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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十章 ミーダイ国編
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第二百八十四話 それを言わんかい

「え? ごめんなさい、もう一回お願いします」


シディーが目を丸くして驚いている。さすがの彼女も、理解できなかったようだ。ゼザはふぅと息を吐き、やれやれと言った表情を浮かべたかと思うと、今度は噛んで含めるように、身振り手振りを交えながら、ゆっくりと口を開いた。


「だから、昨夜、昨夜です。私が、パチッときまして、うわっとなったのです。それで、パッとして、サッと行って、ストンとして、その後で、トントントンと来て、キュッで、また、トントントンで来たのです。そのとき、カリカリ、グルーンで、サツキ様がサッで、それからパッパッパで、ずあーんで、ふぁさ、だったのです。オージン様もです!」


もうわかっただろうという表情を浮かべながらゼザはゆっくりと頷く。いや、余計に分からん。俺はゆっくりとシディーに視線を向ける。シディーは人差し指を顎の下に当て、腕組みをしながら宙に視線を漂わせている。これは彼女が謎解きをしている時のスタイルだ。その姿を見ながら視線を移していくと、帝様が心配そうな顔をしながら俺たちを見つめている。そしてその後ろに控えるキュアライトは、やれやれといった表情でゼザを睨んでいる。


「要は、昨日の夜、あなたが目覚めてお手洗い……ですか? その帰りに、サツキ……さんですか? オージンさんも一緒に消えた場面を見たということですよね?」


「そうだ」


シディーの推理にゼザがコクコクと頷いている。すげえな、あんな擬音だらけの説明でよくわかったな。相変わらずものすごい洞察力だ。


実は、シディーの鋭い感性は失われてはいない。ピアトリスがまだお腹にいる頃、鹿神様からは安定期に入るとチート能力は消えると言われていたのだが、シディーの場合はそれが消えることはなかった。もっとも、本人に言わせると、全盛期に比べればかなり落ちているそうなのだが、それでも、その洞察力と直観力はズバ抜けたままだ。


「ただ、サツキさんとオージンさんがどのように消えたのかが、ちょっとわからないですね」


シディーの言葉に、ゼザは立ち上がって右手をシャカシャカと振って口を開く。


「こう……わらわらわらわらわら、ふぁーん、ざっ、ふぁさっと消えたのだ。そこに行ってみたが、何も起こらなかった。消えたのだ。消えてしまったのだ」


「なるほど、とにかく二人がゼザさんの前で消えたということですよね?」


「……クズノイッハ」


小さな声で呟いたのは、ゼザの隣に座っていたシロンだった。


「え? 何ですか?」


シディーの問いかけに、シロンはおずおずと口を開く。


「えっと……その……地面に……魔法を書いて……でも……」


「でも、何ですか?」


「もう、使える……人……いない」


「うーん」


シディーは再び人差し指を顎の下に当てて考えている。そのとき、帝様が静かに口を開いた。


「クズノイッハ……貴殿たちの国では、魔法陣と言うのかの? その能力は、わが国でも既に500年ほど前に滅びた力じゃ。複雑な文様を刻む手間がかかる上に、地面に魔力を通さねばならん。それには緻密に魔力を操るスキルが必要じゃ。それ故に滅びた術なのじゃが……。その力が復活したというのかの? ……俄かには信じられぬことじゃが、もしそうであれば、屋敷を見張っていた者たちに見つからずに逃げることは可能じゃの」


シディーを始め、全員の表情が強張っている。


「シディー、その魔法陣っていうのは、どんな能力なんだ?」


「私も詳しいことは分かりませんが、地面に魔力で呪文を書くと、転移出来たり、魔物が召喚出来たりするものです。私も聞いた話では、太古の昔に廃れてしまった能力だったはずで、今はそれを使える人間はいないはずです」


その話を聞いた帝様は再びゼザと向かい合い、優しい口調で問いかけた。


「重ねて問う。そなたは、オージンとサツキが消えるところを見たのじゃな? ……左様か。では、どうやって消えた? その様子を聞かしゃ」


「ハッ、先ほども申しましたように、私が庭を見ましたら、カリカリ、グルーンでして、そこからスワッとパッとパッパッパ……」


「もうよい。それは、クズノイッハであったか?」


「わかりかねます」


「……ご苦労であった」


帝様は微笑みを湛えているが、その表情には明らかに疲れの色が見える。確かに、このゼザの半端ないコミュ力のなさにまともに対応していては、疲れてしまうだろう。それにしても、このゼザに誰か、会話というものを教えてやらなかったのだろうか。本当に、よくこれでここまで生きてこられたな。


「リノス殿」


帝様が落ち着いた声で俺に話しかけてくる。


「クズノイッハ……魔法陣が復活したかどうかはさておき、魔吸石が4つ、さらにはプリルの石までも持ち去られたとあっては、由々しき事態じゃ。もしこれがクリミアーナの手に渡っていたならば、そこもとの国も厄介なことになろう。気を付けてくれめせ。そして……迷惑をかけることになろう……申し訳ない」


帝様は深々と俺の前で頭を下げた。その様子にゼザたちは固まっている。


「お手をお上げください。なってしまったことは仕方のないことです。皆で知恵を出し合いながら対策を考えましょう。幸い、ここにいる妻のコンシディーはドワーフ王の娘です。また、メイリアスも技術的な知識も豊富です。皆で考えましょう」


「すまぬ……。世界を脅威にさらしてしもうた。マロの力不足じゃ。サツキの心底を見抜けなんだ」


「帝様……」


「恐れ入りますが、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」


突然シディーが帝様に口を開く。彼はゆっくりと頷いた。


「単刀直入に伺いますが、帝様は何らかのスキルをお持ちではないですか? 差支えがなければ、どのようなスキルなのか、お教え願えませんか?」


「何と不敬な! 王妃だからと言って聞いていいことかどうかの分別もつかぬのか、この大バカ者! たとえ……ぐはっ!」


ハーギがいきなりシディーに向かってまくし立てたが、ほどなくして蹲ってしまった。ふと見ると、キュアライトが先ほどと同じく、掌をハーギに向けている。あれは何か、掌底波か何かが出ているんだろうか?


「不埒者……」


キュアライトは微動だにせず、一切の感情のない声で呟いている。その様子を帝様は諭すようにして、ゆっくりと頷き、そして俺たちに視線を戻した。


「……そうじゃな。マロの能力の話はしておらなんだ。よかろう。リノス殿とコンシディー殿にはお話ししようかの」


帝様はスッと視線をキュアライトに向けた。彼女は心得たとばかりに一礼をして、手刀を斜めに切った。その瞬間、ハーギたち三人の姿が消えた。


「……あの者たちを信じていないわけではない。だが、あまり公になるのも……の」


帝様は遠い目をしながら呟く。そして、フッと息を吐いて再び口を開いた。


「マロには、鬼眼きがんが備わっておる」


「きがん?」


「このミーダイ国の王族は、元はオーガの一族なのじゃ」


「オーガ……」


「ネファシという種族で、眼に特殊な能力を持つ。マロは人の心の真偽がわかるのじゃ」


「人の心が読めるということでしょうか?」


「いや、人の心まではわからぬ。ただ、人の話が真なるものか、邪なるものかを見分けることができる。その上で邪な心のある者は、マロがその眼を見ながら念じれば、本心を話させることができるのじゃ」


「なるほど、それで、サツキさんたちは洗いざらい喋らされたのですね?」


「したが、プリルの石のことまでは喋っておらなんだ。あの時はまだ、石をどうにかしようとは考えておらなんだのかもしれぬの」


……まさか、ウソ発見器が内蔵されている眼を持っていたとは、予想もしていなかった。しかも、嘘が付けないようになるとは……。シディーはいい質問をしてくれた。それを知らないでいると、これから先、どんなヘタを打つことになるか、わかったものではない。そういう意味では、この帝様はある意味では恐ろしいお方だ。できれば、そんな物騒なスキルを持っていたことは、早く言ってほしかった……。


そして、帝様はさらに自分のスキルを詳しく説明してくれた。相手に真実を喋らそうとすると、かなりの魔力を消耗すること。それゆえに、通常は言葉の真偽のみを確認し、自分の心に嘘をついている者については、その点を追及して、なるべく本人に喋らそうとしているのだそうだ。


俺に初めて会った時、俺は自分のことを、商売をしている者と偽った。しかし、心に邪な思いを持っていないことが分かったために、敢えて追及をしなかったのだという。直感的に、この男は何か自分の力になってくれそうだと感じたのだそうだ。


「なるほど……しかし、帝様。先ほどゼザが訳の分からない言葉でしゃべっていましたが、そのお力で本心を語らせることは出来なかったのですか?」


シディーが鋭い質問をぶつける。帝様は、ちょっと残念そうな表情を浮かべながら、口を開く。


「いや、あれがゼザの本心なのじゃろう。あの者は幼い頃から知っておるが、どちらかと言うと、感覚と直感で生きている者じゃからな。……キュアライト、ゼザたちを出してやってたもれ」


キュアライトはスッと一礼をして、再び宙に向けて手刀を切った。その直後、三人の女たちの姿が現れた。帝様は優しい口調で彼女たちに口を開く。


「そなたたち、大儀であった。下がってよい」


ゼザたちはゆっくりと頭を伏せる。


「まずは、魔法陣が復活したのかどうかを調べる必要がありますね。俺の方でも心当りをあたってみます。土の上に紋様を描くのでしたっけ? ……とすると、杖か何かを使うってことですよね?」


「いい加減にせよ!」


突然、部屋の中に大声が響き渡る。驚いて見てみると、そこには片膝を立て、今にも俺に挑みかかろうとするかのような姿勢で睨みつけているゼザの姿があった。彼女は俺に視線を向けたまま、いつものように早口でまくし立ててきた。


「いったい何度同じ話を聞けば理解するのじゃ! 何度も言っておろうが! 黒い棒で地面に紋章を書いて、それをグルッと囲んでいたと! その上にサツキ様が載ったらば、スッ、パッパッパと消えたのだ! オージン様も同じだ! 人の話をよく聞くのじゃ!」


……それを早く言わんかい。

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