第二十五話 いらっしゃいませこんにちはー
子狐は俺をじっと見据えて、震えている。いや、そんなに怖がらんでもええがな。おっちゃんはやさしいんやでぇ。と思ってはいるが、何といっても俺は大魔王だ。それは相当に怖いのだろう。
こんな子狐を食べようとは思わない。殺気も感じないし、殺気を殺したとしても、おそらく俺には勝てないだろう。まあ、こんなかわいい子狐に倒されるのなら、むしろ本望でさえある。でも、一応結界は張らせてもらうが。
放っておけばそのうちどこかに行くだろう。まあ何だ。大魔王以外にもドえらいステータスが、俺は山盛りだ。取りあえず、子狐の恐怖心を取り除くため、レベルの高いステータスと称号を片っ端から隠していく。
それに、何といっても白い狐だ。商売の神様かもしれない。取りあえず、お供え物をしてみるか。「無限収納」の中に入っている皿を出し、そこに今作ったぜんざいを入れて、子狐の前に差し出してみる。
「よかったら、食べな。口に合わないかもしれないけど。どうぞご利益がありますように」
パンパンと子狐に向かって柏手を打つ。子狐はキョトンとしている。俺が傍にいたら食べたいものも食べられないだろう。俺は踵を返し、そっと子狐から距離を取る。気配探知で探ってみると、恐る恐る近づいてきた子狐は、スンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ、そのままガツガツと食べているようだ。何だ、腹が減っていたのか。
足りなければお代わりあるぞと言おうとした時、俺の下に凄まじい速さで向かってくる生物がいる。どうやら人間が三人、向かっているらしい。色が赤なので、完全に敵対心を持っているようだ。
しばらく待っていると二頭の馬が近づいてくる。そして、何の躊躇もなく俺の前に突撃してきた。
ガィィィィン!!
俺の結界が馬を止める。よく見るとその馬には角があった。ユニコーンか?うぉっ、俺の結界に傷をつけてるじゃないか!これは同じ場所にあと200回くらい突撃されたら結界を破られるかもしれないな。
そんなことを考えていると、別のもう一人が俺の背後から
「もらったぁぁぁぁぁぁ!」
と馬上から斬撃を繰り出してくる。遅い。あっほみたいに遅い。結界を使うまでもなく、俺はやすやすとその斬撃を躱す。
「死ね!」
気が付くと背後にいたはずのユニコーンがいない。いや、ちゃんとわかっている。頭上だ。
後ろを見ると、馬に羽が生えている。そして目を血走らせた、まだ若い男が俺に剣を突き立てた。これも恐ろしく遅い。楽勝で躱す。
「禍々しい妖気を放っている割に、姿は人間なのだな。お前は何者だ?」
「やはり、大魔王とありますわ、殿下。魔王に間違いありません」
天馬に跨る男の後ろに、もう一人女が乗っている。妖艶さを漂わせていて、怪しさ満点である。俺が大魔王であることを見抜いたところを見ると、鑑定持ちか?三人のステータスをチェックする。
ヒーデータ・シュア・セアリアス(王族・16歳) LV14
HP:102
MP:47
剣術 LV2
肉体強化 LV1
回避 LV1
行儀作法 LV1
呪い LV2
ビスト・ザイ(帝国騎士・16歳)
HP:122
MP:39
剣術 LV2
肉体強化 LV2
回避 LV2
呪い LV2
ピャオラン(妖狐・487歳) LV47
HP:712
MP:1054
幻影術 LV4
回復魔法 LV3
火魔法 LV4
誘惑術 LV4
人化術 LV4
精神魔法 LV3
鑑定 LV4
呪い LV3
お一人様、ちょっと異質ですね?坊ちゃん二人は大したことはないが、「呪い」持ちである。三人ともあまりまともではなさそうだ。類は友を呼ぶってか?
天馬がゆっくりと地上に降りる。
「スキルはいくつかありますが、どれも低いものばかりです。我々でかかれば楽勝ですわ」
「大魔王がなぜそんなに弱いと言える?これだけの禍々しい妖気を放っているというのに」
「おそらく、生誕して間もないのですわ。まだ覚醒前のようですわ」
「フッ、フッフッフッ。いいぞいいぞ!俺はツイているな。まさか覚醒前の大魔王に巡り合えるとは!コイツの首を持ち帰れば、俺は間違いなく次期皇帝だな!」
「ヒャッハー!コイツはめでたい!!殺しましょう!今すぐ殺しましょう!!」
久しぶりに人と話が出来ると思ったらこれか。全くロクでもないやつらばかりだな。うん?女が詠唱を始めている。この次期皇帝だとか何とか抜かしている坊主の後ろからこっそり攻撃しようとしていやがるな。さすが女狐。まあ、俺には効かんのだろうけど。
すると、女の肩に何かが落ちた。よく見ると、さっきの子狐だ。
詠唱中だったためか、女はかなり驚いて子狐を地面に叩きつける。そして、
「殿下!殺してください!」
「ダバ、やれ」
天馬の角が子狐の腹に突き立てられる。ブシュっと血が流れだす。さすがにこれは見過ごせない。俺は
「バースト」
と子狐の周囲に中規模の爆発を起こす。敵が一瞬ひるんだ隙に俺は子狐の下に行き、素早く回復魔法をかける。すぐに傷はふさがった。子狐は不思議そうな顔をして自分の腹を見ている。
俺は子狐の前に出る。こいつら三人は、お仕置きが必要だな。
「フッ、フフフフフ。お前の魔法はそんな程度か?それでは話にならんぞ?大人しく、死ね」
天馬が角を立てて突撃してくるが、当然のごとく俺の結界に阻まれる。そしてその直後、セアリアスの斬撃が俺の首に、そしてピャオランの巨大な火の玉が俺の頭をめがけて放たれる。
俺は左手でセアリアスの剣を叩き折り、右手でピャオランの火魔法を水魔法で消火した。そして同時に、ピャオランにLV5の火魔法、「灼熱弾」を放った。極限まで圧縮された炎のため透明であり、大きさは3センチくらい。そんな火の玉が超高速で飛んでいくのだ。この至近距離からは躱せない。馬から身を乗り出していたため、ピャオランの左手と左足が蒸発する。本人は足と腕が消えたと思うだろう。その瞬間、傷口から炎が立ち上る。こちらからは、左手と左足から炎を噴き出しているように見える。
「ええっ?あっつ、うぎゃあああ!」
熱さと痛みがあとから襲ってくる。思わずピャオランは馬から転げ落ちる。
「ゴアァァァァ!」
角を突き立てていた天馬が、俺の頭に噛みついた。俺は「鬼切」を抜き、天馬の首を刎ねた。確かに手ごたえはあった。だが、天馬の首はつながったままだ。一瞬の間をおいて、天馬の様子が変わる。
「ヒ、ヒ、ヒ、ヒヒヒヒーーーーン!!!!」
と鳴き声を上げて暴れ始めた。セアリアスは何とか体勢を立て直そうとするが、馬が言うことを聞かない。
「ゴウァ!ゴウァ!ゴウァ!ゴアァァァ!」
およそ馬とは思えない鳴き声を上げて、体を激しく揺らす。セアリアスは馬から振り落とされ、地面に体を叩きつける。
「この、ダバめがぁ!」
セアリアスは天馬に思いっきり石をぶつけている。子供か。
「後ろもらったぁ!ヒャッハー!死ねぃ!」
背中からザイが斬りこんでくる。知っとるわい。ザイに背中を見せたままで、左手でザイの剣を掴む。そしてそのまま剣をへし折り、ザイの鼻っ柱に、強力な裏拳をぶっ放す。たたらを踏んでザイは後退した。
「おっ、おのれー!調子に乗りおって!貴様は全力でなければ倒せぬようだ。ザイ、抜剣を許可する」
セアリアスとザイが背中の剣を抜く。ほうと思わず声に出してしまったほどの美しさをたたえた剣だった。
「我がヒーデータ帝国に伝わる名剣だ。これで貴様は終わりだ」
何がどう終わりなのかよくわからんが、取り敢えずヘラヘラ笑いながら小さな声で「コロスコロスコロス」と呪文のように呟いているザイがうっとうしいので、問答無用に灼熱弾を発射する。一瞬でザイの左腕が蒸発し、左半身から炎が噴き出す。悲鳴を上げながら地面を転がるザイ。雉も鳴かずば撃たれまいに。
俺がザイに気を取られている隙に、セアリアスが斬りかかってくる。コイツも問答無用に「鬼切」でブッた斬る。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!」
「でっ、殿下あぁ!!」
叫び声を上げて森の中に消えていくセアリアス。その後ろを馬に乗り、器用に右手だけで操りながら追いかけていくザイの姿があった。その先には、多くの魔物がいるのだが・・・。まあいいか。
妖狐の姿がない。マップで探してみると、ヒーデータに向かって絶賛逃亡中のようだ。せっかくなので、覚えたての雷魔法を試してみることにした。妖狐を狙って、雷撃を放つ。妖狐が死ぬまで追いかけ続ける雷撃だ。名付けて「稲妻誘導」。マップで見ると、頑張って躱しているが・・・あっ当たった。それでも何とか避け続けている。まあ、頑張ってくれい。




