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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十章 ミーダイ国編
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第二百八十三話 ぎおん

新年あけましておめでとうございます。昨年中はお世話になりました。今年も何卒、結界師への転生をよろしくお願い申し上げます!

「……わかった」


俺はそう言って、読んでいた手紙を丁寧に元の状態に戻していく。目の前には、先日帝の護衛としてやって来たキュアライトと、女性のポーセハイが控えている。


俺が執務室で仕事をしている最中に、いきなりミーダイ国から使者が来たとの報告があった。何でも緊急を要する事柄だと言うので、俺は取るもの物も取りあえず、使者を謁見の間に通した。そして、そこで待っていたのはキュアライトとポーセハイのターマだった。


ターマはつい先日、ミーダイ国に赴任したばかりの、まだ若いポーセハイだ。皇后さまの懐妊がわかり、誰か彼女の世話をする者が必要になった。ミーダイ国に薬師と呼ばれる医者は2人いるのだが、そのうちの一人を皇后さまの専属にしては、間違いなくミーダイ国の医療がえらいことになる。しかも、二人ともに男性で、普段であれば問題ないのだが、今の皇后さまの体を診るのには少々抵抗があった。そこで、帝様からメイに相談があり、そこから、彼女がアガルタの医療研究所で助手を務めているターマに白羽の矢が立ったというわけだ。


彼女を主治医にするという帝様の考えは、御所内や貴族たちから反発があったようだが、ポーセハイは転移術を持っており、いざという時に皇后さまを守ることが出来るという帝様の鶴の一声で、すんなりと決定したのだった。


ちなみに、ドーキの店に居候のような状態になっていた、ゼンハイとフィットも、ミーダイ国で医療活動をすることになった。2名の薬師が過労のため倒れる寸前であったため、彼らに代わって、ポーセハイの二人が医療を担当することになったのだ。薬師たちは貴族たち、ポーセハイは国民と切り分けて医療活動を行うらしい。まあ、いざこざが起こらないように俺としても注意深く見ていこうと思う。


そんなことを考えていると、キュアライトと目が合った。彼女は俺を見つめたまま、微動だにしない。


「どうした? 俺の顔に何かついているのかな?」


「お助けを」


ゆっくり彼女は頭を下げる。俺はその言葉の意味がよく分からず、どういうことかと聞き直す。


「国を救い給え」


「え? そんなにヤバイ状況なのか?」


キュアライトはコクリと頷く。


「え……待て。書状には、オージンとサツキの二人の姿がいなくなった……。で、魔吸石とプリルの石が無くなっていたとあったが……」


「ミーダイ国のほか、世界の危機。何卒……」


「いや、ちょっと待ってくれ。何卒と言われて頭を下げられてもだな……。どうすればいいんだ?」


「帝様のお命、危うし。何卒……」


「つかぬことを聞くが、帝様は俺に助けを求めろと言って君を派遣したのか?」


キュアライトは残念そうな顔をしながら首を振る。俺は唖然としながら、思わずターマを見る。彼女はスッと頭を下げ、そして落ち着いた声で口を開いた。


「私も昨日初めて知ったことで、お話に間違いがあるかもしれませんが、ご容赦ください。サツキさんが閉門の時に使われた魔吸石は、拳大程の大きさの物だったそうです。直接触ろうものならば、たちどころに魔力を吸いつくされ、人間であればすぐに気絶してしまうそうなのです。それが4つ共に無くなっていて、さらには、クワンパック家秘蔵のプリルの石も無くなっていたそうです」


「と、いうことは、石を盗んだ犯人は、魔力を吸い取られない何らかの工夫をしてその石を盗み出したということか? いや待て、魔吸石とプリルの石が悪用されれば、魔法使いの攻撃は効かなくなるばかりか、魔法使いそのものが無力化されてしまう」


「その通りです。魔力は人間であれば誰しもが持っているもの。やり方によっては、強力な武器となります」


「なるほど。しかし、なぜその管理をきちんとしなかったのだ? というより、その石をどうやって運び込んだ?」


「魔吸石は、大きな台座に乗せて、人の体に触れぬようにしていたのだそうです。部屋の外は厳重に見張られており、プリルの石も、屋敷の者が常に警護していたそうなのですが……」


「なるほど。そう考えると、何かちょっとイヤな予感がするな……。よし、すぐに妻のコンシディーを伴って、ミーダイ国に向かおう」


「コンシディー……様?」


「ああ、見た目は子供、頭脳は大人……というより、抜群の洞察力と直観力がある。その彼女に、一度現場を見てもらおう。そして、帝様と話をしてみよう」


「多謝……」


キュアライトは片膝をついて、深々と頭を下げた。俺は大慌てでその必要はないと言って彼女を立たせた。



数時間後、俺はシディーを伴って帝様の居る御所に来ていた。玄関先で出迎えた女官に案内を頼むと、俺の顔を知っていたようで、すぐに帝の御座所に案内してくれた。そして、そこには見覚えのある女三人が、帝様とキュアライトの前で畏まっていた。それは俺を襲ったハーギとゼザ、そしてシロンだった。帝様は俺の顔を見ると、いつもの柔和な笑みを浮かべた。


「おお、わざわざお越しくだされたか……。痛み入るの」


「あっ! 貴様は! 帝様! お危のう……ぐあっ!」


俺に襲いかかろうとしたハーギが悶絶している。よく見ると、キュアライトがハーギに向けて手をかざしている。どうやら何かの術を使ったようだ。


「慮外者……」


小さな、呟くような声だが、彼女の言葉には、帝の前で無礼を働くものは何人たりと許さないという覚悟を感じる。俺はその雰囲気にちょっと圧倒されてしまった。ハーギの隣に控えていたゼザもシロンも、あまりの光景に絶句してしまっている。ゼザにいたっては、眼を見開き、口をぽかんと開けて、かなりだらしのない表情になってしまっている。


「帝様……何やら大変なことになっているみたいですね」


「すまぬな……。また、ハーギが無礼を働いたの。この者にはあとで言うて聞かせるほどに……。書状にも書いたが、オージンとサツキが出奔したようなのじゃ。しかも、魔吸石が4つ無くなっておるのと、秘蔵のプリルの石も無くなっておるのじゃ。屋敷と宝物庫は厳重に見張られておったので、逃げることなど困難であったのじゃが……。魔吸石とプリルの石が国外に持ち出されたとなると、この先よからぬことが起こる可能性があるのじゃ。それゆえに、貴殿には書状を遣わして注意を呼びかけたのじゃが……。ただ、このゼザがオージンらの姿を見たと言うので、ここで話を聞いておったのじゃが、皆目わからぬのじゃよ」


「わからない、とはどういうことでしょうか? そういうこともあろうかと、妻のコンシディーを連れて来ました。彼女は素晴らしい洞察力の持ち主です。もしかしたら、お力になれるかもしれません」


帝様はシディーを見て、ゆっくりと微笑む。そして再びゼザに視線を向けて、優しく口を開いた。


「ゼザ、ご苦労じゃが、先ほど話したことをもう一度聞かせてくりゃ」


ゼザは畏まりましたと、シャキッと背筋を伸ばし、両手を前に突き出して、もの凄い速さでまくし立てる。


「昨夜、パチッときまして、うあっとなりまして、パッとして、サッ、ストンとしました。そして、トントントン、キュッ、トントントンで、あれ? でして、カリカリ、ぐるーん、サッ、パッパッパッ、ずあーん、ふぁさ、だったのです!」


……宇宙の言葉を喋っていやがるのか? ってか、マジでいい加減にしろよ?


俺は一瞬、右手に魔力を込めようとしたが何とか思い直し、隣のシディーにゆっくりと視線を移した。

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