第二十一話 激闘!首長竜
「ふぅー」
ゆっくりと息を吐く。巨大岩となった王宮をじっと見る。かなりのMPを込めて結界を張ったのだが、全く減っている感じがしない。むしろ、頭も体も、絶好調だ。少しずつ、気分が高揚していくのがわかる。
「ゴルァーァァァァァァァァァァーーーーーーーー」
突然、俺の脇腹に衝撃を感じる。見ると、首長竜が俺の脇腹に食いついている。そのまま長い首を左右に振る。俺の体が空中を踊る。そのままさらに首の動きを加速させた。
当然、首長竜の顔は、俺の体もろとも商人街の建物や西側の城壁にぶつかり、街を破壊していく。そして俺を銜えたまま飛び上がり、かなりの速さで飛行しながら大きく首を振る。城壁と街の破壊に拍車がかかる。そのまま北門の城壁を越え、俺の体を地面に叩きつけた。それに飽き足らず首長竜は、倒れている俺に向かって強烈なブレスを吐き出したのだった。
大爆発と共に、周辺一帯が煙に覆われる。俺の姿を探す首長竜。煙の中から現れた俺は、全くの無傷だった。
当然である。俺は薄いが、最高硬度を誇る結界を張っている。首長竜ごときの攻撃を通すほどヤワではない。
それでも、狂ったように俺の頭を噛みまくる。おそらく俺の体は噛みきれず、必殺のブレスも通用しないと認識した首長竜は、俺を頭から持ち上げようとしている。俺を無理やり飲み込もうとしているのだ。
しかし、首長竜の動きが止まる。俺は首長竜の口から頭を出して距離を取る。そして、魔力を込める。
「ギギギギギーーーーーーバキッ、バキッ!!パキィィン!!」
素早く首長竜がすっぽり入る結界を張ったのだ。そして結界をそのまま圧縮する。最初こそ耐えていたが、やがて限界が来たと見えて、龍の鱗が粉砕されていく。
「ゴルァアアアアアア!!!ゴルァアアアアアアア!!ゴルアァァァァァァァァー!!!」
必死の叫び声を上げる。何とか脱出しようと体を動かそうとするが、俺の結界はビクともしない。尻尾、後ろ足、前足が潰れていく。
「よくもご主人様たちを!エリルを!師匠を!殿下を!食らいやがってぇぇぇぇ!お前だけは許さん!街も丸ごと破壊しやがって!お前は殺すっ!しかし、楽には殺さんからなぁぁぁぁ!!!!」
「体の半分が潰れちまったなぁ。これは殿下の痛みだ、よく味わえ!」
首長竜の声が消えたのを合図に、俺は竜を全回復させる。当然欠損部分も回復させる。傷と痛みが一瞬で無くなったことに驚いた竜であったが、再びその瞳には憎悪の光が浮かび上がる。
「ドン!ドン!ドン!ドン!」
竜の四本の手と足がそれぞれ爆発し、飛散する。竜の凄まじい叫び声が響き渡る、俺は手を緩めずに、両目、角、牙を順に爆発させていく。
「クルアァァッ!クルアァァッ!クルアァァッ!クルアァァッ!」
「目も見えず、鼻も効かず、痛みだけしか残らないだろう?師匠の痛みだ、じっくり味わえ!」
再び竜が動かなくなる。俺は回復魔法をかける。一瞬で傷が治癒される。
まだまだ俺は満足しない。今度は竜の頭の部分の結界を解除し、残りの部分の結界の温度を上昇させる。生き物の中で最高硬度を誇る竜の鱗が真っ赤に灼熱し、その体を焼き尽くしていく。首だけ動かして、必死に逃げようとする首長竜が哀れである。
「クルアァァァァン!クルアァァァァァーン!クルアァァァァァァァーーーーーーン!!」
「「クルァァァァーン」か、面白い鳴き方をするな。うん?お前泣いてんのか?」
首長竜は涙を流しながら必死で逃げようとする。もはや竜は俺を見ていない。ひたすら逃げようともがいている。
黒かった首長竜の鱗が真っ赤に焼けただれている。そして俺は三度、首長竜に回復魔法をかけて、すべての傷を治癒していく。
竜という生き物は、誇り高き生き物であるとされる。しかし、目の前の竜は、涙を流し、怯え、ひたすら逃げようとする哀れな生き物だ。もはやこいつは、竜ではない。
「今のはエリルの悔しさと痛みだ。どうだ?痛みがないってのは至福だろう?最後に、ご主人様たちの苦しみを味わって、死ね!」
竜の全身を結界で多い、その中の空気を抜き、真空状態にしていく。
水中でも生息可能な首長竜であるが、さすがに空気がない状態では生きられない。しばらくは何とか耐えていたものの少しずつ苦しみはじめ、体が震えてきたかと思えば、徐々に瞳孔が開いてくる。最後に目がカッと開かれたと同時に体がビクンと震え、龍の目から光が失われた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ざまぁみやがれ!」
首長竜が完全に息絶えたことを確認し、ゆっくりと息を吐く。さすがに今度は限界までMPを使った気がする。眠いし、けだるい。
「仇は、取りましたよ」
そうつぶやきつつ俺は、ゆっくりと草原に倒れていき、深い眠りについたのであった。




