第二十八話 臭いものには蓋をしない
ユニコーンペガサスが手に入った。いや、仲間になったと言った方がいいだろうか。早速、この「イリモ」のステータスをチェックしてみる。あ、ついでに、俺のステータスもチェックしてみると、役職名が「大魔王」から「結界師」に戻っていた。よかったよかった。
イリモ(ユニコーンペガサス・4歳=人間年齢;12歳) LV19
HP:89
MP:1003
結界魔法 LV1
MP回復 LV1
気配探知 LV3
魔力探知 LV3
肉体強化 LV3
回避 LV1
教養 LV1
麻痺耐性 LV3
毒耐性 LV3
飛翔 LV2
おおう!MPが半端ない。探知系の能力が優れているので、どちらかと言えば斥候向きのスキルだ。攻撃するのであれば、頑丈な肉体を使っての突撃くらいしかないため、間違ってもこの馬が前線に出ると生きては帰れないだろう。むしろ、前線から一番遠い所での情報収集に使った方が効果的だ。まさに、大将が乗る馬そのものである。
ついでに、狐・ゴンのスキルも鑑定した。こんな感じだ。
ゴン(白狐・213歳) LV39
HP:159
MP:879
結界魔法 LV3
火魔法 LV3
回復魔法 LV4
生活魔法 LV1
詠唱 LV3
鑑定魔法 LV4
MP回復 LV1
気配探知 LV3
魔力探知 LV3
教養 LV5
麻痺耐性 LV2
毒耐性 LV2
精神耐性 LV3
加護 LV4
人化 LV2
隠密行動 LV5
教養と隠密をカンストしているので、さすがというべきか。こっそりご利益を与えることを考えれば、隠密行動のカンストはむしろ当然と言えるだろう。回復魔法のスキルも高いので、軍師としての役割なんかは適任だろう。
さて、「大魔王」からようやく普通の男の子に戻った俺。そこで一旦、王都に戻ってみることにした。その話を皆に提案すると、ゴンがこんなことを言い出した。
「王都に行くのであれば是非、王国軍本部に行きたいのでありますー」
どうやら王国軍本部の地下には、カルギ将軍の趣味である「魔物調教」の部屋があるらしい。しかも最近ではその規模を拡大しているそうで、何よりカルギの、「卵を人工ふ化して雛の状態から育てる」という手法は、一歩間違えば大惨事になる可能性があるという。現在保存されている魔物の卵が孵化し、それが逃げだすと、魔物によっては幼生体の段階でもかなりの被害が出る可能性があるらしい。かなり多くのワイバーンの卵をふ化し、調教していることは、王宮を占領した時の戦いを見ればわかる。もし、その他の魔物をまだ持っていたら?さらに強力な魔物を育てていたとしたら?そう考えると、今のうちにつぶしておく方が得策だろう。
取りあえず、マップで検索をかけてみる。・・・いた!魔物の反応が1匹。どうやら地下にいるようだ。
「今、俺の探知で調べると、確かに魔物が1匹いるようだ。これは排除した方がいいな」
「吾輩の探知では見えないでありますー。さすがでありますなー」
うふふ、見えないものを見ようとしてもダメなのだよ、ゴン君。
イリモに跨る。翼が邪魔になりそうだったのだが、これは小さく折りたためることが出来、一見すると翼の存在は分からないようになる。その機能性?に感心しつつ王都を目指す。ゴンは俺の背中に乗り、顔を俺の肩から出している状態だ。イリモの乗り心地は抜群によかった。体は少し小さいが、スピードが抜群に速い。まるで風に乗っているみたいだ。また、手綱を使う必要が全くない。俺が右に行きたいと思えば右に行き、左に行きたいと思えば左に行ってくれる。実に優秀な馬である。
「イリモが乗馬がとても上手だと褒めているでありますー。とても走りやすいと言っているでありますー」
エリルに教え込まれた乗馬スキルがこんなところで役に立った。乱暴な乗馬術で馬に負担をかけていないか少々気になっていたが、どうやらエリルの教えは正しかったようである。
森に逃げ込んだ時はかなりの時間をかけて移動したのだが、イリモにかかれば、ほんの小一時間程度で森を抜けることが出来た。
北門から王城に入る。既に日は傾きつつある。急がねば。前日に大魔王が降臨し、大騒ぎになったところなので、城内には誰もいない。これはラッキーだ。カルギの魔物が強力であった場合、王都の建物や市民にさらなる被害が出ることになるだろう。市民がいなければ、被害は建物だけでおさまる。臭いものに蓋をするのではなく、膿は全て出し切った方がいいだろう。今がチャンスだ。
王都軍本部に着く。門やドアには鍵は掛かっていなかったが、カルギの執務室には厳重にカギがかけられていたが、火魔法で溶かして焼き切る。その部屋の奥に、地下に通じる階段が隠されていた。コイツには結界魔法がかけられており、それは地下室全てに及んでいた。しかも探知されないように効果を付与されていた。これをかけた結界師はかなりの手練れであることはもちろんだが、かなりの魔力を消費して、大変だったであろう。おそらく宮廷結界師なのだろうが。
しかし、俺にかかれば解除は簡単である。宮廷結界師に敬意を表して、探知不能効果は残しつつ、入室の結界だけを解除した。そして、地下室に向かう。魔物がいるのは地下二階であるようだ。
地下一階部分は、魔物を収納するスペースだった。恐ろしく広いスペースに沢山の檻が並べられている。しかも、結界に効果が付与されているのか、何故か明るい。おそらくここにワイバーンを収納していたのだろう。驚くことにここにはもう一つの入り口があり、それはなんと、刑務所につながっていた。重罪を犯した犯罪人や粛清の対象となった人が、この通路を通ってワイバーンや首長竜の餌になっていたのだろう。
いよいよ地下二階に向かう。ここでは卵をふ化する場所であり、おびただしいほどの卵が保存されていた。これが全て羽化することを考えると、ゾッとする。全て焼却処分とした。
魔物がいるのは、その隣の部屋だ。扉に鍵はかけられていなかった。俺はゆっくりドアを開ける。
まず見えてきたのは、巨大な檻だった。ここだけは何故か暗い。しかもご丁寧なことに、この檻全体にも結界が張られており、触れると強烈な電流が流れる仕組みになっていた。一体どれだけヤバイものを飼っているんだ。取りあえず結界を解除する。
薄暗く、奥の方はよく見えない。俺は「ライト」を出して周囲を明るくしようとする。すると、檻の奥から声が聞こえた。
「グッ・・・グァ・・・」
近づいて見てみると、そこには想像を絶する生き物がいた。「ドラゴンの幼生体」である。




