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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第一章 ジュカ王国編
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第二十二話  最後の命令

目が覚めると朝だった。一晩中眠り続けたらしい。


目の前には、昨日倒した首長竜が倒れている。目を剥き、口を大きく開けた凄まじい形相をしている。


「竜」と名の付く生き物の肉は美味であると言われている。しかし、ご主人様、師匠、エリルたちがこいつの胃袋に収まっているかと思うと、到底コイツの肉を食べる気にはならない。俺は首長竜に結界を張り、その中の温度を一気に上げていく。見る見るうちに竜の体が真っ赤になり、そして溶けだした。ドロドロのマグマのような状態になっていく。さらに温度を上げる。結界の中は数千度になっているだろうか。しばらくすると竜の体は蒸発し、完全になくなった。


俺は空に目を向け、静かに手を合わせた。


さて、これからどうするか。まずは、バーサーム家の屋敷に向かうことにする。


北門から王都に入る。鉄壁を誇る城壁も首長竜が暴れたことで、かなり損傷している。それだけでなく、家屋の被害もかなりひどい。おそらく怪我をした人も多くいるのではないか。


俺は貴族屋敷が立ち並ぶ東区域に足を向ける。昨日はエリルと一緒にこの道を通ったのだ。そんなことを思いながら俺はバーサーム家の屋敷を目指す。


昨日の騒乱の影響か、兵士は一人もおらず、全く人の気配もしない。人の気配を探ってみるが、何も感じない。本当にこの区域には誰もいないようだ。


建物への被害はほとんどなかったらしい。いつものような街並みだ。しかし、人の気配が全くしないので、かなり違和感のある雰囲気ではあるのだが。


しばらく歩くと、バーサーム家の屋敷に着いた。いつもと変わらぬ門があり、もう少し待っていれば、メイドさんたちが「お帰りリノス」と出てきてくれそうな気がする。


門は簡単に開いた。そして、屋敷の中に入る。


玄関から数メートル先から、何もなくなっていた。ご主人様の部屋も、師匠の部屋も、二階の俺とエリルの部屋も、全てなくなっていた。玄関ホールの右側にあるダイニングと、その隣の厨房だけが原形をとどめていた。


俺はダイニングに向かう。昨日、あんな騒乱があったとは思えぬほどに、いつもの通り整頓され清潔さを保っている。ここが無事だったのは幸いだ。なぜならここにバーサーム家の宝物庫があるからだ。奴隷時代にエルザ様からは、バーサーム家に万が一のことがあった場合や、侯爵とエルザ様の二人の帰宅が連絡なく7日以上に及ぶ時は、宝物庫から収納物を全て持ち出せ、と命令されていた。俺は、主人の最後の命令を実行することにしたのだ。


宝物庫の入り口は、暖炉である。


当然、冬にパーティーが開かれる際は、この暖炉は大活躍する。大勢の招待客に暖を提供することはもちろん、この中で焼かれるローストビーフは、バーサーム家の名物なのである。


その暖炉の側面には、小さなガラスがはめ込まれている。よくよく注意してみないとわからないくらいに小さいガラスだが、そこに魔力を通すと、暖炉が動いていく。コイツの優れものは、許可された人間の魔力でしか開くことが出来ず、許可のない人間の気配を探知すると開かないという優れものだ。


俺はそのガラスに向かって魔力を送る。実際俺も宝物庫に入るのは初めてなので、ちょっと不安であったが、音もなく暖炉は動き、その下からは、人ひとりが通れるほどに狭い階段が現れた。


階段を降りると、すぐに入り口が閉ざされる。その先にある部屋、そこが宝物庫だ。生活魔法の「ライト」を発動し、辺りを明るくする。宝物庫のドアには、ドラゴンが大きな口を開けている彫刻が施されており、俺はその口に顔をよせ、合言葉を口にする。


「扉よ、開け。「ワカリマセン」」


ガチャリ、と開錠される音が響く。俺は注意深くその扉を開けた。


中に収納されていたのは、二本の剣と銀色のローブだった。


俺はそれを「無限収納」に収納する。


再び階段を上る。登り口の壁に、小さく光るガラス玉がある。そこに魔力を注ぐ。再び暖炉が動いて、俺はダイニングに戻る。


ふと気になったので、ダイニングの奥にある厨房に向かう。厨房には食器が整然と整頓され、全く乱れはない。地下に貯蔵されている食料も、全く乱れはなくそのままだった。それらの食料と食器、料理道具などすべてを、俺は「無限収納」に入れて屋敷を後にした。


もう人は住めない状態ではあるが、一応俺は、屋敷に結界をかけておいた。8年間も過ごした「我が家」なのである。どうしても、他人に触れられるのがイヤだったのだ。


俺は、西門に向かって歩き出す。首長竜とかなり暴れたので、被害は甚大だ。商人街や住宅地のほとんどが被害を受けているだろう。負傷者がいれば回復魔法をかけて回ろうと思ったのだ。


しかし、王都内は誰もいなかった。全く生き物の気配がしないのだ。


北門に向かって歩を進めるが、誰もいない。しばらく歩いていると、北門の外に人の気配を感じる。急いで北門を出て、気配のある方に向かう。


そこには、50名ほどの市民がいた。ケガをしている人もいる。武器を携帯している人もいる。おそらく昨日の騒乱で、王都の外に避難をした人たちなのだろう。まずは、けが人を治療しなければ。


「みなさん、大丈夫ですか?怪我をしている人は私が・・・」


「うわぁ!」「ぎゃぁあ!」「ひぃぃぃぃーーー!」


俺が近づいていくと、何故かパニックが起こる。腰が抜けてしまっている人もいる。全員が、何故か俺を凝視している。俺の後ろに、何かあるのか?


振り返ってみると、そこにはいつものようにルノアの森があるだけだった。


不意に俺の傍に矢が落ちる。振り返ってみると、男たちがものすごい形相で俺に弓を向けている。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「うぁああああああ!来るな!来るなぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


狂ったように矢が放たれる。あまりの光景に驚いた俺は全力で、ルノアの森に向かって逃げた。

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