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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第一章 ジュカ王国編
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第二十話  カルギ元帥

シゲア・カルギ。68歳。ジュカ王国軍の将軍であり、「元帥」の称号を持つ歴戦の戦士である。


「お爺様のようにおなりなさい。軍人たるものは、決して負けていけません。敗北は死です」


大好きなお婆様は毎日、こう言い聞かせた。敗北は死・・・。子供心に、この言葉は強く残った。


カルギが生まれたシゲア家は代々、王国騎士として国王に仕えてきた家系である。カルギの祖父は、ルノアの森から大量発生した魔物を、少数の精鋭部隊を率いて見事に討伐を果たした英雄である。


そんな祖父がカルギは大好きだった。大きな体をゆすりながら豪快に笑う愛嬌のある一方で、一たび剣を握れば鬼神のごとく敵を打ち倒していく。そんな祖父の膝に抱かれ、照れくさそうに語る自身の武勇伝を聞く時間が、何よりも好きだった。


そんな英雄も、人生の終焉を迎える。病を得、屈強な体は見る影もなくやせ細り、苦しそうな咳をしながら病床に伏せる祖父。そしていよいよ臨終というその時、カルギに優しく微笑みかけながら、「強く生きよ」と言い残してこの世を去ったのだ。


あの強かった祖父でも死ぬのだ。わずか6歳だったカルギは、「死」というものを異常に恐れるようになった。


死なないようにするためにはどうすればいい?そんなことを考える毎日が続いた。そして、祖父の1周忌が行われたその日、カルギは祖父の遺言を思い出した。


「強く生きよ」


お爺様は弱かったのだ。お婆様は敗北は死と仰った。弱かったので死んだ。だから、強くなければならない。強ければ、死ぬことはない。わずか7歳のカルギは、そう決意した。


王立学校に入ってからのカルギは、常にトップであり続けた。剣をふるえば上級生にも負けず、魔物狩りでの模擬戦では、誰よりも魔物を狩った。


加えてカルギには、一つの才能があった。人を育てるのが上手だったのだ。一目見ると、この人は自分の役に立つのか立たないのかが、何となくわかった。役に立つ、と判断した人間に対しては、様々に手を貸した。自分よりできる人間に対してはその才能を褒め、そしてそれを身に着けようと努力する。一方で、自分よりできない人間に対しては、できるようになるまで何度でも手を貸し続けた。


気が付けばカルギは、王立学校の中で押しも押されもせぬ存在になっていたのである。


そんなカルギに、一人の同級生がいた。その名を、バーサーム。後のバーサーム侯爵である。


代々高名な魔術師を輩出してきたバーサーム家は、武力を基本とするカルギのシゲア家と「王国の両翼」と称される家である。しかし、このバーサームの坊ちゃんは、魔術があまり上手くなく、ましてや剣術などの武力はからっきしだった。猫背で姿勢が悪く、ヒョロヒョロと痩せた青い顔で、本ばかり読んでいる男だった。


カルギはこのバーサーム家の坊ちゃんを、歯牙にもかけなかった。自分にとって役に立たない、そう本能は教えていたからだ。


成人し、王国軍に入っても、カルギは順調に昇進していった。15歳の時などは、結婚を申し込む家が数十家に上った。対してバーサームの坊ちゃんは王宮に勤務し、カルギと同じ15歳の時に、同じ侯爵家の六女と結婚をした。侯爵家、といっても六女であり、社交界で何度か見かけたものの、キッと睨むような、意志の強そうな目をしたこの女は、カルギの好みではなかった。青白いヒョロヒョロの男と目つきの悪い女、これはこれで似合いだと、仲間内で笑い合ったのだ。


17歳で父となり、その後、昇進を重ねるにつれて側室と子供が増えていった。対してバーサーム夫婦はようやく子供を授かったものの、赤子はすぐに夭折した。カルギはこれも、弱い親から弱い子が生まれたためだと解釈したのだった。


ある時、隣国のヒーデータ国境軍が越境し、近隣の町から略奪するという事件が起こった。すぐさまカルギは軍を率いて向かい、見事な統率力でヒーデータの軍を壊滅させたのであった。


この武勇は近隣諸国に鳴り響き、カルギの名声はさらに高まったのであった。


軍団長となってからのカルギは、王国軍の教育にのめり込んだ。一人が強くてもいけない。強い兵士は強い国につながる。国が強くなれば滅ぶことはない。そう、「死ななくなる」のだ。


カルギの教育は、よく言えば効率的、悪く言えばスパルタであった。さすがに全軍とまではいかなかったが、自分の直属の部下に関しては、かなり厳しい訓練を課した。例えば、少数の部隊を編成し、ワイバーンの巣から卵をとってくる、といった、死ぬ可能性が極めて高い訓練を実施した。当然、ワイバーンの餌になる者も出たが、不思議に死ぬどころか怪我さえしない者がほとんどであった。


結果的にこうした苛酷な訓練は、兵士の質を飛躍的に向上させた。そして、カルギの軍団=王国最強軍団として国内で認知されるようになった。


一方で、持ち帰られた魔物の卵は、カルギ家の食卓に並ぶことになった。ある時、森の川の中で首長龍の幼生体と思われる魔物を発見した。魔物自体は簡単に討伐できたのだが、生命力が強く、なかなか絶命しなかった。戯れに屋敷に連れ帰り、この首長龍に教育を施してみた。教育といっても、言うことを聞けば褒めて水と食料を与える、言うことを聞かなければ、絶命する寸前まで水と食料を与えなかっただけのことだったのだが。


首長龍は獰猛と言われているが、この教育は意外に成功し、カルギの命令に忠実に従う魔獣となった。それからこの、「魔物教育」に興味を示すようになったカルギは、訓練の一環で持ち帰られたワイバーンの卵をふ化させ、幼生体から徹底して自分の従魔となるよう教育を施すことを生きがいとするようになった。


後宮に籠って政務を顧みない国王に対しては、自分の妻を後宮の最高責任者たる女官長として送り込み、そこから上奏を行った。閨房での国王は、何の疑問も持たず、妻から伝えられる上奏に対して無条件で承認を与えるのであった。


カルギの上奏はすべて許可される―そうした評価は、最終的にカルギを王国軍の頂点に押し上げた。「元帥」の称号を与えられたカルギは、これからの洋々として開かれた未来が訪れることを、何の疑問も持たなかった。


一方で、侯爵を襲爵したバーサームは、王宮内において秘かに勢力を拡大しつつあった。魔術も、武力も適性のなかった彼であるが、事務作業に対しては天才的な才覚を発揮した。夥しいほどの書類を迅速にかつ丁寧に処理し、非常に効率的な法令を考え出す。気が付けばバーサーム侯爵は、王国内の財務と総務を一手に引き受ける、大宰相となっていたのである。


国王を押さえているカルギには、そんなバーサームの台頭は目の中に入らなかった。しかし、バーサーム侯爵は妻を幼い王太子の家庭教師として送り込み、次期国王の教育を担うことになった。


それから数年、ある時、王国軍の増員を巡って、カルギとバーサームは対立したことがあった。


「王国軍はもっと増兵するべきだ。ヒーデータは我が国の倍の兵数を保有している。このままでは、ヒーデータに攻め込まれれば壊滅する」


「ヒーデータは一昨年の凶作以来、兵站に余裕がありません。侵攻は無理でしょう」


「それならばむしろ好機だ。ヒーデータに攻め込み、領土を拡張するべきだ」


「ヒーデータに攻め込んだところで、占領地を維持できません。王国の兵站も限界があります」


「何をバカな!食料などは周辺から奪い取ればいいのだ!」


「領民の支持無くして国は運営できません。まずは王国の国力を高めるのが得策です」


「・・・侯爵の意見に賛成だな。増兵は見送りだ」


会議を打ち切ったのは王太子だ。他の閣僚も同意してしまっている。自分の意見が通らない、初めて感じた屈辱であった。


王太子が摂政に就任してから、ますますカルギの言は遠ざけられるようになった。この世は強いものが勝つ。強いものが弱いものに勝って欲しいものを奪う。そんな簡単なことがなぜわからない。カルギの焦燥は深まるばかりだった。


バーサーム家には優秀な結界師がいるらしい。カルギはこの結界師を用いて他国に侵略する作戦を立てた。しかし、あっさり却下された。


「リノスに結界を張らせて他国に侵略するのは無謀だよ。リノスのMPが切れたら終わりだよ?第一、一部の地域を占領してどうするんだい?リノスは王宮において、王宮守護の結界師として用いるよ」


バカな。攻める手があるのになぜ攻めない。戦いのイロハも知らぬヒヨっこが勝手なことを言いおって・・・カルギの怒りは頂点に達しようとしていた。


ある時ふと鏡に映る自分の姿を見た。髪は白髪になり、祖父の面影によく似てきた。思えば祖父の年齢を超えている。あと何年生きられるのか。この国は危うい。なんとかしなければ。そう思ったカルギは、決断を下した。


弱きものが、国を弱くする。ならば、その弱きものを取り除かねばならない。


行動は素早かった。日頃から兄の国王を蔑んで憚らない王弟は、あっさり王国軍に加わった。そして、王宮内にエルザとファルコがいるという報を聞くや、八万の王国軍は、カルギの手足のごとく行動を起こす。


占領作戦は思った以上に順調に成功した。反対派の貴族や王族や王妃、側室たちが次々に捕らえられている最中も、国王は年端もいかぬ少女達との行為をやめることはなく、結果的に全裸での連行となったのである。


最大の障害は大魔導士のファルコであったが、こちらは、マドイセンに始末をさせた。いきなり腕を斬り落としたため、さしもの大魔導士も魔法を発することができず、致命傷に近い傷を負わすことにはなったか、ほぼ被害もなく捕らえることができた。


邪魔な存在はすべて消すことができた。この結界師も殺さねばならないだろう。大魔導士と結界師を失うのは痛かったが、それは何とでもなるだろう。強くなるのだ。強くなれば死ぬことはない。自分も、国も。そう思い、自分の未来を想像し始めたカルギが見たものは・・・崩壊していく建物だった。


「リノス、やめろ!跪け!跪け!」


隣のワイトンの絶叫が聞こえる。何故?その原因を考える間もなく、カルギは建物の波に呑まれ、意識を失った。


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― 新着の感想 ―
政治がわからん脳筋が、阿呆なことほざいてますねーw
[一言] いやほんと クソッタレだ! 単行本出てるの見て懐かしく130まで読んでたこの作品に戻ってきたらめちゃめちゃ更新されててびびったよねw
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