすると大量のコロッケが出来上がった。そしてサラダとパンを用意して、夕食が出来上がった。


ゴンもラースもどんどん食べている。ラースはさすがに先ほどある程度は食べているのだが、ガンガン食べている。二人ともおいしそうだ。俺も食べてみたが、やはりおいしいコロッケだ。パンに挟んで食べると、さらにおいしさが倍増であった。


食後のデザートはぜんざいだ。これで作った分は全てなくなった。また作らなければならない。


さて、今後のことであるが、ラースはどうしても群れに帰るという。俺もゴンも賛成である。特に俺たちは行くところがなく、また、この無人の王都にいてもある意味どうしようもない、というのが現状である。森で狩りをしつつ、ラースを群れに送り届ける。ダメならダメでその時考えよう、王都は壊滅したが、ジュカ王国にはいくつかの都市がある。そこに行ってもいいだろう。場合によっては、山を越えてヒーデータ帝国に抜けてもいいだろう。それはジュカ山についてから考えよう。


俺は、この考えをゴンに話した。


「そうですなー。吾輩もそのお話に賛成でありますー。早速ラースに伝えるでありますー」


グググググ、キュィキュイとゴンがラースに伝える。こんな鳴き声で通じてるんだろうかと不思議に思うが、通じているのだ、これが。ラースがコクコクと頷いている。そしてラースはグググェ~と泣き出し、パタパタと俺の胸に飛んできた。泣き虫な奴だなぁ。


「グッグゥ~グルアァ」


「また、甘いの作って、って言ってるでありますー」


ハイハイ。サツマイモもたくさんあるので、今度は大学芋を作ってみよう。あれ、俺はいつからこいつらの料理人になったんだ?


気が付くとラースが寝息を立てて寝ていた。こうして寝顔を見るとなかなかかわいいものである。確かに、これまでかなり過酷な状況に耐えてきたので、ゆっくりと寝られるのは、久しぶりのことなのかもしれない。


「ググァ~ググァ~」


・・・寝言言ってやがる。ゴンに聞くと


「・・・ママ、ママ、って言ってるでありますー」


俺はしばらくラースを抱きしめていた。前世の母親はどうしているだろうか。いいなお前は、ママがいて。俺はこの子ドラゴンを必ず里に返してやろうと決めた。


ベッドのある部屋が全てなくなっているので、寝床はダイニングの床だ。床にテーブルクロスを敷き、毛布の代わりにテーブルクロスを重ね、それをかぶって寝る。ゴンはソファーのクッションの上に丸まって眠ることになった。結構いいやつで高いんだぞそれ?何とも贅沢な奴である。


俺はラースに腕枕をして眠りについた。龍の鱗で怪我をするといけないので、俺は自分の体に結界を張り、そのまま深い眠りに落ちた。


・・・その夜、夢を見た。


いつものバーサーム家。いつもの俺のベッド。ああ、ちょっと寝過ごしたか。俺は慌てていつもの執事服に着替える。


一旦下に降りて顔を洗って、ご主人様にご挨拶をしないと。


部屋を出ると、階段の下からメイドの一人が「リノス早くっ!」と声がする。ああ、わかりました、すみません。と階下に降りる。


玄関ホールに出ると、エルザ様とエリルが並んで立っていた。ああ、ご主人様、お嬢様、おはようございます。お嬢様、今日は随分早起きですね?どうされました?


すると、玄関の扉が開き、ファルコ師匠が姿を見せた。朝はいつもご機嫌が悪い師匠がとても楽しそうだ。なんて珍しい。驚いたことに、その後ろからバーサーム侯爵と摂政殿下も姿を見せる。あれ?今日は何かパーティでもありましたか?


「リノス」


不意にエルザ様の声がする。


「ハイ、ご主人様」


「ご苦労様でした。一言お礼を言いたいと思ったのよ。本当によくやってくれました」


そんな、なんと勿体ない。そんなことを言われるようなことをしておりませんよ、と思いつつも俺は首を垂れる。


「儂は、お前があんなに強くなっているとは思わなかったぞ。ハハハさすが我が弟子だ」


「彼なら大丈夫でしょう。もう十分やってくれました。本当に感謝します、リノス殿」


「バーサーム家の当主として、心から礼を言います。本当に、ありがとう」


みなさんどうしたんですか?確かに俺は・・・?カルギを、王国軍を、首長龍を・・・?あれ?


「リノス、貴方はもう、自由に生きてちょうだいね」


そんな、ご主人様。


「リノス」


エリルの声がする。


「ハネっ返りの私と一緒にいてくれてありがとうね。本当に、貴方に出会えてよかったわ」


見たこともない、満面の笑みを湛えるエリル。おい、エリル、そんな顔をしないでくれ。いつものように眉をひそめながら話しかけて来いよ!


「ああ、もう時間ね。そろそろ行かないと」


皆がぞろぞろ外に出ていく。メイドたちも一緒に出ていく。俺も一緒に行かないと。


不意にエリルが振り返る。そして、


「私のこと、忘れないでね。私はあなたのこと忘れないから」


光の中に、エリルは消えていった。外に出てみると、そこには誰もいない。みんなどこに行ったんだ?ご主人様!侯爵様!師匠!殿下!お嬢様!・・・エリル!!


ふっと目が覚めた。まだ夜明け前のようだ。


俺はフラフラと立ち上がり、厨房へ向かった。そして、大きな寸胴鍋を用意して、ぜんざいを作り始めた。心を込めて。


ほどなくして、ぜんざいは出来上がった。美味い。本当に美味い。最高傑作だ。


俺はその鍋を丸ごと、抱えるようにして厨房から外に出た。イリモもまだ眠っているようだ。


立ち上る湯気、俺は空に向かい、手を合わせた。


「お嬢様、貴女に食べさせたかったぜんざいです。沢山お召し上がり下さい。ご主人様、候爵様、師匠、殿下もよかったらお召し上がり下さい。皆さんのことは、決して忘れません。これまでありがとうございました。そしてエリルお嬢様、貴女のことも、絶対に忘れませんからね」


驚くほど美しい朝日が、きれいに俺を彩った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「ラースはさすがに先ほどある程度は食べているのだが、ガンガン食べている。」 この文章に「さすがに」はいらないのでは?
[一言] 全く綺麗に纏まっていないですね。 だから罪のない人間殺した事はどう思っているんだよ。
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