第二十九話 栴檀は双葉より芳し
「グア・・・グアアア」
弱々しい声で鳴いている子ドラゴン。よく見ると体中傷だらけで、血が出ている個所もある。状態はかなりひどい。放っておけば、そのまま死んでしまいそうだ。
「「ククルカン」でありますかー。これは珍しいでありますー。風魔法を操り、天候を操ると言われる種族でありますなー。羽は羽毛のように柔らかく、温かく、肉は非常に美味でありますため、幻の食材として伝説になっているドラゴンでありますなー」
ドラゴンの肉は美味であるというのはこの世界の常識だが、ククルカンの肉はその中でも特に美味であると言われており、食べると万病に効くとも言われているらしい。
体表は緑の鱗で覆われているが、数年すると脱皮する。脱皮すると体表は赤く変わり、羽毛のような羽が生えるのだという。数あるドラゴンの中でも最も知能が高く、成龍は最強クラスになるのだという。なるほど、そんな貴重なドラゴンを育てて自分の戦力にしようとしていたのか。さすがはカルギ将軍、恐ろしいことを考えたものである。ジュカ山脈からドラゴンの卵を取ってきたのだろうが、それにしても無茶をしたものである。いったい何人の兵士がドラゴンの餌になったのやら・・・。
「このドラゴン、どうするでありますかー。まだ幼生体ではありますが、肉はかなり美味だと言われているでありますから、このままドラゴン肉として食すのもよいでありますー」
さすがに子ドラゴンを殺して食べようとは思わない。この子ドラゴンに邪気は感じない。一度、ステータスを鑑定してみる
ラース(クルルカン・6歳) LV8 大怪我
HP:3/112
MP:5/81
風魔法 LV1
肉体強化 LV1
飛翔 LV1
きちんと名前がついている。さすがに幼生体らしく、スキル的には大したことはない。しかしさすがはドラゴン、そこいらの人間では捕まえることすら難しい。それにしても、HPもMPもギリギリだ。どうやったらこんなことになるのか。・・・っと思っていたらHPが2に下がった。「大怪我」とあるので、治癒しないと一定時間が経つとHPが減っていくのだろう。
邪竜には見えないので、一度回復させてみることにする。一応俺とゴンには結界を張っておく。このステータスならば、抵抗しても瞬殺できるだろう。倒れている子ドラゴンに、エクストラヒールをかける。白い光に包まれること暫し、子ドラゴンの傷は回復した。
「ガ・・・ガガ・・・」
「水が欲しいと言っているでありますなー。あと、かなりの飢餓状態でありますー」
早速水を出してやる。無限収納から出した、ちょっと大きめの桶のようなものに水を入れてやるが、首を突っ込んで必死に飲んでいる。続いて食料だ。基本的にドラゴンはなんでも食べるらしいので、とりあえずパンや果物、余っているぜんざいなどを出してやる。それらを片っ端から平らげていく子ドラゴン。よく食う。
「ガッ、ガァァァアー。ガッ、グルアァァァ」
「助かった、死ぬかと思った、と言っているでありますー」
ふう、と一息ついた子ドラゴンは、俺たちに気づくとパタパタと背中の羽を動かして空中に浮かんだ。
「ガゥー、グルァァァァァー」
「誰だお前たち、僕は絶対にお前たちの言うことは聞かないぞ、と言っているでありますー」
「いや、俺たちは君の敵の敵だ。敵を倒したら君を見つけた。ひどい怪我を負っていたから、回復魔法で治したんだ。君と敵対する気はない。ただ、俺たちや関係のない人間に危害を加えるのであれば、全力で倒しにかかるけどね」
ゴンの通訳を聞いて、キョトンとなる子ドラゴン。ふわふわと飛んでいた状態から、地面に降りてきた。よく見るとまだまだ小さい。赤ちゃんサイズだ。
聞けば、ジュカ山脈でたまたまそこで訓練中の王国軍が、この子ドラゴンの一族のテリトリーに入ってしまったらしい。直ぐにテリトリーを出れば特に手出しをしないのだが、どんどん奥まで進軍してきたのだという。そこで、斥候と威嚇を行うことになり、一つの社会勉強のつもりでこの子ドラゴンも同行したらしい。しかし、侵入した部隊は意外に強く、また、死に物狂いで抵抗したため、一旦応援を呼ぶことにしたのだという。そのスキを突かれ、一番弱かったこの子ドラゴンが集中攻撃され、撃墜されてしまった。そしてその身柄を拘束されて、この王国軍本部に護送されたのだという。斥候と威嚇とはいえ、ドラゴンに遭遇してそれと対等に渡り合い、あまつさえ子ドラゴンを捕獲して逃げおおせたのだ。カルギの兵の強さはハンパではない。
幼生体とはいえ、誇り高きドラゴンの一族である。この子ドラゴンは必死で抵抗したらしい。水も、食料も与えられず、飢餓状態に置かれながら、看守の命令を拒み続けた。ちなみに、与えられた命令は、腹を見せて「伏せ」のポーズをすること。毎日、若いワイバーンを連れてきて、そのポーズをさせる。ワイバーンは水と食料を与えられる。そんな光景をほぼ1週間見せられたのだという。
ここ2日は看守も来ず、いよいよ飢餓状態が極限に達し、命の危険を察知した子ドラゴンは、玉砕覚悟で檻をぶち破ろうと突撃を繰り返したらしい。しかし結界に阻まれて力尽き、絶望に打ちひしがれているときに俺が来た、というわけだ。
「お前さんはすごいな。エライ。さすがドラゴンの一族だ」
心から褒めてやる。すると子ドラゴンは、堰を切ったように泣き始めた。
子ドラゴンを抱いて外に出ると、辺りはもう真っ暗になっていた。イリモも無事だ。子ドラゴンを見ると一瞬目をギョッとしていたが、次の瞬間、平静を取り戻していた。頭がいい馬なのだろう。
子ドラゴンを抱っこしながら、これからのことを聞いてみる。彼は言った。
これから、ジュカ山にいる一族のところに一人で帰る、と。




